敬天の変(西郷隆盛による反乱)
《西郷隆盛》
土地ちゅうもんは民の血であり、根でごわす。
それを売り払わせ、
流れやすか金へと変え、
その行く末を利欲に走る者どもへ委ね申すとは――
まっこて、嘆かわしか。
厚生省とやら、
表向きは民を救う舟のごとく装いながら、
その実、士の魂を鈍らせ、
国の芯を私利私欲の火で燻らせる仕組みにほかなりもはん。
このまま放っておけば、
形ばかりの富は積み上がろうとも、
魂なき国となり果て、
やがて人の道を失い申す。
そんな国がたとえ外つ国と競い勝ったとて、
何の値打ちがあり申そうか。
命を捨てることは惜しゅうもございもはん。
されど、正しき道の火だけは断じて消してはならん。
今こそ立ち上がり、
この不義と利欲に染まった仕組みを断ち、
道義のある世を示す時でごわす。
〈決起の現実〉
統合社会保障基金は、創設より日も浅かったが、土地と俸禄の買い取りによる急激な資金流入は、国家に未曾有の即応力を与えていた
集められた資金は滞ることなく、鉄道・道路・倉庫・通信へと重点投資され、兵站能力は飛躍的に向上
さらに、軍人年金・遺族保障の充実は、官軍の士気を著しく高めていた
西郷軍に参加した士族は、金銭的困窮ゆえではなく、あくまで「武士の道義」を最優先する、ごく少数の理想主義者に限られる
桐野利秋、篠原国幹、そしてその志を同じくする者たち――
彼らは、時代に抗うことを承知の上で、なお退かなかった
〈厚生省占拠〉
西郷ら決起隊は、限られた兵を率い、帝都へ進軍
厚生省本部を急襲し、これを占拠
だが官軍の対応は迅速であり、即座に包囲網が敷かれ、戦いは籠城戦へと移行する
決起隊の狙いは、統合社会保障基金の「破壊」と同士のさらなる決起であった
しかし彼らは、重大な一点を見誤っていた
基金は、
一つの金庫でも、
一つの建物でもない
それは、
全国の郵便局を通じて日々積み立てられ、
銀行網を経て産業へと流れ続ける「資金の流れ」そのものであった
西郷らは、
初めて「非物理的な敵」と対峙する
刀も、銃も、
この流れを止めることはできなかった。
〈民意の逆流〉
西郷は、
利に溺れる政府への不満、
士族の精神を忘れぬ者たちの共鳴、
そして市民の理解を期待していた
しかし、現実は逆であった
厚生省本部前には、基金擁護を掲げる市民集会が連日開かれ、その規模は日ごとに膨れ上がっていった
「我らの安堵を乱すな!」
「禄を金に換えて何が悪い!」
かつて西郷を敬慕した民衆が、今や彼に刃を向ける
《朝野新聞(号外)》
「西郷隆盛、厚生省占拠——市民、基金擁護の大集会」
本日未明、西郷隆盛以下百余名の決起隊、
厚生省本部を襲撃し、これを占拠せり。
西郷は「道義なき富は国を滅ぼす」との檄文を発し、基金制度の廃止を要求。
然れども市民の反応は、意外なるものなり。
厚生省前には数千の市民が参集し、
「西郷を討て」
「我らの安堵を乱すな」
との怒号、天を衝く。
ある商人は
「禄を金に換えて何が悪い。武士の時代は終わったのだ」
と叫び、拍手喝采を浴びたり。
かつて薩摩の英雄として崇められし西郷、今や市民の敵となる。
これぞ時代の皮肉と言うべきか。
《西郷隆盛》
……笑止なこつよ。
民の声は、
今や「西郷を討て」と叫んでおる。
かつて彼らが求めた“安堵”と“救い”が、
今度は我ら“道義の士”を討つ刃となり申した。
禄を金に換え、
土地を資本となし、
その「運用益」ち申す鎖で、
民の心を御政道につなぎ留めたのでごわす。
武士の魂までも商人の算盤にかけたちゅうわけじゃ。
その仕組みは鉄砲隊よりなお強く、
我らが道義を根っこから奪い去り申した。
結局、我らは「経済」ちゅう
近代の化物を最後まで読み切れなんだ。
この国は“利”を選び申した。
その現実、もはや認めざるを得ん。
じゃっどん、我らの死は徒やございもはん。
いつの日か、この「金で得る安堵」が国を迷わす時が来る。
その折、人々は悟るであろう。
道義なき富の虚しさを。
ゆえに我らは“利”に敗れし“誠”の存在を、
この帝都の中枢に血の証として刻みつけ申す。
敬天愛人――
我が命、
この国の未来に通ずる「道」の礎とならん。
人質は解放されたが、決起隊は自害し、厚生省本部は火がかけられ、帳簿などの記録が焼失し、市民、政府とも大混乱
全力で立て直すべく郵便局という分散ネットワークの末端に残っている記録をかき集め、再建に務める
だがその再建の際に少なくない不正がみつかる
・基金の複雑な仕組み(運用益、非課税など)を完全に理解していない末端の郵便局員や地方の役人による単純な記録ミスや計算誤り
・ 士族への俸禄買い取り金の現金化の際に、高額の現金を狙った地方の役人や郵便局員の横領
・ 基金の地方投資案件(例:地方鉄道敷設、水利事業)の際に、地方出身の金融家や地元の有力者が、不当に有利な条件で融資を受けたり、土地の評価額を操作したりした不正
西郷隆盛の「利に溺れた仕組みは必ず腐敗する」という警告が、皮肉にも死後に証明される
《渋沢栄一》
「西郷先生、貴方は正しかったのかもしれぬ。我々が作ったのは、確かに『利』の鎖だ。だが、この鎖がなければ、民は今日食べる米にも事欠き、異国の軍靴に怯える日々を送っていたのだ。貴方の『誠』は、我々がこの膨大な富を正しく使うための『重石』として、永久にこの省の礎に留めておきましょう。」
《大阪の商人・井上由蔵》
「西郷先生には申し訳ないが、私は基金を支持する。私の父は貧しい商人で、病気で早死にした。もし基金があれば、父は助かったかもしれない。武士の誇り? それは立派だが、誇りだけでは腹は膨れぬ。西郷先生は『利に溺れる』と言うが、利がなければ民は死ぬのだ。ただし、不正があったと聞く。これは許せん。基金が腐敗すれば、西郷先生の警告が現実になる。だからこそ、我々市民が監視せねばならぬ。」
《熊本の元士族・坂本勘助》
「西郷先生に従いたかった。だが、私には妻と子がいる。基金の年金がなければ、家族を養えない。私は卑怯者だ。武士の魂を金で売った。だが、それでも家族を守りたい。これが人間の弱さというものか。西郷先生、許してください。貴方の死を無駄にしないために、私は基金を監視する側に回ります。」
史実の西南戦争が基金による禄の買取により士族の不満がトーンダウンし「乱」レベルになりました
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