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統合社会保障制度

「人は不安を抱えたまま未来を選ぶ時、真に自由ではない」


貧困、病、老い、子の行く末――


これらへの不安は、人間をして祈らせ、権威に縋らせ、時に他者を憎ませ、戦争さえも正当化してきた


不安とは、個人の内面に宿る感情であると同時に、社会を歪め、国家を暴走させる構造的要因でもある


では、国家とは何のために存在するのか


富を集めるためか

力を誇示するためか



国家とは本来、人間が生存不安から解放された状態で、自らの人生を選択できるようにするための、制度化された安全保障装置であるべきではないのか


この問いに、日本は真正面から答えようとした


1875年5月2日

全ては、この日に始まった


「一銭を積みて万世を興す」


近代国家としての体裁を整えつつあった日本の財政は、決して健全とは言えなかった

殖産興業は緒についたばかりで、富国強兵の理念だけが先行し、国家予算は日々の運営に追われ、慢性的な疲弊状態にあった

岩倉使節団が欧米で目にしたのは、単なる「先進文明」ではない

そこには、豊かさの裏側で切り捨てられた現実があった

ロンドンの下町には、アヘンに溺れる労働者が溢れ、

パリではスラムに押し込められた民衆が希望を失い、

ロシアの農村では、貧困と絶望が革命の種として静かに燻っていた


彼らが見たのは、

「豊かでありながら、不安によって人生を縛られた社会」である


資本主義は、確かに富を生んだ

しかし同時に、老い、病、失業、教育への不安を個人に押し付け、

その不安が宗教と革命へと人々を追い込む構造も生み出していた


岩倉具視、木戸孝允らは悟った


富国強兵だけでは足りない

民が「縋らずに立っていられる」基盤がなければ、国家は必ず歪む

その結論は、極めて明確だった

不安を個人に押し付ける国家は、いずれ民を敵に回す

不安を制度で引き受ける国家だけが、長期的な安定を得られる


この思想を具体的な制度へと落とし込むため、

岩倉具視・木戸孝允の要請を受けた渋沢栄一は、前島密とともに動いた


集められたのは、当時の日本における、国家・経済・軍事・教育・技術の中枢を担う人材だった


岩崎弥太郎(三菱)

三井高福(三井)

安田善次郎(安田)

益田孝(貿易・商業)

大久保利通、伊藤博文、大隈重信、井上馨、松方正義(政界)

榎本武揚、山縣有朋、大山巌、川村純義(軍・官)

福沢諭吉、新島襄、中村正直、西村茂樹(教育・思想)

田中久重(工学・製造)

三条実美(国家運営)


西郷従道、黒田清隆ら薩摩・長州の重鎮

彼らの合意によって、日本は世界に先駆けて厚生省を設立する


それは、単なる貯蓄制度ではなかった

生存リスク・教育リスク・老後リスク・国家存続リスクを、一体で引き受ける制度


積立型

投資型

国家保証型


人類史上、前例のない「統合社会保障制度」の誕生である


18歳から60歳までを原則加入対象(希望により15歳〜70歳まで拡張)

拠出額は個人が自由に設定

最低義務:月1円(当時)

上限:設定なし

※2025年基準では最低義務 月2万円


元本は国家が保証

不足時は国債で補填

初期国債は土地・禄の買い取りを目的とする「厚生省設立公債」のみに限定

以後、元本保証以外の国債発行は原則禁止

掛金は全額所得控除

利息・配当・売却益は完全非課税

受給時も各種控除を適用

全国の郵便局で取り扱い(後に主要銀行へ拡張)


この基金は、国営の統合社会保障基金として運営され、

次の優先順位で投資が行われた


社会インフラ(鉄道・道路・通信)

教育(大学・工学校・教授招聘)

国内企業(重工業・電機・化学・海運)

技術開発(通信・医療・精密工学)

少子化対策(出生奨励金・保育無償化)

円の安定と有事備蓄を兼ねた金準備の累積


それは、富を増やすための制度だけではなく、不安を減らすための制度だった


人が不安ではなく、意志によって未来を選ぶために


国家が、短期の繁栄ではなく、万世の安定を選ぶために


1875年5月2日

日本は、国家の定義を書き換えようとしたのである



《渋沢栄一》

「民の蓄えは国の基なり。官はその富を費さず、活かして巡らすべし。福祉とは施しではない。民が力を蓄え、国が再び興るための投資である。これは金融ではなく、信義の経済である。民の望む所を官が形にし、官の企てる所を民が是認する。この呼吸が合うてこそ、一銭の積立は万世の宝となる。二つの路はいずれも、国民という『合本がっぽん』の主人のためのものであらねばならぬ。」


《岩倉具視》

「欧米は強い。だが、幸福ではない。欧米に追いつくとは、街を飾ることではない。民の老いと病と幼きを、国家がどう引き受けるか。そこに文明の真価がある。」


《木戸孝允》

「憲法より先に、国民の“安心して生きられる時間”を制度化せねばならぬ。自由とは、明日の不安から解放されてこそ成立する。」


《大久保利通》

「これは福祉ではない。国家防衛だ。兵を鍛える前に、国家の“体力”を鍛えねばならぬ。病める国民、貧する家族、学なき若者――それらは全て、将来の戦力喪失である。」


《大隈重信(参議・大蔵卿)》

「ハッハ、これは痛快だ! 岩倉公や木戸さんは内治を説くが、これは最高級の外政でもある。外国から借金(外債)をせずとも、八百万の民の懐から無限の資本が湧き出す。イギリスの銀行家どもが顔を青くして、この極東の島国を見にくる日が目に浮かぶわい!」


《西郷隆盛》

「国が民の面倒を見る――それ自体は悪かことではなか。だが、その金はどこから来る? 士族の禄を削り、土地を奪うて作った金じゃなかか。綺麗事の裏で、誰が血ば流しちょるか、忘れちゃならん。」


《福沢諭吉(慶應義塾創設者)》

「一身独立して一国独立す、と私は説いてきた。だが今、国がこの制度によって問うているのは『独立とは何か』ということだ。真の独立とは、不安なく明日を選べることではないのか。貯蓄ではない、投資でもない──これは、国民が未来に対して持つ"権利"の制度化だ。私はこの試みを支持する。」


《与謝野晶子(歌人・社会運動家)》

「『君死にたまふことなかれ』と私は歌った。だが、この制度があれば、そもそも戦争など起こらぬのではないか。貧困が人を戦場に駆り立て、不安が国家を暴走させる。それを断ち切る制度――これは女性にとっても、母にとっても、希望の光だ。子を産み育てる不安が制度で支えられるなら、女性は不安ではなく愛によって母となれる。ただ、願わくば、この制度を支える投資先に、女子教育と女性の自立支援も含めてほしい。不安から解放されるべきは、男性だけではないのだから。」


《津田梅子(留学先・米)》

「日本が女子にも等しく教育の機会を与え、この新しい基金への加入を認めるなら、それは真の文明国への一歩となるでしょう。アメリカでさえ、女性の経済的自立は容易ではありません。日本がそれを制度として支えるなら、私は帰国して、その理念を教育の場で実現したいと思います。」


《内村鑑三(キリスト教思想家)》

「私はキリスト者として、この制度に複雑な思いを抱く。なぜなら、これは『神への信仰』を必要としない救済だからだ。人は恐怖から神に縋る。だが、もし恐怖が制度によって取り除かれたなら、人は神を必要としなくなるのではないか? ――いや、違う。真の信仰とは、恐怖による服従ではなく、自由による選択だ。この制度は、人々を『恐怖による偽りの信仰』から解放し、『自由による真の信仰』へと導く可能性を秘めている。神は、恐怖ではなく愛によって信じられるべきだ。その意味で、この制度は神の意志に適っている。」


《北里柴三郎(医学者・細菌学者)》

「医学は病を治すが、この制度は病になる恐怖そのものを治す。私は破傷風やペストの研究で多くの命を救ってきたが、それでも貧困ゆえに病院に来られず死んでいく人々を見てきた。この基金が医療に投資されるなら、予防医学と公衆衛生の革命が起こる。病院が全国に建ち、貧しい者も治療を受けられる――それは、私が夢見た『病なき社会』への第一歩だ。ただし、医療もまた投資である以上、成果を求められる。私たち医学者も、国民の信頼に応える責任がある。」


《前島密(郵便の父)》

「私はふみを運ぶ道を拓いたが、渋沢さんは『富』を運ぶ血管を造ろうとしている。全国の郵便局が、ただの便りの中継所ではなく、民衆の未来を預かる聖域となる。これは、名もなき農民の一銭が、海を越える鋼鉄の船に化ける奇跡の術だ。」


《津田真道(啓蒙学者・明六社)》

「西洋法学を学んだ私から見れば、この制度は『社会契約』の東洋的解釈である。ルソーは国家と個人の契約を説いたが、日本はそこに『時間軸』を加えた。現在の国民だけでなく、未来世代との契約でもある。法哲学的に極めて野心的な試みだ。ただし、契約は双方の合意があってこそ成立する。国家が一方的に『これが君たちのためだ』と押し付けるなら、それは契約ではなく命令だ。民の声をいかに汲み上げ続けるか——そこにこの制度の生命線がある。」


《北村透谷(文学者・評論家)》

「私は『内部生命論』において、人間の内なる精神の自由こそが文学の源泉だと説いてきた。この基金制度は、まさにその『内部生命』を解放する試みではないか。貧困や病への恐怖は、人の想像力を萎縮させる。芸術は、生存の不安から解放された精神からこそ生まれる。もしこの制度が本当に機能すれば、日本から新しい文学が、新しい芸術が、溢れ出すだろう。ただし——国家が精神の自由まで『管理』しようとするなら、それは芸術の死だ。制度は土台を提供するに留め、その上で何を築くかは個人に委ねられねばならない。」


《中村正直(啓蒙思想家・『西国立志編』訳者)》

「サミュエル・スマイルズの『自助論』を訳した私としては、複雑な思いがある。スマイルズは『天は自ら助くる者を助く』と説いた。個人の努力こそが成功の鍵だと。しかし、この基金は『国家が助ける』制度だ——一見、自助の精神に反するように見える。だが、考えてみれば、スマイルズの時代のイギリスにも、実は多くの社会的支援があった。完全な自助など、実は幻想なのだ。真の自助とは『孤立して戦う』ことではなく、『支えられながら自らの道を切り開く』ことではないか。この制度が、そうした『支えられた自助』を可能にするなら、私は支持する。」


《三井高福(三井財閥当主)》

「商家は代々、蓄えをもって不測に備えてきた。だが、それができるのは一握りの者だけだった。この制度が本当に機能すれば、民の購買力は安定し、市場は拡大する。慈善ではない、これは経済の基盤そのものを変える投資だ。」


《岩崎 弥太郎(三菱商会創始者)》

「……凄まじいな。渋沢の旦那、これでは三菱も三井も、この『巨大な海』の一部でしかなくなる。だが、それでいい。この基金が鉄道を敷き、船を造るというのなら、我ら商人はその船を誰よりも速く走らせるのみだ。日本という国そのものが、巨大な一社になるようなものだ。」


《田中久重(東芝創始者・「からくり儀右衛門」》

「技術を磨くには金がかかる。しかし、その金が『国民の老後を支えるための金』であるならば、我々技術者が造る機械の一つ、ネジの一つに込める責任の重さは、これまでとは比べものにならん。日本の工学は、国民の命を背負って進むことになるのだな。」


《ビスマルク(ドイツ帝国宰相)》

「極東の小国が、我がドイツの社会保険制度を先取りしたというのか? いや、違う。彼らのは保険ではない──国家が投資銀行となり、国民全員を株主にする制度だ。これは危険な実験だが、成功すれば、ヨーロッパの社会主義運動に対する最良の回答となる。労働者が革命ではなく配当を求めるようになれば、マルクスの理論は崩壊する。」


《カール・マルクス(亡命中)》

「興味深い実験だ。日本のブルジョワジーは、労働者階級を懐柔するために国家による富の再分配を先取りした。だがこれは資本主義の矛盾を解決するのではなく、延命させるだけだろう。真の問題は生産手段の所有にあるのだから。――とはいえ、もし彼らが本当に『不安からの解放』を達成すれば、それは革命よりも強力な変革となるかもしれない。」


《ウィリアム・グラッドストン(英首相)》

「日本の試みは理想主義的に過ぎる。国家が個人の老後まで保証するなど、財政的に持続不可能だ。我々大英帝国ですら、貧民救済は最小限に留めている。――だが、もし成功すれば、我が国の労働運動はこれを範として騒ぎ立てるだろう。厄介な前例を作られたものだ。」


《李鴻章(清・洋務運動指導者)》

「日本が驚くべき制度を作り上げた。我が清国も洋務運動で近代化を進めているが、日本のこの『統合社会保障基金』は、我々の想像を超えている。——清国にも導入すべきか? だが、官僚の腐敗が激しい我が国で、これほど巨額の資金を管理できるのか? ……日本の成功を見守るしかない。」


《金玉均(朝鮮開化派)》

「日本がこれほど進んでいるとは! 我が朝鮮も、この制度を学ぶべきだ。だが、保守派が強く、改革は困難だ。——日本は、なぜこれほど速く変われるのか? 羨ましくもあり、悔しくもある。」


《ジャン・ジョレス(仏・社会主義者)》

「日本の制度は、我々社会主義者が夢見る『労働者の解放』を、資本主義の枠内で実現しようとしている。——これは興味深い。もし成功すれば、革命なしでも社会主義的な福祉国家が可能だということになる。我々フランスも、この日本の実験から学ぶべきだ。」



《東京日日新聞》

「一銭より始まる国家保障──"民の恐怖"に向き合う制度、ついに始動」

「本紙は制度の詳細を入手した。月1円から加入可能、元本は国が保証、運用益は非課税──驚くべきは、これが単なる貯蓄ではなく、鉄道・教育・産業への投資を通じた「国家成長との共有」を謳っている点である。渋沢栄一氏は語る。「民が安心して働き、学び、子を育てられる──それが国力の源泉です」。理想か、現実か。歴史が答えを出すだろう。」


《横浜毎日新聞》

「保障か、依存か──新制度への懸念」

「国が元本を保証するという。だが、財源はどこにあるのか。国債を発行するというが、それは将来世代への負債ではないか。民が自らの力で立つことを忘れ、国に"縋る"ようになれば、それは自由の放棄に等しい。制度の理念は美しいが、運用を誤れば、国家への依存を生むだけだ。」


《大阪・船場の商家の女将》

「うちは代々、蓄えてきた。でも息子の教育費、娘の嫁入り支度…考えると夜も眠れん。この制度、ほんまに教育にも使えるんやったら、ありがたい。国が面倒見てくれるなんて、ちょっと信じられへんけどな。」


《新潟・農村の小作人》

「1円…米20升分か。それで老後が安心になるなら、やってみたい。だが、俺らみたいな者が本当に入れるのか? お上の言うことは、いつも遠い話に聞こえる。」


《横浜・港湾労働者》

「俺みたいな日雇いには関係ねえ話だと思ってた。だが、月1円なら…子どもに少しでも残せるかもしれねえ。国が潰れたらどうするんだ、って声もあるが、国が潰れたら貯金だって紙切れだろ。賭けてみる価値はあるかもな。」


《東京・下町の職人》

「厚生省? ああ、郵便局で聞いたよ。でもな、毎月金を取られるってのが気に食わねぇ。今日明日の飯が大事なのに、何十年も先の話なんてできるかってんだ。――でもうちのかみさんが言うんだ。『あんたが怪我して働けなくなったらどうすんのよ』ってな。…まあ、月に二銭ぐらいならなんとかなるか。」


《東京・女工》

「月に1円、貯めてます。十年後には学校の先生になりたいんです。今はまだ女が先生になるのは難しいけど、福沢先生も津田先生も、『これからは女子も学ぶべきだ』って言ってるって聞きました。この基金があれば、学費も少しは貯められる。――夢みたいな話だけど、夢を見られるだけでも、ありがたいって思うんです。」


《東京・浅草の芸者(28歳)》

「あたしみたいな水商売の女でも、基金に入れるのかい? ……入れるんだ。へえ。年取ったら、どうしようって、いつも不安だったんだ。お座敷でニコニコしてても、心の中はいつもビクビクしてた。——これで少しは、安心できるかもしれないね。」


《札幌・アイヌの男性(40歳)》

和人(シャモ)の制度、よく分からない。でも、和人の役人が『あなたたちも入れる』って言った。本当か? ——俺たちアイヌは、いつも後回しにされてきた。この制度も、結局は和人のためだけなんじゃないか? ……でも、もし本当なら、息子を学校にやれるかもしれない。信じていいのか?」

読んで頂きありがとうございます

拙い形ではありますが、自分の空想を形にしてみました


統合社会保障制度ですが一番近いのは現代のシンガポール中央積立基金でしょうか。

これに「iDeCo」「NISA」「元本保証」を加えたような形になります

かなり歴史が変わっていく様を楽しんで頂ければと思います


また、可能でしたら感想など頂ければ幸いです

よろしくお願い致します

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この作品世界での渋沢栄一と前島密は史実以上に著名な人物となり模範とする経営者、官僚として日本国内だけでなく統合社会保障制度の恩恵を受ける国々の人々の会話の中に出てきそうである。 両者ともに史実より爵位…
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