第84話 1%の大きな奇跡
「異世界のどこかではなく、どこかの異世界だ」
まるで言葉遊びのような太陽神の発言。
だが意図することはなんとなく伝わった。
「どこかの異世界って……まるで異世界が複数あるみたい……」
「その通りだよ。ボクが最初に言った言葉、覚えてる?」
えーと、たしか……。
「『また来た』とか、『日本ってほんと多い』とか……」
「そう。自ら命を絶つ人ってとても多いんだよ。だから全員を同じ世界に転生させたりしたら、転生者で溢れ返ってしまう。それを防ぐために、異世界を無数に用意して振り分けているんだよ」
そ、それならば……。
「じゃあ私を璃莉と同じ異世界に転生させて! お願いだから!」
「……ボクの力ではできない」
落胆した太陽神は、神とは思えない弱々しい姿だった。
「ど、どうして⁉ 神なのよね⁉ なんでもできるのよね⁉」
「たしかにボクにできないことはない。この宇宙においてはね」
「どういうことよ……」
「この世には宇宙も複数あってね。そして異世界はこことは別の宇宙にある。その別の宇宙はボクにとって管轄外なんだ。だから転生者を送ることはできても、そのあと深く携わることはできない……」
「そ、そんな……」
自然、私の力も抜ける。
「なんとか力を振り絞ってみるけど、同じ異世界に転生できる確率は1%がいいところだと思うよ。期待しても辛い思いをするだけじゃないかな……」
1%
たった、それだけ……。
掴みかけていた奇跡が、直前になってすり抜けていく気分だ。
肩が落ちる。
がっくりうなだれる。
言葉も出てこない。
せっかく璃莉に会えると思ったのに……。
もう、無理なのか……。
……いや、違う。
違う、違う、違う。
絶対違う。無理なんかない。
だってその手になにも残らないわけではない。
0から1になったと思えば、それだけで大きな奇跡だ。
わずかな確率だとしても、それでも私は璃莉を探す。
あの小説で王子様がお姫様を探したように。
顔を上げた。
睨み付けるような目を太陽神に向ける。
「1%、上等よ。早く転生させなさい」
「おおう⁉」
太陽神は驚きの表情を見せた後、にやりと笑った。
「いいね。そのみなぎる気勢。気に入った」
私を椅子に縛り付けていたロープが消えてゆく。
そして太陽神は続けた。
「よし、では転生の準備に取りかかろう。君に身体能力の向上と顔面補正を与える」
「身体能力の向上と顔面補正? なによそれ?」
「えーと、まず異世界がどんなところか説明する必要があるね」
太陽神は立ち上がり、身振り手振りで語り始めた。
「これから転生する先は剣と魔法の世界。そこには『魔物』と呼ばれるバケモノがいて、大体の転生者はその魔物と戦う『冒険者』となって生きていくことになる」
へえ。小説の異世界も似たようなところだった。
璃莉も、冒険者となって魔物と戦っているのかな?
もしそうなら早く守ってあげたいけど……。
優しい璃莉のことだ、きっと戦うなんてしてないだろう。
「身体能力向上も顔面補正も、これから転生者となる者、皆に与えているものでね。魔物相手に有利に戦えるように筋力や持久力など、ありとあらゆる身体能力を向上させてあげる。顔は恋愛なんかを楽しんでもらうため。君ならより美人にしてあげるよ」
「え⁉ そんなことしてもらえるの⁉」
「うん。君はどちらも基が良いからね。史上最強クラスの身体能力を持った絶世の美女へと変貌を遂げられるよ」
「それはそれは……」
身体能力向上は素直に嬉しい。
璃莉を探すためにも、見つけた後に守ってあげるためにも、力は必要不可欠だ。
それに、前世では璃莉を守ってあげられなかったから……。
でも、顔面補正は正直いらない。
それどころか断固拒否だ。
璃莉と初めて会ったとき、綺麗と言ってもらえた顔を、良くなるとはいえこんな形で変えたくない。
私は顔面補正を固辞し、身体能力向上だけ受け取ろうとした。
「顔はそのままで――」
しかしここで思いつく。
素直な心に、少し小狡い考えが横入りしたのだ。
「顔はそのままでいいわ。だからその分、身体能力向上を割り増しでよこしなさい」
我ながらいい考えだ。
これが通れば、私はより強くなれる。
「はあ……」
しかし太陽神は嘆息。
そして「やれやれ」と掌を上に向けた。
「いるんだよね。こういう無理を言う人間」
「は⁉ この宇宙のことならなんでもできるんでしょ⁉ 私はまだここにいるじゃない!」
「そりゃボクの能力的には可能さ。でも色々と決まりがあってね」
「決まり? そんなの無視しなさい」
「はあ……君ね、決まりは守らないといけないよ」
太陽神はまた「やれやれ」と呟いた。
「君の要望は秩序を乱しかねない。たとえばラーメンを注文するときに『私はメンマがいらないからその代わりにチャーシューを増量しろ』と言ったとしよう。店側は物理的には可能だが、マニュアルに反するし、そんな特例を認めていたらきりが無い。だから断る。それと同じさ」
神のくせに随分庶民的な例えだ。
まあ、理解できなくもないけど。
「つまり君はクソ客ってわけ。あーやだやだ。メニューにない注文しないでよ」
でも……迷惑なことだと理解できても、譲れないものがある。
「それなら私はチャーシュー麺を注文するわ! 身体能力を割り増ししなさい!」
「なにその屁理屈⁉ あっ! ちょっ! 服を引っ張らないで!」
「お客様は神様でしょ! 言うことを聞きなさい!」
「神様はボクだ! それにそういうのは店側がモットーとして掲げる言葉であって、客側が偉そうに言っていい言葉じゃない!」
「つべこべ言わずよこしなさい!」
「ああもう! えい!」
またしても私は謎の力で後ろに引っ張られて、椅子に縛り付けられた。
太陽神は服装を整えながら、
「感心してロープを外してみたらこれだよ。おとなしく決められた身体能力向上と顔面補正を受け取ってもらうからね」
呆れた口調。
表情に含まれた威圧感から、融通が利かないことも察した。
「……わかったわ。身体能力向上の割り増しは諦める」
「うん、当然だよ」
「でも」
「でも?」
「顔面補正は放棄する。それだけは譲れない。単なるメンマ抜きだから、それならいいでしょう?」
言うと、太陽神は怪訝な表情を浮かべた。
「なぜ? 美人になって損はないだろう?」
「この顔は……璃莉に綺麗だと言ってもらえた顔なのよ」
「は?」
「璃莉に綺麗だと言ってもらえた顔を、良くなるとはいえこんな形で変えたくないのよ。それに、あまりに変貌を遂げると、璃莉に私だと気付いてもらえないかもしれない」
「ふむ」と顎に手を当てた太陽神。
「君はなんというか、一貫してるね」
当然だ。私は璃莉のために転生するのだから。
「……よし! 君の想い、少しだけ汲んであげよう!」
「え⁉ 身体能力向上を割り増ししてくれるの⁉」
嬉々とした声でそう尋ねたが、どうやら違ったようで。
「いや、メンマを抜く代わりにチャーシューを増やすことはできない。だが……」
太陽神はニヤリと笑った。
「君に少し変わったトッピングをプレゼントしようじゃないか」
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