第75話 連鎖する不幸
12月21日 月曜日 夕方
璃莉の死を知って丁度1週間。
私は相変わらず、布団を被って悲しみに打ちひしがれていた。
依然として立ち直ることはできていない。
先輩に注意を受けて以降、食事は積極的に取ろうとした。
だが、すぐ気持ち悪くなる。身体が飲食料を受け付けない。
ほんの少ししか飲み食いできず、私の体力は削られていく一方だった。
早く回復して、先輩のお手伝いをするんだ。
生徒と教師を巻き込んで、社会的制裁を……。
……ぬるい。
……社会的制裁は、ぬるい。
……もし私ひとりなら、どうしただろう?
……璃莉。
メラメラが再燃したりもしたが、すぐ悲しみに飲まれて消えてしまう。
おそらく、社会的制裁に満足していない自分がいることがその原因だ。
ならば、どうすれば私は満足するのだろう。
一発殴る? 足りないと思う。
二発殴る? まだまだ足りないと思う。
じゃあ、百発や千発? そこまでやったら――
――コンコン
ノックの音が聞こえた。
もしかしたら先輩かもしれない。
「入るわよ」
違った。
言うと同時に入ってきたのは母親。
布団の中から覗いてみると、手に固定電話の子機を携えていた。
「先生から電話がかかってきたわ。出られる?」
うん、と声を絞り出し、受け取った子機を耳に当てた。
母親が部屋から出て行く姿を見届けてから、送話口へ声を発する。
「月上です」
『あー月上か。その、なんだ、大丈夫か?』
表面上は心配していても、担任の男性教師は面倒くさそうだ。
不登校の生徒には1週間おきに電話をかける、なんてマニュアルでもあるのだろうか。
「……まあ」
肯定も否定もせず、大丈夫かという問いを受け流しておいた。
こんな電話、早く切りたい。
『そうか、学校には近いうちに来れそうか?』
「……まあ」
『先週期末テストだっただろ? 追試を用意してるから、落ち着いたら学校にきて受けろよ。そうしなきゃ進級できないぞ』
ああ、たしかにそうだった。
今回のテストも準備は万端だった。
アルバイトで疲弊しながらも、璃莉にとって誇れる恋人であれるようにと、必死になって勉強した。
結局、無駄になってしまった。
もはや進級などどうでもいい。
「……まあ」
『まあばっかりだな。本来なら追試が許される例じゃないんだぞ』
担任は呆れた声でそう言った。
なら、どうして許された?
まあで済ませず、尋ねようと思ったとき、
『最後にあんなこと頼まれちゃ、断れねえよな……』
独り言のようにボソッと、担任が呟いた。
だれが頼んだのか、それは見当がつく。
でも、最後って?
少し嫌な予感がした。
「どういうことですか?」
『あっ……いや……まあ……』
この反応から察するに、口を滑らせた結果出た言葉だったらしい。
「まあじゃなくて、説明してください」
『お前がそれを言うか……』
担任は嘆息したあと、私に経緯を教えてくれた。
その説明によると、私が追試を受けられるよう願い出たのは、やはり先輩だったらしい。
「で、最後というのは?」
『うーんと……えーと……はあ、まあいいか。どうせそのうち知れ渡るだろうし。でも一応他言無用な』
担任は声を潜ませ口止めした。
そして、告げる。
『退学になった』
「た、退学……⁉」
私は思わず布団を払いのけて、そこに担任がいるかの如く迫った。
「どうして先輩が⁉」
自分の大声でクラクラしそうになった。
でもそれどころじゃない。
なぜ先輩が退学になるのだ⁉
『中等部の生徒に色々あったのは知っているか?』
ぼやかしているが璃莉のことだろう。
知っているもなにも、私が今こうなっている原因である。
「……はい」
『その件について嗅ぎ回った結果、校内秩序を著しく乱したとして、今日付で退学処分となった』
「そ、そんな……。それだけで……。」
『ああ、はっきり言ってこの処分はあり得ない。だが理事長の鶴の一声で決まったんだ。我々教師陣は反対したが、校長も含めて、逆らえなかったよ』
自分の娘がいじめで生徒を自殺に追い込んだとなれば、理事長の立場が危うくなる。
だからそれが明るみになる前に、危険因子を封殺したというわけだろう。
『今朝呼び出して退学を告げられた後、俺のところにやってきたんだ。何を言うかと思えば、『京花ちゃんはいつか立ち直るから追試をお願いします』と頼まれてな。自分が退学になったのに、他人の心配をしたことには驚いた。本当にいい生徒だったのに残念だ』
担任は心底悔しそうな声を出した。とってつけたような言葉ではない。
「先輩は今どこにいるんですか⁉」
『おそらく自宅に』
そこまで聞いて電話を切った。
立ち上がり、財布が入った通学鞄を持ち、部屋を、そして家を飛び出した。
母親の声が背後からしたような気もするが、振り返りもせずに走る。
先輩の家に向かうためだ。




