第64話 思わぬ繋がり
尋ねてもいないのに受験生の大変さを語る先輩を相手にしながら、電車に揺られること二十数分。
アルバイト先である工場の最寄駅に到着した。
「あっ、私はここで」「叔父さんち、この駅の近くなんだ!」
「「……え?」」
首をかしげて顔を見合わせた。
「一緒ですね」
「そうだね……ってもしかして!」
電車を下りながら、先輩は人目もはばからず大声を出した。
「京花ちゃん! この前あげた求人冊子、まだ持ってる?」
「ええと……あっ、鞄の奥に入っていました」
刹那、先輩の手が鞄に伸びてその冊子を掴み、パラパラとめくり始めた。
こちらから差し出すまでもない。忙しない人だ。
そして、とあるページで手が止まったかと思うと、「あっ!」と声を上げてこちらに視線を向けた。
「ここ、叔父さんの工場だ……」
「え⁉」
冊子をのぞき込むと、かつて見たページが。
そこには私のアルバイト先の工場が記載されている。
私は知らず知らずのうちに先輩の親戚が経営する工場でアルバイトをしていたというわけだ。
そして、あの小太りで貫禄が一切無い社長が先輩の叔父に当たる人物である。
「ていうか……」
私は呆れた声を先輩に向けた。
「どうして気付かなかったんですか? 最初にここを見つけたの、先輩でしたよね?」
「そんなこと言われても、応募資格と業務内容、あと給与なんかの条件面しか見てなかったもん……」
「ええ……」
たしかに先輩はこういう人だ。
全体を広く見渡すよりも、一点一点を注視し、その場の全力投球を繰り返して生きている。
だけど――
今回は日常生活に支障が出るレベルだ。
大丈夫かこの人?
試験の問題文も全部読まずに解いているんじゃないか?
「……むむむ! 京花ちゃん!」
「なんですか?」
「尊敬する先輩に向けているとは思えないような目をしてるよ!」
そりゃ今この瞬間は尊敬できないのだから当たり前だろう。
「はあ……とりあえず急ぎましょう。シフトの時間に間に合わなくなってしまいます」
「反抗期だね! 京花ちゃんは反抗期なんだね! 最近ちょっと素直になってきたなと思ってたのに! また反抗しちゃうんだね!」
「うるさいです」
後ろでギャーギャー騒ぐ先輩を引き連れてアルバイトへと向かう。
やれやれ、受験も間近だというのに元気な人だ。




