第62話 願わくば
12月8日 土曜日
この日、学校も休みということで八時間のシフトを組んでいた。
必死に働く最中、剣崎さんに声をかけられる。これはよくあることで、話の内容は大部分が剣道。
だが稀に私と璃莉の話になることもあった。
言える範囲での甘い話をすると、剣崎さんは「いいなー。俺も彼女ほしいなー」と心底羨ましそうに声を上げた。
「好きな人いないんですか?」と尋ねると「部活とバイトに明け暮れていて出会いがないからなー」と。
勉強はどうなんだ? と思ったが、文系大学生は勉強しなくても楽に単位が取れて卒業できるらしい。
おい最高学府、とツッコミを入れたくなった。
「下宿先が近いからこの工場でバイトしてるけど、こんなことなら出会いを求めて都心で華やかなバイトをすればよかった」
なんて愚痴をこぼしながら、
「女がやってきたと思ったらこんなのだったしな」
といたずらっ子のような笑みで私を見たので、足を思いっきり踏んづけてやった。
12月9日、日曜日
日曜は工場が一斉休日の日だ。
シフト云々にかかわらず、生産を止めているため、自動的に休み。
というわけで私がやることはテストに向けた勉強だ。
一日中家に引きこもって教科書や問題集とにらめっこ。
はっきり言うと、勉強は好きでもないし得意でもない。
でもだからといってまったく手を付けないわけにはいかないし、璃莉の手前、情けない成績は取りたくない。
忍耐力には長けていた。
剣道で培われたそれを勉強でも遺憾なく発揮し、短時間で集中して身に付ける。
そもそも、長い目でみたら勉強というのは非常に有益なはずだ。
高い学力を持っていると、大学進学、その先の就職においても、選択肢が増えて有利に働く。
つまり、今やりたくもない勉強に奮闘することは将来の自分への投資と思っていい。
……将来か。
将来、私はどんな日々を送っているのだろう。
就きたい職業など、今はまだ漠然としたものでさえ掴めていない。
でも、でも、でも……。
大人になっても璃莉といたい。
この想いは揺るぎない。
もちろん知り合いや友人なんて関係ではなく、今と同じく愛し愛される関係のままでいたい。
……いや、今と同じでは満足はできないかな。
浮かんだのは突飛もない発想で。
けれども私の想いにしっかりと沿うもので。
考えれば考えるほど、頬が熱くなる。
将来は璃莉と、
結婚とか、したい。
日本の法律で同性同士の結婚は不可能なはずだ。
パートナーシップ制度みたいなものがあったような、なかったような、気がするが……。
だがいずれにしても、一緒に暮らすことにはなんの問題もないはずだ。
そもそも、法律や制度なんて知ったことか。
私と璃莉が結婚していると思ったら、それはもう結婚だろう。
……なんて、かなり傲慢な考えかもしれない。
シャーペンを動かす手を止めて、少し背伸びする。
教科書から目を離し、見据えた未来は結構遠い。
掴めるものより掴めないものが多いけれど。
この手にしっかりと掴めるたったひとつは、なによりも鮮明だ。
ねえ、璃莉、
大好き。
願わくば、ずっと一緒にあなたといたい。




