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第45話 師匠バレ

『ところでお姉様ってなに?』から始まった先輩の尋問で長い長い一日が終わった。

 

 けれども私と璃莉の夏休みはまだまだ続く。

 師匠の家で会うだけじゃなく、色々なところにデートに行った。

 人目も気にせず恋人繋ぎや腕組みをしたり、ふたりきりになれば唇を重ねて愛を確かめ合った。

 


    ・・・

 


 そして月日は流れ、今日は夏休み最終日。

 そうそう、夏休みの間に大きく変わったことがあった。

 

 それは、


「お姉様、明日から学校だね」

 

 璃莉が敬語じゃなくなった。

 

 これは恋人らしさや対等を求める私の念願だったわけで、非常に嬉しかった。


「ええ。璃莉と会える日が減ってしまうから寂しいわ」

 

 結局、璃莉は塾に正式に入ることになった。

 平日の夕方に週三回、塾の授業に行かなければならず、当然その時間は会えない。

 夏休み中なら塾の日でも夕方までなら一緒にいられたのに、明日からはそうもいかない。

 こうなると学校の存在が恨めしい。

 

 なんて学生の本分をないがしろにし恋愛にうつつを抜かす、ある意味で模範的な女子高生となっていると、


「え? 学校で会おうよ。お昼休みとかに」


 璃莉が素晴らしい案を打ち出してくれた。


「それいいわね! 一緒にお昼を食べましょ」


「うん! 璃莉がお姉様の分のお弁当を作るね」


「え⁉ 料理できるの⁉ 璃莉⁉」


「えへへ……。学校が始まったらこうしたいなと思ってて、こっそり練習してたんだ」


「璃莉……。嬉しいわ。璃莉の手料理が食べられるなんて、私は世界一の幸せ者ね」

 

 ときにこんな台詞がサラッと言えるほど、私は恋愛慣れしてしまった。

 毎日のように会って、毎日のように愛をささやき合い、毎日のようにキスしていたから、取得恋愛経験値は膨大であり、恋愛レベルは爆上がり。

 

 しかしその高い恋愛レベルのせいで、怖い物知らずになることもしばしば。

 たとえば今がそのいい例であり、


「……おぬしら」


 私達を見て呆れたように口を開いたのは師匠だ。

 そう、実は今、ふたりきりではない。

 師匠の家で昼食を取っている真っ最中であり、隣に璃莉がいるだけでなく、机を挟んだ正面には師匠がいる。

 

 夏休みに入ってからの師匠は、昼食後に食休みの散歩に行くようになり、私と璃莉はそのふたりきりになれる時間に思う存分イチャイチャしていた。

 

 だから師匠がいるときのイチャイチャはわずか、だったのだが……。

 恋愛レベルが上がるごとにその『わずか』の程度が狂っていき、


「恋人同士仲がいいのはわかったから、年寄りに見せつけるでない」

 

 ついに実害となって出てしまった。


「……」


「……」

 

 口をぽかんと開けて、点になった目を師匠に向ける私と璃莉。

 

 ちなみにだが、私達が付き合っていることは、師匠に話していなかった。

 理由は、なんか恥ずかしいから。

 

 同様の理由で私も璃莉を両親に紹介できていないし、璃莉も相変わらず父親には伝えていないそう。

『お母さんはいいの?』と尋ねると、『ママは友達みたいなものだから』らしい。

 私には到底たどり着きそうにない考え方で少し驚いた。

 

 で、今はそんな余談をしている場合ではない。


「き、気付いてたの……おじいちゃん……」

 

 しばしの沈黙の後、璃莉が尋ねた。


「うむ。これだけ見せつけられている中、知らんふりするのには疲れたわい」


「い、いつから知ってたのですか?」


「おぬしらの夏休みが始まった直後じゃ。丁度、花火大会に行ったあたりで付き合い始めたのではないか?」


「「うえ!」」


 揃って変な声を出してしまう私と璃莉。

 ドンピシャリで当てられたから、それはそれは驚いた。


「あ、あの……」

 

 次に私が口を開く。

 先輩にそうしたように、師匠の考えも知っておきたかった。


「師匠はどう思いますか? その、女の子同士で、付き合っていることを……」

 

 師匠の返答は早かった。


「同性同士の恋愛、はっきり言うてまったく共感できん」


「あっ……」

 

 もしかしたらこういう返答がくるかもしれないと、覚悟は決めていた。

 だが、いざ突きつけられると、ショックは大きい。

 敬愛する師匠に、私の恋愛を、私の普通を認めてもらえない。

 それがただただ、悲しかった。


「そんな顔をするでない。話は最後まで聞け」

 

 師匠のその声で、うつむき気味になっていた顔を上げた。


「共感はできん。じゃが理解はできる」


 師匠は、優しい言葉を優しいまなざしで包み、私と璃莉に送ってくれた。


「おぬしら、出会ったすぐから互いを想い合っていたのじゃろ? 京花は璃莉の前で太刀筋を大きく乱し、璃莉はたまに、稽古中の京花を道場の外から見ていたからの」

 

 なんと、全部お見通しではないか。


「京花よ」


「は、はい!」


「おぬしの剣に乗せた感情の正体は、璃莉への想いであろう」


「え⁉ よ、よくご存じで……」



「そして璃莉よ」


「り、璃莉にもなにかあるの……?」


「京花の姿を見たいがあまり、道場に小型カメラを仕掛けたじゃろ。まったく、どこで買ってきたんじゃあんなもの」


「え、えへへ……バレちゃった……」



「り、璃莉、そんなことしてたの?」


「だって、かっこいいお姉様を家でも見たかったんだもん……」


「璃莉……嬉しいわ……」


「お姉様……大好き……」


「うおっほん!」


「「あっ」」


「……とまあこんな風に、想い合う強さはわしもよく分かっておる。そしてそんなふたりを見て、わしは嬉しく思う」

 

 師匠はそう言って、いつになくにっこりと笑った。

 私も胸がすく思いだ。


『嬉しく思う』

 これは敬愛する師匠に、私の普通が理解してもらえた証となる言葉だから。


「……ところで、少し話は逸れるが、京花よ」


「は、はい!」

 

 師匠は一転、ジトーッとした目を私に向けた。


「わしは同性同士の恋愛うんぬんよりも、大事な孫を弟子に取られたことの方が気になるのじゃが……」


「い! ……いや、あの、申し訳ございません!」

 

 五体投地で謝罪する私に、師匠が豪快に笑いかけた。


「はっはっはっは! 冗談じゃ、早く顔をあげよ」

 

 よかった、冗談か、と、寿命の縮む思いをした私は再び師匠を見る。

 師匠はまたもにっこり笑っていた。


「むしろ感謝したいくらいじゃ。孫の恋人が、おぬしのような誠実でかつ、ひたむきに努力のできる人間でよかった」

 

 これ以上ないお褒めの言葉だ。それはもうダントツ。

 剣の技術を褒められたときの何億倍も嬉しい。


「ありがとうございます。師匠」


「うむ。さて、今日はもう食休みの散歩はいいかの? おぬしたちへの配慮とはいえ、真夏の真っ昼間に散歩など、暑くてかなわんかったわい」

 

 あ、あれは私達をふたりきりにするための散歩だったのか。

 始めたタイミングや、雨の日も出かけていたことなど、おかしな点がいくつもあり謎に思っていたが、それも解けた。


「はい。食べ終わって少ししたら稽古を再会しましょう」


「……なぜそうなる」


「え?」


「誠実すぎて努力しすぎるところがおぬしの悪いところじゃ。今日は夏休みの最終日。璃莉と出かけてこい」


「え、あ、はい!」


「お姉様、カラオケに行こう! 当然あのゲームもするからね!」


「いいわよ。負けないからね」


「なんじゃ? ゲームとは?」


 さすがにそれは秘密だ。

 だって言えるわけないだろう。

 点数を競い合って、負けた方が勝った方に点差の回数キスするゲームのことなど。



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