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第23話 大好きだから 

 ……はて? 

 

 どうして花火を見ていたはずの璃莉がこちらを向いてきょとんとしているのだろうか。

 

 

 ……あ!

 

 己の手が璃莉の頬に触れていることに気付く。


「ご、ごめんね!」


 どうしてこんなことをしたのか、それといつからこの状態なのか、まったく分からないが、とにかく手を離す。

 

 しかしながら、手を離しても璃莉の表情は変わらない。

 きょとんとしたまま、ずっと私を見つめている。

 まあ、驚くのも無理はないだろう。急にこんなことをされたのだから。

 私は再度謝ろうと試みる。


「璃莉、ごめ」「お姉様……」


 私の声に重ねて、璃莉がゆっくりと口を開いた。


「なに?」


「好きって……」


「……え?」


「さっき、璃莉のこと好きって、お姉様が……」


「……え⁉」


 動揺しながらも、うろ覚えの記憶を引っ張り出して状況の整理に努める。

 えーと……たしか……心の中で色々とすごいことを断言していたような……。


『璃莉の隣は私のものだ』とか。

『璃莉の恋人に私はなりたい』とか。

 

 そして極めつけは、『璃莉のことが大好き』って……あ……ああ……。

 

 恐ろしいことに気付いて、冷や汗が垂れた。

 もしかして、声に出てしまった……?


「……私が、好きって言ったの?」

 

 おそるおそる確認する。

 今、私の顔は真っ青だろう。

 間違いであってくれ。どうか否定してくれ。

 

 しかしその願いは届かず、首肯する璃莉。


「……」

「……」


 沈黙が流れる。

 他の人達が花火を見て歓声を上げる中、私と璃莉の周りだけしきりができて、そこだけが静か。

 表現するとこんなところだろうか。

 とにかく、異様な雰囲気だ。

 

 その沈黙を破ったのは、璃莉だった。


「お姉様……」


 顔を上げて、私を見つめているのがなんとなくわかった。

 しかし、見つめ返す余裕など到底ない私は……


「あっ! ちょっと待ってください!」

 

 あろうことか、後ろを向いて駆けだしてしまった。

 そう、逃げたのだ。

 

 人混みをかき分け、どこに向かっているのかも分からないまま、ただ走る。

 璃莉の口から放たれるのは拒絶の言葉だろう。

 そんなの、聞きたくない。

 絶対に聞きたくない。

 

 だから、その場しのぎだとしても、それから逃れるために、走る。



    ・・・

 


 かなりの距離を走った気がする。

 その証拠に、息が切れ、人通りがない場所にたどり着いていた。

 

 疲れを感じた私はすぐそばにあった建物に背を向け身を委ねる。

 ガシャンと音がした。

 もたれかかったのは壁ではなくシャッターだったようだ。


「……はあ」

 

 一度、ゆっくり大きく息を吐いた。

 そして己の言動を悔いる。

 

 私はなんてことをしてしまったんだ。

 勝手に告白しておきながら逃げてしまうだなんて。

 

 いや、そもそも告白したことそのものに問題大ありだ。

 蓋をしたはずなのに、かなり短い期間で壊れてしまった……のか?


「違う……」


 そう、違う。

 最初から蓋などできてなかったのだ。

 

 浴衣姿や一挙一動にドキドキしっぱなしの今日もさることながら、あらゆる感情に『お姉様として』を免罪符を切るかの如く付け足して、会ったこともないフィールドのプリンスを憎らしく思って、璃莉と過ごせる夏休みの始まりに期待と不安を抱いて……。

 

 無理だったのだ。この想いに蓋をすることなど。 

 

 だって、だって私は、


「璃莉のことが好きだから……大好きだから……」

 

 



 ――どうして私は女なんだ。

 ――どうして女の子を好きになってしまったのだ。

 ――どうして初恋でこんなに辛い思いをしなくてはいけないんだ。

 

 身体に力が入らず、背がシャッターをなぞるように下へ下へ落ちていき、最後は膝を山折りにして座り込む。

 

 私が王子様になれたら、こんな思いをしなくて済んだのに。


 この恋心の受け止め先は、きっとどこにも存在しない。

 

 深い悲しみに暮れながら、私はただ、膝を抱え込んで涙をこぼしていた。



    ・・・



 悲しみに打ちひしがれる中、スマホが鳴っていることに気付いた。

 私はうるさく音を出すスマホを取り出し、画面に表示された名前を確認して目を見開く。


「り、璃莉……」

 

 レインの無料通話を使って電話を掛けてきたのは璃莉だった。

 私のレインを知っている者の数やタイミングから考えて、相手が璃莉であることは当然といえば当然。

 だが、そうであっても動揺する。

 

 しかし何はともあれ、電話に出て話をする必要がある。

 人差し指を画面に向ける。

 通話ボタンに指を近づけ、少し離して。

 また近づけて、少し離して。

 

 ……押せない。


 これから璃莉にどんなことを告げられるのかを想像するだけで背筋が凍り、電話に出ることを躊躇してしまう。

 でもこのまま話もせずに、というわけにはいかないし……。


「……あっ」


 葛藤していると、電話が切れてしまった。

 

 なにをやっているんだ私は。

 話をするきっかけをくれたのに、みすみす見逃してしまうとは。


「はあ……」と息を吐いて項垂れる。

 

 もしかしたらもう一生会えないかもしれない。

 だが、面と向かって拒絶の言葉を向けられるよりマシか。

 

 そうやって己を納得させた時、またスマホが鳴った。

 今度は着信音ではなく、メッセージの通知音が二回。相手はもちろん璃莉だ。

 

 おそるおそる内容を確認してみる。

 最初のメッセージはURL。

 そしてその次のメッセージにはただ一言、『会いたいです』と。

 

 URLの中身は地図アプリだった。赤いピンがとある公園を差し、ここで璃莉が待っていることをすぐに理解した。

 私は場所を確認したのち、腰をゆっくりと上げる。


 会おう、璃莉と。


 璃莉がここまでお膳立てしてくれているんだ。

 逃げることなんて許されない。

 どんな結果が待っていようと、きちんと向き合わなければ。

 

 また涙が出てきそうになった目を強くこする。

 そして前を見て、足に力を入れる。

 重い、あまりにも重い足取り。

 それを一歩一歩着実に、璃莉の元へと進ませる。


 


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