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1-94:80年目の冬です2

もしこの情景を空から見る事が出来る者達ならば、黒く広がる布を、中央から切断していくように見えるのだろうか?神国から押し寄せてくる侵略者達は、前方からやってくる理不尽なまでの攻撃力を、防ぐ事も、いなす事も出来ず、ただ打ち崩されていく。

先頭を駆け抜けるトールズは今回の戦いに際し、普段使用している剣や槍を使う事を辞め、ただ頑丈な金属の太い棒を力任せに振り回している。その威力は、角付となって以降格段に増していた、棒を振り回すたびに運が悪ければ頭が潰され即死している。運が良くても腕、肋骨、様々な場所にダメージを受け、結局その後群衆に踏み潰されて死に絶える。どちらが幸せなのか判断に迷う所である。

騎兵は勢いに任せて神国の侵略者達へと飛び込み道を切り開いていく、その細く開かれた道を次に歩兵が突撃しより太く広げていく。この突撃によって侵略者達は多大なダメージを受けている・・・はずであった。

しかし前方で何が起きているのか、中ほどにいる者達ですら把握できず、ただ只管前に、前にと進軍を続ける為、突然に目の前が開けたと思った時には自分の頭がカチ割られている。その連続で神国十字軍は碌に戦う事すら出来ずに屍を増やしていった。

ただ、それでもその数の暴力は圧倒的な力を発揮していた。

トールズ達の突撃など一切気にせず、両翼においては戦況も何も考えず、ただただ前方へと進軍を続けていく。トールズ達はこの流れを止める事は出来なかった。自分達に関係ない場所では、そもそもトールズ達の突撃にすら気が付かずに前進する者達が殆どであった。

更には、トールズ達自身も恐らく後方にいるであろう神国正規軍にすら辿り着く前に失速し、四方を敵に取り込まれてしまっている。


「キツイわこれ、なんか泥沼に埋まってってる気がするぞ!」


叫ぶ合間にも鉄の混を振り回し、自分へと近づこうとする者達を等しく打ち払っている。

幸いなことは敵にどうやら弓兵がいないようである事だろう。もし弓兵がいれば周辺から味方諸共射殺す事も平気で行っていただろう。

それでも、前進する速度はもはや歩いているのと変わりは無い。ここまでくると騎馬に乗っている事が不利に働きそうであった。


「下馬するぞ!馬が邪魔だ!」


「「「おう!」」」


付き従う者達も、同様に馬から飛び降り、その勢いでもって周囲の敵を次々に屠って行く。

戦い始めていまだ30分も過ぎていない、鬼人となり人族以上の力を身につけたとはいえ、息を吐く事が出来ない全力での戦闘で、彼らはすでに疲れが見え始めていた。


「終わり見えなくねぇ?これ」


相変わらず軽い口調で話しはするが、トールズの視線は一層厳しさをましている。

統率されていないただの群衆が、ここまで厄介な物だとは誰も思っていなかった。

当初の予定ではとっくに突破し、神国正規兵との戦闘に移行しているつもりであった。


「しかたねぇ方陣を組め!交代で休まんともたん、ヘルマンは左翼、ノートンは右翼で幅を広げろ、急げ!」


トールズの指示に、即座に両翼が膨らみを増していく、殿についた部隊が後方を警戒し、方陣が完成した。


「素人連中だからこういう時は楽なんだが、持久戦になるとはなぁ、こりゃ王都ヤバくね?」


トールズはフランツ軍の兵士の内、熱病から回復し始めた者達を率いて来ていた。

幸い、角付間の意思疎通が容易であったため、彼らはトールズの指揮に素直に従ったのだ。

しかし、今回は何と言っても相手が悪かった。その為、王都の守備は城壁と、素人同然の一般市民達で行われる事となる。自分達が出陣した後で回復した兵士など数は知れているだろう。


「交代で中央で休めよ、時間と共に神国の本陣も近づいてくるだろう」


その言葉の通り、流れゆく侵略軍の後方にいた神国騎士団は次第に近づいていた。

ただ、それ以上にフランツ国王都に侵略軍の先兵たちが届き始めている。

城壁の上から次々に矢や、石、熱湯などが投げ下ろされていく。しかし、それ以上にどんどんと城壁下の地面が人で埋め尽くされ見えなくなっていった。


「ヴォ~~~~ン!」


そんな時、王都の東方の森から狼の遠吠えが聞こえた。

ただ両軍の者達は誰もが必死に手足を動かし、また周りに響き渡る怒声に消され誰も気が付かない。

そして、次に遠吠えが聞こえた時、ふと森の方を見た侵略者達の何割かは、唖然として手に持った武器を足元へと落してしまった。それ程に予想もしていなかった情景である。

彼らの視線の先には、自分達へと向かって来る数える事も出来ないような狼などの肉食獣達が、口を大きく広げ飛び掛ってくる姿であった。


「ぐふぅ」


気の抜けるような声が兵士から聞こえた。

それは、喉元を食い千切られ、叫び声が叫び声として成り立たない、そんな音であった。


「う、うわ~~~」


相手が人で無く、本能的に恐れる肉食獣であったから、それ故に素人同然の侵略者達は本能の赴くまま、逃げに入ったのであった。


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