1-82:79年目の冬です6
う~~~寒い冬でモコモコに包まれている樹です。
なんとなく今年の冬は長いですね~いつもの倍くらい長い気がしちゃいます。
春のポカポカ陽気が待ち遠しいです。
冬に入り、動物さん達も殆どが冬眠してますし、わたしも冬に入り寝てたのです。それなのに!なんと又もや起こされたのです!子供達が何やら大騒ぎしてたのです!
で、若干寝ぼけながらも様子を確認すると・・・おや?なんか起きてますか?
映像では確認出来ないのですよ?え?見るんじゃない、感じろですか?むむ、子供達も難しい要求をしてきますね。
とにかく、状況を確認してると、鬼っ子達の村も慌ただしくなってきてました。何か戦いの準備を始めてますよ?大事が起きているのでしょうか?
ぼ~~っとみんなの様子を眺めていたら、オオワシさんが飛んできました。
その様子から、またもや大勢の人族がこちらに向かってきているみたいです。
これってちょっと不味くないですか?主要戦力が冬眠中ですよ?
蜂さん達もせっせと巣を温めるのに大忙しで、とても外敵に対応する事は難しそうです。
これはピンチです!約80年生きてきて最大の危機です!
これは子供達も大騒ぎするわけですね!
ということで、オオワシさん相手の数はどれくらいですか?
バサッ!バササ!
う~~~ん、何かダンスを踊ってますよ?オオワシのダンス・・・すっごいシュールです。
表情がまず動かないのです、笑顔が見れないのです、オオワシさん、まず笑顔の練習をしてみましょう。
・・・・うん、ごめんなさい、嘴開けたり閉めたりしてるようにしか見えません、それに、その半眼の眼差しは何なのですか?すっごい怖いです!
うわ!ちょっと突っ突かないでください!駄目です、わたし肌が弱いような気がするんです!
と、とにかく対処はしますから!そんなに怒らないでください!
とにかく防衛戦です!戦力製造します!
どうでしょう、先日の様に刺付木の実さんでしょうか?
しかし、真面に戦えば木の実達に勝ち目はありませんよね?
わたしが唸っていると、森の各所から狼さんと大型猫さん達がやってきました。
なんと!冬眠してなかったのですね!え?冬眠する種族じゃない、ですか?そうだったのですか!
これで何となく目途は立ちました。日中は動物さん達を主戦力で防衛戦です。で、夜は木の実さん達で夜襲です!ふふふ、勝てますよ!相手を森へと侵入させなければ良いのです!
さぁ、人族達がここに辿り着く前に戦略を練るのです!
今までのパターンから言っても、一度森の外で拠点を作るはずです。まずはそこにチャンスがあるのです!
何か子供達もヤル気になってますし、負ける要素はないですね!
◆◆◆
フランツ王国軍の士気は半減していた。
それは、指揮官の問題ではなく、また兵士達の錬度の問題でもない。当初、兵士達は魔の森の噂を聞いてはいても、話半分どころかまったく信じていなかった。
先に壊滅した部隊は元々が地方軍と言っても良い兵士達で構成されていた。その為、動物などに負けるなど訓練不足だ、その言い訳に魔物がいたなど真面に信じる者など殆どいなかったのだ。
今回の遠征に関しても、王国からも戦闘より調査を主体としている、そして兵士達はその護衛として同行する旨説明を受けていた。その中で、対動物との戦闘を見据え、盾と槍を主体とした防衛戦闘の訓練も行っていた。その為、狼、熊、猪などが来ようが確実に仕留める自信があった。
しかし、その自信を根底から覆す存在が現れたのだ。
魔の森へと行軍する一行は、進路上に何か異様な生物を発見した。
当初、迂回して様子を見るつもりだった彼らだが、その生き物のあまりの醜悪さに指揮官は殲滅する事を決断したのだった。
「あれは、この世に存在してはいけない生物だ」
戦闘が終了した後に、指揮官が副官へと語った会話においてそう指摘していた。
戦闘自体はフランツ軍の圧勝で、魔物は碌な反撃すら出来ずに壊滅していった。しかし、問題は戦闘の後に発生した。戦闘時に一部の兵士達へと木の実が襲いかかってきた。そして誤ってその魔物を口にしてしまった兵士達が、毒に感染したのか高熱を発し倒れてしまった。
その人数は極少数ではあった、しかしこのまま連れていく事も出来ず、馬車を一台仕立てて国へと返す事となった。更には、この醜悪な魔物の存在が、魔の森の存在を強烈に印象付けたのだ。
一部信仰心の篤い者達は、このまま魔の森へと調査に向かう事に非常に抵抗を示したが、国からの命令に逆らう事は無かった。もっとも、この出来事によって部隊の士気は大幅に減少したのだが。
「3日後には魔の森外延部へと到着いたします」
「うむ、前回の教訓を生かすならばこの場所に予備拠点を作るべきだな」
「はい、前回の報告書によれば動物達の追撃も一日だったとの事ですから、安全を見てこの場所であれば」
先の遠征での被害は報告書を見る限り食糧不足による餓死が大部分を占めていた。
今回の遠征はあくまで調査が主体であり、調査隊の帰還が重要な任務となる。その為の安全策は幾重にも設定する必要があった。
「魔の森に他国の者達が住みついている可能性も指摘されていたな、出来れば敵対せず情報が取れれば良いのだが」
「はぁ、ただこの人数では相手もどう考えるか」
この遠征において王国の貴族達の様々な思惑が交じり合い、予想外の大所帯となっていた。
更には引率する空馬車20台が、貴族達の思惑を物語っている。しかし、それは個人の欲では無く、それぞれの領民達を思っての事であった。遠征部隊の隊長もその事を知っているが故に断りずらかった。もっとも、国の偉いさん達から言われたという事が大きく影響している事も事実ではあったが。
「よし、まずは此処に拠点を作る。あと、斥候を何人か放ち集落を探させろ。先人の知恵を借りて安全に今回の遠征を終わらせたい」
しかし、この部隊長の思いは、既に破たんしていた。ただ本人達はその事を知る術を持っていなかったのだった。




