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1-73:79年目の秋です

ビルジットは王都周辺における今年の収穫量の報告を受けていた。

今年初めて神樹を試験場以外の地へと植え付けた。それも、比較的状況の厳しい北部方面へ。

王都から比較的近い北部の街パラルトにおいて街中と周辺へ併せて5本の神樹を植え付けていた。

その成果報告が今、手元に上がってきたのだ。そして、その報告書には北部の穀倉地帯において嘗ての収穫量に匹敵する収穫が見込めると書かれていた。


「これは、俄かには信じられないな」


ビルジットの驚きの表情を見ながら、ロマリエが事の次第を説明する。


「試験場において、もっとも効果があった植樹配置を行いました。当初、一本の神樹における有効範囲は神樹を中心に円形になると思われていましたが、ある研究者がそうではなく四隅に設置した場合の有効範囲を確認したところ数倍の効果を齎すのではないか?との考察を行いました。そして、この効果を実証する為にパラルトの街の外周四隅に神樹を植え、更に中心の広場へと、合計5本の神樹を植えたところ町全体において効果があったとの事です」


ロマリエの説明を聞きながら、ビルジットは報告書に掛かれた図を確認する。そこには、街の一遍が500メートルある街全体において作物が豊かに実っている事が現されていた。


「街中に作られた畑全てにおいて効果があったという事か。今回植えられた神樹はまだ芽が出て1年しか経っていない若木だというのにこの効果とは」


本来、喜ばしいはずの事柄でありながら、ロマリエの表情に笑顔はない。

それは、この神樹を巡り国内や国外から様々な干渉が始まっていたのだった。

現在、この神樹の情報は秘匿されている。魔の森から持ち帰ったものと公表はしていなかった。なぜなら、今あえて魔の森へと関わるよりも毎年収穫される木の実をいかに有効に使用していくか、その方が遥かにリスクが少ないと上層部は判断したからであった。

しかし、この神樹の恩恵は一部貴族には知らされていた。更には、その一部の貴族から更に他の者へと次々に情報が広まってしまっていた。

ただ、幸いなことに他人の口を経る毎に情報は正確性を欠き、今では本来の情報が消え去っているのであったが。


「で、今年の収穫量で国民を賄う事は出来そうなのか?」


「はい、決して潤沢とは言いませんが飢え死にする者の数は大幅に減ると思われます」


「それは良かった。近年にない朗報だな」


顔を綻ばせるビルジットに対し、ロマリエは申し訳なさそうな表情でビルジットへと話を続ける。


「それで、国民へ定期的な食料配布や炊き出しを計画しているのですが、そこに教会が口を出して来ておりまして」


「またか、神樹を寄越せの次は炊き出しをさせろと?なぜそれを我々が飲むと思っているのだ?」


「まったく、神の慈悲によって得られる収穫は神の名において施されねばなりません!我々為政者が神樹を独占し、そのお力を振る舞うなど許されることはないっとの事だそうです」


ロマリエの言葉に、苦笑を浮かべる事しか出来なかった。


「相変わらず、教会の教えは高尚すぎて迷える我々には理解できんな」


「はい、まことに」


二人が顔を見合わせて苦笑いを浮かべていると、そこへロマリエの部下が駆けこんできた。


「何事だ!」


「は!門衛より魔の森へ向かった者達の一部が戻って来たとの連絡が入りました!」


「なに!」


「向った者の一部だと?連絡兵ではないのか?」


「は!移民者であります!ただ、ロマリエ閣下宛の書状を持参しております」


兵士が差し出す書状を、ロマリエもビルジットもじっと見つめた。そして、ロマリエがその書状を開いてみる。すると、その書状はゾットルからの物であった。

読み始めるロマリエの表情が次第に無表情へと変わって行った。そして、最後まで読み終わったロマリエは、一つ溜息を吐くと書状をビルジットへと回す。

ビルジットはロマリエとは逆に、次第に表情は苦笑いを浮かべていく。そして、最後まで読み終わると書状を畳み大きく息を吐いた。


「これは、どうすれば良いかね?陛下にいかに報告をするか、まさか人が鬼になりましたっと言うかね?」


「確認が取れない事には何とも、とにかく戻ってきた者達を尋問致しましょう」


「うむ、そうだな、わたしも立ち会う事としよう。大層楽しい話が聞けそうだ」


ビルジットはそう告げると、兵士に指示を出す。そして、ロマリエと共に衛兵詰所へと向かうのだった。


◆◆◆


ダルタスとこの村の主要メンバー5人はゾットルを目の前にし、改めて彼らの異様さに足が震えるのを感じた。

夏における死人討伐において、彼らはゾットル達の支援を受けていた。当初彼らだけで死人の討伐を行おうとした。しかし、切れども切れども死ぬ事のない死人に対し、彼らは碌な対抗手段を見いだせなかった。

そんな中、鬼達が彼らの下に駆けつけ、自分達では有効的な攻撃が出来なかった死人達を次々に行動不能にし、更には焼き払っていった。その手際は、明らかに自分達とは違う軍隊のものであった。

しかし、それ以上に鬼達の持つ自分達には無い怪力を痛感していた。そして、今いる面々はその戦闘場面を直に目にしていたのだ。その為、彼らはゾットル達に逆らうなど考えも及ばなかった。

その後、鬼達は数度この村を訪れ、いくつかの注意事項を与えて行った。しかし、それはあくまでも通達といった物で、特に交流をもつような動きでは無かったのだ。

その為、棲み分けが出来るのではとダルタス達は儚い夢を抱いていた。

その自分達に突然ゾットルがこの村を訪問したいとの連絡が来た。

その意図はいっさい伝えられず、彼らが思い出したのはこの地の領主はいまでもゾットルであるという事であった。


「領主様、突然のご訪問はどのような」


このダルタス達が切り開いた農地は、苦しいながらも秋には豊作を予想させる出来栄えであった。この為、彼らは無事に皆が冬を越せそうだと安堵していた。しかし、ここでゾットルが領主として年貢を徴収しに来たのだとしたら、根底が崩れるのである。


「領主様?ああ、心配しなくて良い。別にお前達から税を取るつもりはない」


ゾットルの言葉に、ダルタスを含め他の面々も安堵の吐息を吐く。しかし、それであれば彼らがこの村へと訪れる意味が思い当たらない。


「それでは、我々になにを?」


不安な表情を浮かべるダルタス達にゾットルはあえて笑顔を浮かべ話しかける。


「うむ、実は先日の死人との戦いで幾人かの子供を保護している。ただ、その子供達はすでに我らと同じ進化を遂げており、もしこの村のものであればどうするべきかと確認に来たのだ」


「なんと!子供がですか?」


ダルタスは慌てて後ろに控えている者達へと視線を向ける。

しかし、どの者達も困惑を浮かべるだけであった。この地から子供が居なくなったなど心当たりが誰も無かったのだ。


「申し訳ありませんが、我らの村からいなくなった子供など思い当たりません」


「それは誠か?先日、本国へ戻った一団にいた者とかにもおらんか?」


ゾットルの覗き込むような眼差しを受け、緊張しながらもダルタスは正確に受け答えをしていった。そして、それぞれが困惑の表情を浮かべるのであった。


「むぅ、それではあの子供達は何処から来たのだ?」


「その、疑う訳ではございませんが、誠に子供が?」


ダルタスが話を続ける毎に不信感を募らせていく事にゾットルは気が付いた。おそらく、ありもしない疑いを掛けられようとしているように感じたのであろう。


「ふむ、まぁ直接会った方がよかろう。進化したとしても以前の面影がまったくなくなる訳ではない。一応馬車で連れてきている」


ゾットルの言葉に、一同は村の入り口へと移動した。そして、ダルタスはゾットルの指示で馬車から降りてくる子供達を目にし、まずその数に驚きの声をあげた。

そして、ゾットルの後ろにいた者がその内の一人を見て驚きの声をあげた。


「ば、馬鹿な!ミーシャと瓜二つではないか!」


視線の先に現れた角付の子供達の中に、彼の娘に瓜二つの角付がいたのだった。

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