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1-66:79年目の春です2

魔の森前のゾットル村では、子供達が柵の中にいる子豚を追いかけていた。


この子豚は、昨年秋に魔の森で捕獲された角の付いていない野ブタが生んだ4頭の子豚である。

恐らく、別の場所から惹きつけられてこの森へと移動してきたのだろう。

しかし、村の者達はこの角の付いていない豚を捕獲出来た事に非常に喜んだのだ。

角が付いていないという事は、何と言っても普通の動物だということだ。


「普通の動物がこんなに愛しいとは!」

「この豚たちは大事に育てねば!木の実は厳禁だぞ!」

「人型木の実様には最大限注意しなければ」


村人のほぼ全員の心が一丸となって豚たちを保護していた。

一応、豚の耳が普通より長くないかなどのチェックを入れていたのはご愛嬌だろう。

そして、今や子豚は子供達の格好の遊び友達となっていた。

その為、大人達は現在常に子豚を監視している。子供達が仲良くなった子豚にこっそりと木の実を食べさせる事が無い様に監視が必要だったのだ。

実際、あわやという時はあった。子供が、森で取ってきた木の実を無邪気に子豚に食べさせようとしたのだ。それ以降この養豚場に入るには持ち物検査が義務付られている。


「長閑だな~、この地に来てこんな気持ちになるのは初めてだ」


ゾットルは子供達が遊んでいる様子を椅子に座って眺めている。

その表情には今までの緊張感とは違う余裕が感じられた。

居留地が現在もどんどん巨大化し、今では約2万人近い人が暮らしている。もはや村と言うより町と言った方が良い人口であった。もっとも、未だ天幕などで生活している者が多く、やはり村と言った方が良い感じではあるが。

そして領主と言う肩書だけで、その管理責任がなぜか自分に押し付けられている事に不条理を感じてはいる。

それでもこの平穏が続くのならそれもいいかと思い始めていた。

そして、ゾットルが暖かい日差しにうつらうつらと思わず眠りそうになっていると、村の入り口の方からドヤドヤと男達が村へと戻ってきたのが見えた。


「よ!御領主様。相変わらずガキどもを見てるのかよ」


村の外で兵士達と訓練をしてきたのだろう。如何にも砂塵に汚れてますという格好でトーラスが近づいてくる。


「今やらなければならない事は一通り終わっているからな。まぁ種蒔きが始まれば忙しくはなるだろうが、それは俺がやる事でもない。まぁ人が増えた御蔭で仕事が分散出来たのが大きいがね」


「おい、暇なら何とかあっちの連中と交流が持ちたいぞ?何と言っても女が少ないんだ。俺だって女房が欲しい!お前だってそうだろうが」


トーラスの言うあっちとは、昨年に来た移民達の残り約500人の集団の事だった。昨年の争い後、女性と

子供の行方を確認した時にその集団がいる事を把握した。数度の交流は行っている、しかしその集団をゾットル達はあえて取り込むことをしなかったのだ。


「本国との連絡用には彼らが有効だ。こっちにだって女ならいるだろうが」


「絶対数が少ないだろうが!しかも、今この村だとどんな女もお姫様扱いだぞ?ハッキリ言って天狗になりすぎてて話にならん!」


その発言の根拠は、ゾットルも心当たりがあり苦笑を浮かべるしかない。

確かに、今やこの村での男女比は1対100くらいはある。それも、年齢問わずであるから実際に伴侶にと考えると範囲は更に狭くなる。

それに対して、農民集団の方は半数以上が女性と思われた。実際に数えた訳ではないが、僻み目で見ても明らかに女性の方が多そうだった。


「う~~む、しかしな。明らかに俺達の姿を見て怯えるからなぁ。それを無理に交流など」


前に代表として訪問した際の自分達を見る視線を思い出しゾットルはそうそう簡単に交流は出来ないと思った。それよりも、本国や周辺国などの情報を得るための角の付いていない人材確保に活用したいと考えている。


「力が強くなったおかげで新たな開墾も比較的楽に行えている。神樹様のお力もあるから何とかこの人数でも食料は持つだろう」


「秋までの分は持つのか?」


「どうにかってとこか?あとは、何とかあの豚や鳥といった角の無い動物を増やせれば楽になるのだが」


魔の森の動物達は比較的温和だと彼らは思っている。自分達が食料にする為の狩猟においては非常に寛容だ。もっとも、逆に倒されなければといった前提ではあるが。

そして、この前提において自分達人間は非常に不利な立場である。知恵のある動物とはこれほど質が悪いとは彼らも思ってもみなかった。此方が群れで狩をしようとすると、あちらも群れで反撃してくるのだ。


「ある意味訓練にもならんからなぁ。お互い木の実を食べれば回復するしな」


「ああ、なぜか一対一の戦いが推奨みたいになってしまっているからな」


まさかここにきて騎士道精神が求められるとは彼らも思いもしなかった。

しかし、知恵ある動物達は命の遣り取りという面においては実に真摯であったのだ。


「あ~~~、どっかに良い女いないかなぁ」


「はぁ、馬鹿言ってないで飯食いに行くぞ」


ゾットルはトーラスの肩を叩き、村の食堂へ向かって歩き出した。

その時、トーラスがふと走り回る子供達へと視線を向け、そのまま視線を固定させる。


「どうした?」


「ん?ああ、なぁゾットル。あの新しい耳長の子供を見て何か感じないか?」


「何か?記憶が無い事以外にか?」


「ああ」


子供に手を引かれて一緒に走り回っている子供へと視線を向ける。そして、先日他の者が話していた事を思い出した。


「そういえば、こないだ誰かが変な事を言ってたな。時々、まるで関節が無いかのような動きをすると、その事か?」


「いや、ん~~~うまく言えないんだが、そうだなぁ・・・まるで人じゃねえみたいってのが近いか?ん^~~違うか、人になろうとしてる?あ~~わかんねぇや。すまん、変な事を言った」


「・・・人じゃない?」


改めてその子供へと視線を向ける。しかし、ゾットルには特に感じられることは無かった。

しかし、何となくだがトーラスの言葉が棘の様に心のどこかに引っかかったのだった。

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