1-65:79年目の春です
は、は、は、春が来た!暖かくなって来た陽気に誘われて、樹の心も春爛漫です!
今の気分に当てられたのか、わたしの周りも一面お花畑となってます。
いいですね~長閑ですね~、そうですよ!わたしが望んでたのはこんな景色なのです!
決して黒くて、ザワザワして、悲鳴が鳴り響くようなものはいりませんよ!そんな物はポイです!
うん、目の前をエルフっ子達が蝶を追っかけて走り回っています。居たんですね~蝶!昆虫あんまり好きじゃないので意識してなかったですよ?そのうちカブトムシとかも現れるのでしょうか?わたしカブトムシやクワガタって駄目なんですよね~何となくGに似てるじゃないですか!G駄目でクワガタとか平気な人ってどこで線引きしてるのでしょう?やっぱり動きでしょうか?
あ、駄目です!想像しちゃうと鳥肌立っちゃいます!鳥肌立てる皮膚ないですけど!
まぁそんな事は置いといて重大発表ですよ!
なんと!春になって目が覚めたらエルフっ子が一人増えていたのです!ドンドンパフパフ~~~ですよ?
それだけじゃないのです!わたしの能力が発展?進化?とにかく新しい事が出来るようになったのです。
その名も!新技”新しいエルフっ子の視点で物を見る事が出来る”なのです!
え?長いですか?では新技”あえしみ”でどうでしょう?
短すぎて意味が解らないですか?まったく、みなさん我がままですねぇ
とにかく気が付いたときは吃驚しました。なんか新しいエルフっ子がいるなぁって思ったら、リンクしちゃったのです!どうやら、この子は記憶を無くしているみたい?で、自我もあんまり感じられないのです。だから入れるのかな?何となく生きてる~~って感じがしない子です。森の子供達に近い感覚ですね。
だからリンクできるのでしょうか?
しかし、とにかくこれで野望達成に未来が見えてきたのです!
そう!味覚開発なのです!
今は視覚のリンクしか出来ませんよ?でも、味覚がリンクする事が出来たら・・・ほわぁ夢が、夢が広がるのです!さ、さらにですよ?この子を上手に導いてあげれば!それこそ前世で読んだ食べ物改革、目指せハンバーグなどが出来るのです!
ううう、長かったです、思わず涙が出そうです。流す為の目が無いですけど。葉っぱから水滴でも降らせましょうか?ハンバーグを思い出せば涎が出そうです。・・・こちらも水滴で対応しましょうか?
あ、水滴出してたら蜂さん大喜びです。最近あんまり雨降ってませんでしたからね。
日陰で寝っ転がってた方達はすっごい迷惑そうなのですけど。
とにかく、新しいエルフっ子とのリンク強化特訓を始めましょう!
じ~~~、じ~~~~、あれ?何か慌てて他の子達が新エルフっ子を森の中へと連れてっちゃいます?
ちょっと~~~どこへ連れて行くのですか~~~見えないと集中できないじゃないですか~~
むむむ、何が起きたのでしょうか?
昔にも似たようなことがあった様な気がしますが・・・思い出せないですね。気のせいですね。
ともかく、子供達はみんな揃って居なくなってしまったのです。どことなく慌ててたというか、怯えてたような?
いけませんね、きっと周りで寝てる大型肉食獣さん達に怯えたのでしょう。
あなたたち、子供は襲ってはいけませんよ?!大事に育てないとですよ!
あ、なんですかその馬鹿にした様な眼差しは!え?馬鹿にしていないですか?呆れた眼差しですか?
馬鹿にしてなければ良いのです!・・・よね?
◆◆◆
ビルジットは反乱の詳細を記した報告書に目を通していた。
其処には、伯爵を筆頭に数人の貴族とその親族の名前が記されていた。その全てが今回の農民反乱を主導したとされ、処刑された者達であった。
どの貴族も自領においては比較的善政を敷いている者達であった事で、その後の処理を面倒にしてはいたがそれも既に終わった事であった。
全世界における環境の変化。それによって発生する天候不順、農作物の発育不良、不作、飢饉、冷害、その他、現在起きている事で悪い要素を上げれば限がない。その中において農業試験場の豊作、神樹と名付けられた樹木の増加、未来に希望が持てる状況において何故一部の貴族たちが反乱を起こしたのか。
その調査の最終報告が纏め上げられていた。
「まったく、宗教などに関わっている余裕など無いと言うのに」
報告書には、かつてこの大陸全土に広がっていた宗教の名前が書かれていた。ビルジットはこの厳しい環境において、もはや誰も神を頼っても生き残れるとは欠片も思っていなかった。必死に自分達が生き延びる方法を模索し、試し、駄目であれば新たな方法を考える。そうでなければとっくに自分は死んでいただろう。
ビルジットはそう思ってた。
しかし、ある意味それは力がある者、恵まれている者達の考えである事も認識していた。力ない者は死ぬ、そんな世界において、弱者はただ神に祈るしかない。それ故に、宗教とは弱者の心の拠り所として、救いとして有るべきであるっと信じているのだった。
今回の反乱は、その宗教における狂信者と教会の一部の指導者たちが引き起こしたのだった。
神樹の事は国の首脳部にしか知らされていなかった。そして、農場試験場で働く者達にも厳重に情報規制を行っていた。しかし、首脳部の一員であり、今回反乱を主導した伯爵はその事を教会へと知らせてしまった。伯爵は敬虔な信者であった。その為、彼は神樹は神の恩寵である。それ故にその神樹の取扱いは教会が行うべきとの主張を首脳部にぶつけた。
当たり前ではあるが、伯爵の意見を真面に受け止める者はいなかった。その後、より神樹の有用性が証明されていくにつれて伯爵は意見を控えるようになった。この為、ビルジットも特に気にも留めていなかった。今回の事は、ある意味それが裏目に出た結果であった。
「それで?教会の司教達は追放となった」
報告書を持ってきたロマリエがそう告げながら、更に一枚の報告書を差し出す。
「これは・・・追放者リストか。ふむ、貴族たちの子供で15歳未満の者も一緒に送り出したのだな」
「一部ですが、家族ぐるみで宗教に染まってました。この為、再教育は難しいと判断しました」
「なるほど・・・そんなに望むなら大本の神樹の下へ行けという事ですね」
ビルジットの言葉にロマリエは苦笑を浮かべる。
決してその言葉は間違いではなかった。更には、反乱を起こした貴族たちの領地でも同様のお触れを出し、狂信に至っている者を選別、追放としている。もっとも信者たちは追放と思っているかは不明だが。
「とにかくこれで一段落だ。もっとも落ちぶれたとは言え本家本元のユーステリア教国を何とかしないと次も続きそうですが」
「今回の関与は確認できませんでした。警戒は厳にしますが、神樹の情報は間違いなく渡っているでしょう。もっとも、我が国にと言うよりは魔の森へ直接動くでしょう」
「対処はされるのですか?」
問いかけの言葉に、ただ微笑を浮かべるだけでビルジットは特に明言をする事は無かった。
その微笑をみながら、ロマリエは面倒事が回ってこない事をそれこそ神に祈りたくなった。




