1-47:76年目の秋です
実りの秋ですよ~~!今年は何時もの秋とは違うのです!
あ、樹です!テンション高めの樹です!
え?いつもテンション高めですか?いえ、今年はいつもより20%はテンション高いですよ!
微妙ですか?何を言ってるんですか!20%UPなんて大変な事なのです!
昔のOL時代には、営業の人が10%UPですら苦労してたのを覚えてますよ?
で、なんでテンションが高いのかですが、見てください!わたしの妖精化への第一歩です!
ほら、木の実が人の形してますよね?
頭が有って、手が有って、足が有って、どうですか!
わたしの力はやっぱり木の実なのです!初心に帰りましたよ!
え?不気味ですか?何を言うのですか!これからですよ!まだ第一歩なのです!
これから顔を作って、手足を稼働可能に・・・おや?稼働可能な手足で思いつくのは球体関節ですよね?
木の実にはハードル高くないでしょうか?
中の実がぐちゃぐちゃしそうですよね?汁も隙間からいっぱい零れてきそうですね?
う~~ん、困りました。でも、顔ならいいかな?口も作ればもしかしたらそこで味を感じる事も出来そうですし、実を経由しての食事・・・いけそうですね!
うん、これで方向性は定まりましたね!
ん?どうかしたのですか?いつもなら争奪戦になるはずの木の実ですが、今年はみんなが恐る恐る突っついてますね。
大丈夫ですよ?中身はいつものと変わりませんよ?
あ、肉食猫さんの子供が人型木の実の頭の部分を咥えて振り回してますね。おもちゃじゃないのですが?
なんか皆さんの反応が微妙ではあるのですが、これはわたしが妖精や精霊に進化する為の大事な一歩なのです。ここは我慢していただきましょう。木の実自体は普通のと違いは無いのですから問題なしですよね?
そんな気持ちで木の実を作り続けていると、だんだん人型木の実を作るスキルが上がってきたのでしょう、なんとなく頭の部分に顔っぽい皺が出来てきています。
・・・・作っててなんですが、不気味ですね。これはちょっと予想外の気持ち悪さです。夢に出そうです。
これは、ちょっと路線からズレてないかな?
ここから可愛い妖精さんや、綺麗な精霊さんを狙えるとはちょっと思えませんよ?
どちらかというと・・・呪いのっと冠する物とか、悪魔のとか?
うん、駄目ですね、辞めましょう。誰ですかこんな物で行こうなんて言ったのは!
ん?子供達から呆れたような視線を感じます・・・でもふと思ったのですが、貴方達わたしと会話できること忘れてませんか?え?もちろんわたしは忘れてましたよ?だって話しかけてこないじゃないですか!
◆◆◆
「そろそろ秋ですね、本国から依頼の有った木の実の確保はいかがされますか?」
ゾットルの下に、この夏に本国より派遣されてきたトレスが尋ねる。
トレスの肩書は一応ゾットルの副官となってはいるが、実質は監視であろうとゾットルを含め他の面々も考えていた。
「本国の偉いさん連中は簡単に言ってくれるが、あの場所から木の実を確保するのは容易ではないぞ」
ゾットルは、昨年に木の実を手に入れた経緯を思い出し、げっそりとした感じで答えを返す。
「本国の指示ですよ?それに、この木の実を数多く確保する事が国の安定に繋がるのです!ゾットル様はその事を軽く考えすぎていませんか?」
やや興奮気味に告げるトレスの言葉に、ゾットルは顔を顰める。
この派遣期間も当初は3年とされていた。しかし、このトレスがはっきり言って要らない書類を持参してくれたのだ。その書類は、この魔の森前に今造られている居留地を、正式に領土と認めその領主をゾットルに任せるという委任状兼任命書であった。
更に現在この地に住まう者達を正式に領民と認める、2年間の税金免除、更にはゾットルの男爵就任、その他さまざまな項目及び書類が彼の前に積み上げられた。
この時は思わず他国に亡命でもしようかと考えたほどであった。
「軽く考えているのはお前達だ、ハッキリ言って普通に兵士を森に送り込むなど愚の骨頂、生きてどれだけが戻ってくるかわからんぞ。少人数で行けば、持ち帰る際に魔物達の襲撃を受けるだろう。そうすれば木の実など1個でも持ち帰れれば御の字だな」
ゾットルの言葉に今度はトレスが顔を顰めた。王都において子爵家の3男である彼は、この魔の森を上手く開拓し、最終的には自分がこの地の領主になれるのではと考えていた。
その為には、先にまずゾットルに地盤を固めさせ、その後釜に自分が就任する事を勝手に決めていたのだった。そして、その為にも本国に対して自分がいかに有能であるかを示さねばならないと思っている。
そして、その為にもこの平民上がりの男を、いかに利用できるかが鍵となってくる、そう考えていた。
「それでは、あなたはこのまま木の実確保に動かないつもりなのでしょうか?」
苛立ちを隠す事無くトレスはゾットルを睨み付ける。
しかし、ゾットルはトレスに構うことなく何ら返事を返す事すらしなかったのだった。
なぜなら内心では、おいおい、いい加減にしてくれよ、あんたに手柄を立てさせる為に俺達がいるんじゃないぞ?
そんな事を思いながら、それでも淡々と書類仕事をこなしていた。
ゾットルが、漸く書類仕事に目途を付け、トレスが居たあたりへと視線を上げた。すると、既にそこには誰も居なくなっていた。
「おいおい、俺の護衛まで全員いないとか、どうなんだよ。もっとも護衛なんざ邪魔なだけだがな」
ゾットルの領主就任に合わせて派遣されていた護衛も元が平民であるゾットルを重視せず、トレスの意向を重視する態度を隠す事が無い。この為、居留地において明らかに浮いた存在となっていた。
自然と漏れた溜息に、溜息を吐くと幸せが逃げるんだったな、と昔誰かに聞いた話を思い出していた時、ゾットルの下にサバラスが駆けこんできた。
「あのバカ貴族が自分の護衛やらを連れて森の中へ入って行ったぞ!」
ゾットルはその報告に、先程なんで溜息なんか吐いてしまったのだろうと思ってしまった。




