1-45:76年目の夏です
ちちんぷいぷい~~~えい!
パラリンパラパラ~~~エイ!
むぅ駄目ですね、あ、こんにちは~~妖精か精霊になろうと頑張ってる樹です。
でも、前世の記憶に基づいて色々試してみているのですが、中々進化しませんよ!
ついには呪文まで思い出せるものや思いつくものまで唱えているのですが、すべて失敗に終わってます。
何が駄目なんでしょう?純粋な心には自信があるのですが・・・前世でも友人たちからよく”貴方は純粋だね、そのままでいてね”と言われたものですよ!
一部の友人からは”そのまま大人になったから拙いんじゃ?”と言われたのですが、意味を聞いてもよくわからなかったんですけどね。
とにかく、目指せ妖精か精霊への進化なのです!
あ、そういえばそんな努力の日々ではあるのですが、なんと、なんと!わたしの子供がなんか遠くで芽吹いたようです。まだ小さいので視界共有が出来ないのですが、それも秋ごろには出来るかな?と期待しています。
どうやら先日の人族がお持ち帰りしたみたいです。
結構遠いみたいで、電波?も微弱でまだまだですが、すでに先行していた甥や姪が近くにいるようで本人ものんびりしているみたいです。
いいですよね~人族の街ですからそれこそ美味しい物がいっぱいなのでしょうか?
どうせなら目指せ人族の街での食い倒れの旅でしょう。
それにしても、妖精も精霊もいるのでしょうか?
え?!ここでそれを言う?ですか?
だって見た事ないですから。
前世ではゲームや映画では見た事が有りますよ?でも、この世界ではまだ魔法すら見た事がないです。
エルフっ子も精霊魔法なんか使いませんし、他の鬼っ子や人族も魔法使いませんからね。
魔法の概念自体が存在しないのでしょうか?
・・・あれ?そう考えると・・・わたしの葉っぱから水を降らせる力や木の実を付ける力、モコモコ樹皮を作る力はなんなんでしょう?
これって魔法ですよね?だって普通では考えられなくないですか?
そうですよね、これ魔法ですよね!
そう考えれば不可能なのかな~って考えてた思いが覆されます。
わたし何となくという感覚ではあったのですが魔法を使っていたんですよね!
それであれば後はもう大丈夫です。前世の封印した扉を開き、黒い歴史を紐解けばいけるような気がします。なんか精神的には逝っちゃう気もしますが、きっと気のせいでしょう。
ふふふ、わたしのこの魔眼が・・・・あの、目が無いのですが。
わたしの左腕が疼く・・・・あの、左腕ってどれでしょう?あのちょっと太めの枝でいいでしょうか?
そもそも、わたしの黒い歴史さんは、樹になる事を想定していないのでした。
これは難問です!でも、わたしはめげないのです!
無ければ作ればいいじゃない!のマリーアントワープです・・・あれ?何か違ったような?
そして、ここに新たな黒いページが一枚・・・
◆◆◆
ロイド達は困惑の表情を隠す事が出来なかった。
昨年の秋に本国へと送った木の実が3個、この木の実が無事本国で芽吹いた報告はすでに受けていた。
しかし、今手元に届いた報告書には今回送った木の実は、それまでに送っていた他の木の実以上に作物への効果も範囲も優れているとの事だった。
その為、早急に追加の木の実を送れとの指示ではあるが、今の季節を考えればそれは不可能である。
そして、それ以上に問題が発生していた。
初冬に持ち帰った木の実6個の内2個は本国へ送り、残った4個の内2個は居留地へと埋めて見た。そして、問題は更に残っていた2個の木の実によって発生した。
「しかし、これは本国に報告した方が良いのだろうか?本国では木の実を食べた物などいないのであろうな?」
「そうですね、今回志願した者は怪我をしてこのままではそう遠くない内に命を失う者に食べさせましたから」
「味は濃厚にて豊潤、それこそ俺は食べた事が無いが、伝説にある桃のようなっとの報告だったな」
「はい、そしてその実を食べた者は命を繋ぎとめました。怪我がみるみる治る様は非常に不気味でしたが」
今回の調査に同行している薬師頭のヒルダがそう告げる。そして、その言葉に周りにいる者も頷いた。
ロイド自体もその過程を実際に見ている。それ故に、ヒルダの言葉に内心では同意していた。
又、その事は報告書に記載し、本国へと送ってはある。ただ、この報告書に対する返信はない為におそらく本気にされず上層部へ届く前に破棄された可能性もあるだろうが。
そう予想する根拠は、その後食べた者が高熱を発し、この3ヶ月程生死を彷徨った事も原因の一つではある。
ただ、今回の報告は更に難解を極めると予想は出来た。
「それで、意識ははっきりしているのだな」
「はい、自分の名前、所属、家族構成、更には趣味嗜好まで確認しました。そして本人に間違いないと判断しました」
「ヒルダ殿、身体的な検査は済んだのでしょうか?」
「はい、ただこの地で出来る事など高が知れてはいますが。今お伝え出来る事は、血は赤い事、手足、皮膚、その他においても異常と思われるところはありません」
「ただ額に角が生えた事以外は?」
「そうです」
まったく感情を絡めることなく答えるヒルダを見ながら、ロイドは頭を抱えたくなった。
まさに何で俺はこんな調査隊の隊長なんか引き受けてしまったのだろう。そんな思いがふと頭の片隅を掠める。
「木の実はその者以外も食べていたな?その者達の様子はどうなった」
「それが、先に移住してきた者達の子供に与えたようです。ただ改めて思い返してみると、その子供達をここ数ヶ月見た覚えがありません」
「ふむ、ゾットル、サバラス、子供達の様子を早急に確認しろ!ただ手荒な事はするなよ!」
その言葉に二人は頷き、急いで天幕を出て行った。
その後ろ姿を見ながら、厳しい眼差しでロイドはヒルダを見た。
「ところで薬師頭殿、何故毒かもしれない木の実を子供達が食べたのか、その説明をお聞きしましょう」
ロイドの視線を受け、ヒルダは顔色を一層青くするのだった。




