2-48:混沌の町
私の鳴き声と、お母さんを呼ぶ声が周囲の人達を更に呼び集めた様です。
周りに次第に人が増えていく中、武器を持った人も駆けつけてきて雑草さんは更に劣勢に?
そうすると、危ないエルフさんが此方へと向ける視線の数が増えます。でも、そんな事にはまったく気が付かずに私の視線は門の横の小屋だけに注がれてるんです。
「うえぇ、うえ、お、おかあちゃま~~~痛いの~~イ、イツキ、痛いの~~~」
私の声が届いたのか、ついに小屋からお母さんとお父さんが出てきました。
「お、おかあちゃま~~~うぇえええええ~~~~ん」
ガン泣きですよ!先程から足先から断続的に激痛が発生しています。でも、それ意外にも次第に意識が朦朧として来ました。熱も出はじめたような気がします。
お母さんに助けを求めようと手を伸ばしたら、背後で何か大きな音が聞こえました。ついでに、周囲でも叫び声が聞こえます。でも、私はそんな事よりこちらへと走り出したお母さんにしか興味はないのです。
「ふ、ふ、ふえ・・・・ふぇ?」
何かが背後から体に巻き付きました。ついでに下から持ち上げられています。
そ~~と下を見てみると・・・おおう、大きなジャガイモさんの上に乗せられています。
このジャガイモさんってあの村で見たジャガイモさんでしょうか?
「またもや魔物か!衛兵は討伐に手を貸しなさい!」
あの危ないエルフさんが叫んでいますけど、それって私にも危険は来ないですか?
お姉さんは雑草さんとまだ格闘中で、そんな中ジャガイモさんは雑草さんそっちのけで私をお母さんの方へと運ぼうとしてくれている?でも雑草さんとは仲間じゃないのですね。
「何だこいつ!強いぞ!」
私の周囲をいつの間にか武器をもった人が取り囲んでいます。手に槍や剣を持った人達がこちらを睨んでいるのは見てて怖いのです。
「イツキ!イツキ!」
お母さんがこっちへと近づこうとしているのですが、更に外にいる人達に妨害されて近づけません。
「ふぇ、お、おかあちゃま~~」
目の前にいるのに辿り着けない事に涙が溢れてきます。
「子供が巻き込まれているぞ!誰か助けろ!」
「近づけないぞ!周りの蔓を切り落とせ!」
叫び声が響き渡る中、じりじりとジャガイモさんは前進します。私の目の前では小さなジャガイモさん付の蔓がぶんぶん振り回され、それに合わせて小さなジャガイモもぶんぶんと飛び交います。
飛んで行ったジャガイモが男達に当たって、男達は吹っ飛ばされてますね。で、いつの間にかあの危ないエルフさんも蔦に向かって刃物を振り回しています。うん、やっぱり危ない人です。
「ジャガイモの上に載っている子供を狙いなさい!テイマーか召喚士です!」
「何だと!」
「馬鹿野郎、子供を狙えるか!」
何か周りで叫び声が不穏です?
その時、神樹の方から何かが発せられるのを感じました。
「神樹様から恐れと怒りが感じられます!早くその異物を排除するのです!」
「たしかに、神樹様から怒りが感じられる」
「これは!だが、この怒りは」
危ないエルフの叫び声や周りにいる人達の叫び声、混沌ってこんな感じなのかもですがジャガイモさんピンチなのです。蔓がすでに3本に減ってますし、数本槍のようなものが刺さっています。
私へと向かって飛んでくる矢を無理して防いでくれる為、その際に切り裂かれてしまいました。
「ジャガイモさん逃げて、雑草さん達もいなくなっちゃったよ?」
足から伝わる痛み以上に、ジャガイモさんから伝わってくる思いのような物を感じます。
このジャガイモさんを死なせちゃっていいのでしょうか?世の中はなんと不条理なのでしょう。
ジャガイモさんが逃げるにしても、私が邪魔になってしまいます。でも、先程からの攻撃を見ている限り地面に潜ればまだ助かる可能性は高いです。
「あと少しです!」
「な、なんだあれは!」
「な、空を、空を見ろ!」
危ないエルフさんの叫び声が響き渡った時、其れにかぶさるように叫び声が響き渡ります。
そして、叫び声の方向を見る・・・と、空が大小さまざまな鳥で覆われていました。
「なんだあれは」
「鳥からも怒りの思念がきてるぞ」
「うわぁ!も、門を閉じろ!」
遠い門の方でも叫び声が小さく聞こえました。空を見ていた者達が門の方へと視線を向けると、門から次々に角の付いた動物達が町の中へと駆け込んできます。
「駄目だ!門を閉めれない!」
「馬鹿か!門を閉めるな!動物達と敵対する気か!」
余りの光景に、誰もがジャガイモさんへ攻撃する事も忘れて見入っています。
ジャガイモさんはその隙にじりじりと移動して、私をお母さんの方へと運ぼうとしてくれていました。
「あ、駄目、急いであの魔物を退治しないと!」
「そ、そうか!」
気付かれた!むぅ、あと少しなのに!
お母さんとお父さんは周りの状況に怯えながらも、立ちつくす人達の間を抜けジャガイモさんへと辿り着き、私へと手を伸ばしてくれます。
「イツキ!手を伸ばせ!」
「イツキちゃん、こっちへ来て!早く!」
お母さん達の声に、私は足の痛みに耐えながら、ジャガイモさんの上からお父さん達の方へ転がり落ちます。そして、お父さんがしっかりと私を抱き留めてくれました。
「あ、あぅ、お、おとうちゃまぁ」
両親の下へと辿り着いたからとはいえ安全が保障された訳ではない事は解っています。
それでも、わたしは足の痛みを忘れて安堵の息を吐きます。そして、気が緩んだのかふっと意識が遠くなりかけた時、周囲で絶叫が響き渡りました。
「な、なぜ、や、やめ!」
「うぎゃあ!な、なぜ動物達が」
「目が、目が見えん!」
周囲でジャガイモさんを攻撃していた人達が、大鷲に!狼に!更には大型猫、兎、リスなどに!攻撃されていました。あまりの数に反撃など出来ず、ただ体を丸めて防御する男達を動物達は鋭い爪や嘴、牙、後ろ足で攻撃していました。
「な、なぜ、痛い!こ、攻撃されるの!か、神樹さま!た、たすけて」
周りを取り巻いていた者達も、遠巻きに見ている事しか出来ない。
その間に、わたしはジャガイモさんへお礼を言った。
「助けてくれてありがとう」
ジャガイモさんは、まともな長さの蔓は既になく、体?の至る所が傷つき、その傷から汁が流れている。
「あ、だめ、このままだと酸化して痛んじゃう!ど、どうすれば!」
余りの姿に動揺する私に、ジャガイモさんは短くなった蔓をスススっと左右に数回振ると、無言で地面へと潜って行きました。その姿をただ、私は感謝の涙を流しながら見ています。
すると、その視線の先に葉っぱがなくなってしまった雑草さん達が、相変わらずのニパッ!ニパッ!という笑顔を浮かべているのが見えました。
その笑顔に思わず痛みも忘れて、私も微笑み返しました。
「よかった、雑草さん達も生きてた・・・・でも、スキンヘッドの私の顔って・・・ないわぁ」
心に隙間風が吹き抜けますよ?




