2-45:イツキのイツキによる・・・
頭を抱えてしゃがみ込んでいるイツキです。
思いっきりタンコブになっちゃいます。涙で滲む視線で、私のデリケートで、精密で、愛らしい頭にぶつかった不埒者を探します。
うろうろうろ・・・あ、これだ!絶対これだ!如何にも固いですよ!と主張しているクルミを二回りくらい大きくした物が転がっています。ヤシの実事故で大怪我をする人だっているのです、下手したらイツキちゃんのラブラブ食っちゃ寝ライフが頓挫するところだったのですよ!
「くぅ、この実が頭に落っこちて来たのですね!」
5歳児には片手で持つには大きいですので、両手でもって神樹へ向かって投げつけようと持ち上げます。
「ふんぬ!イツキちゃんを攻撃した事を後悔するのです!え~~い、ほぇ?」
体全体を反らして、思いっきり力を込めた所で、ひょいっと両手で持っていた木の実をおじさんに略奪されました。そのせいで危なくひっくり返る所だったのです。
「むぅぅ、何をするのですか?」
怒り心頭の私そっちのけで、おじさんは驚きの表情で木の実を眺めています。
すなわちですよ、私を無視しているのです。これって脛を蹴っても良いですよね?
「せ~~~の!えい!」
「おわっ!何をする!」
「それはこっちの言葉なのです!イツキちゃんの木の実を勝手に奪ったのです!」
せっかく脛を蹴ったのに、間一髪で避けられてしまいました。結構悔しいのです。
「馬鹿!これは神樹の種だぞ!」
「???」
何を言っているのでしょう?見れば種なのは解りますし、種なんか実の中に入ってるんですよね?
今一つこのおじさんが言っている意味が解りません。
「はぁ、とにかくこれは凄いものなんだ!子供のおもちゃに何か出来ん!」
この時、私の頭の中で凄い物=お金になるの図式が成り立ったのです。
「駄目です!それはイツキが痛い思いをして貰ったのです!イツキの物です!」
「馬鹿!だからこれは子供のおもちゃじゃないんだ!」
「イツキの物を取るなんて泥棒なのです!」
私が言い合いをしていると、私達の周りに次第に人が集まり始めます。む、目立ってしまいました。
しかし、これはイツキにはチャンスなのです!このチャンスを最大限に利用するのです!
「う、うわぁ~~ん、おじちゃんがイツキのもの盗った~~~」
「お、おじちゃん?!」
ん?何か反応したところが予想と違う気がしましたけど、とりあえず周囲を味方につけよう泣く子は怖いぞ作戦開始なのです。
「イツキのなのに~~、イツキが、イツキが貰った物なのに~~」
「そういう問題じゃないんだ!」
くぅ、しぶといのです。この業突く張りのおっさんなのです。
しかし、わたしの身長では種まで届かないので奪い返せないのです。どうやって奪い返せばと泣き真似をしながらも必死に頭を働かせていると、周りを取り囲んでいる人の中から数人の人が前へと出てきたのです。
「これは、何事なのですか?幼い子供が泣いているのに皆なぜ放置しているのです?」
「あ、村長!これ見てください!」
前に出てきた人の中で、一番前にいた20歳くらいの女性が声を掛けてきました。その人に業突く張りが種を見せます。
「むぅ、それはイツキのなの!」
「え?イツキ?」
その女性は、自己主張する私へと視線を向けます。で、わたしもその女性を見返しますけど・・・うん、この人は自己主張はあまりしない慎ましい方ですね。
「・・・貴方いま何を考えました?」
「ん?何にも考えてないですよ?」
危ないです!なんか黒いオーラが滲み出してます?敵に回すと危険なタイプなのです?
でも、今生で初めて見ました。長い耳がピコピコしているのです。初エルフなのですよ!
「こほん、で?神樹の種ですか、珍しいですね」
「ああ、これで畑を拡張できる」
「そうですね、でもこの時期に神樹様が種を作るのは珍しいですね」
「ああ、室内で育てて春に植え替えってところかな?」
二人は私を無視して会話を進めています。でも、その種はイツキのなのです。さっきからそう主張しているのに、二人ともまったく聞く気がないのです。
むぅ、あの種を何とか手に入れないとお金が入らないのです。いつでも奪い返せるようにじ~~っと種へと視線を注ぎます。でも、中々これと言ったタイミングが定まりません。
うに~~~、うに~~~とゆらゆら動く種に視線を併せて私もうに~~うに~~と動きます。
そんなわたしに気が付いたのか、エルフの女性は今度は種ではなく、私に興味を移したようです。
「ところで、このお嬢ちゃんはだれ?」
「その種の被害者兼所有者なのです!」
すでにぷっくりタンコブが出来ている頭を指さして主張しますよ!ここで引き下がったら負け確定なのです。我が家の平穏はこの一戦にあるのです!
「えっと・・・どういうこと?」
主張の意味が解らなかったのか、エルフさんはとなりのおっさんに尋ねます。ただ、おっさんは肩を竦めるだけで何も答えないのです。このおっさん許すまじです!
「その種はイツキちゃんの頭に落ちて来たのです!だからタンコブが出来たので、その種はイツキちゃんのです!」
「はぁ、だから、この種はみんなの共有財産なんだ。誰か一人の物なんてありえないんだ」
むっき~~、何ですかそのどうでも良さそうな、真剣みの無い態度は!怒髪天物です!
「え、え~~っと、そうね、神樹様のお恵みはその村共有の財産っていうのが決まりごとなのよ?それと、お嬢ちゃんはイツキちゃんっていうのかな?」
身を屈めて私に諭すように話すエルフさんですが、神樹だかなんだか知りませんが、あれは子孫から私への贈り物なのです。それを勝手に奪うのは許されないのです。
「わかりました。貴方方があくまで私の種を奪うと言うのならば・・・戦争なのです!」
ビシっと指差して宣戦布告を行います。これは、イツキのイツキによるイツキの為の戦争なのです!
私の尊厳と、イツキの子孫たちとの交流に対する挑戦なのです!受けて立たねばならないのです。
いきり立つ私に、相変わらずおっさんは馬鹿にしたような視線を向けますが、あとで泣きを見るのはそちらなのです。
「さぁ、イツキちゃんの宣戦布告なのです!我が子孫たちよ、今こそ全ての母たるイツキちゃんの為に力を合わせるのです!」
神樹へと指示を飛ばしますよ!この子はぜったい私の感情を認識しているはずなのです。
「え~~っと、これって中二病っていうんだっけ?」
「さぁ?ただメンドクサイ仕事請けちまったなぁ」
何か二人が失礼な事を言っています。
でも、私の怒りが体中から溢れ出るのを感じるのです!さぁ、目覚めるのです、我が眷属達よ!
ざわざわざわざわ・・・・・
神樹が揺れ始めます。私の思いに神樹が反応したのです。そして、エルフさんは慌てて神樹へと視線を向けます。そして、両手で口元を覆い、驚きの声を上げました。
「う、うそ!神樹様から何かしらの意思が四方へと向け飛ばされてるわ!こんな事今までなかった!」
「今更なのです。自分達の行いを反省するのです!」
わたしは、ゆっくりと神樹の下へと歩き、その枝の下、即ち神樹の庇護の下へと退避しました。
これで私への攻撃から神樹がきっと守ってくれるのです。
「さぁ、イツキちゃんの逆襲な、ふぎゃ!」
私の頭上、しかも先程のタンコブの上を何かが落下してきたのです。
「あぅ、あぅ、い、痛いの、です~~~ふえぇ~~~~~ん」
ほのぼのと違うとのご指摘があったので、ちょっと考えてみたのです。
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ほんとうは、のんびりしたいけど、ぼうりょくはとまらないの
で、ほのぼのとかは、あ、駄目ですね・・・




