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2-37:その頃の村では?

イツキ達が村を出発して間もなく、村の広場は喧騒に包まれていた。

二人の男を中心に村の者達が取り巻き、怒号が飛び交う緊迫した状況を迎えていた。


「ジャベール、そこを退け」


村の男達の中でも一際大柄で、日々鍛えられた筋肉が鎧のように黒く輝いている。

その男は腰に幅広の剣を手に、背後に数人の仲間を連れて村の入り口へと向おうとしていた。

そして、その男達の前をジャベールが遮っている。そのジャベールの背後にも同様に数人の男達が立ち、村の入り口をしっかりと塞いでいた。


「フレッド、何処へ行く気だ?」


ジャベールは視線をフレッドへと向ける。その視線は非常に厳しく、また体全体からは明らかに戦闘に向けた気配が感じられる。その後ろにいたルテクなども同様に、こちらはすでに腰に着けていた鉈に手を掛けている。


「ジャベール、邪魔をするな。村を危険に巻き込む可能性は減らさなければならない」


「その話は昨日までで終わったはずだ」


イツキ達を村から出す、それはこの村の位置を他の者達に知られてしまう危険を孕んでいる。

特に亜人達に知られる事は何としても防がなければならない。その為、当初は追放では無く殺害を意図した物が大部分をしめていた。もっとも、この殺害に関してはこの村を主導する村長によって却下されていた。

ただ是に関しても人道的な意図では無く、村の安全の為という大義名分を笠に着て特定の誰かを殺害する事に危機感を持ったに過ぎない。そして、この決定に対し反発する者達もいる。その筆頭がフレッド達であった。


「なぁ、良く考えて見ろよ、もしこの村の事が亜人達にばれたらお前責任とれるのか?お前だけじゃない、お前の家族だってみんな被害を受けるんだぜ?俺の家族だってそうさ、なぁ、なんでそんな危険を知りもしない、ましてや数日前にこの村へ逃げ込んできた他人の為に犯さないといけないんだ?」


フレッドの言葉に、周囲からも同意の声が上がる。

その声は、取り囲んでいる者達の半数以上は確実にいる。しかし、ジャベールはその声に怯まずフレッド達の行く手を塞ぎ続ける。


「お前の言いたい事は解らなくもない。だが、これはすでに話し合い、村長が決めた事だ。その決断を自分が気に入らないからと言って勝手に動く事は許されない。この村の秩序を乱す行為でしかない」


静かに、ただ冷静に反論する。ただ、その反論は声高々に周囲へと訴えかけるようなフレッドと違い、取り囲む者達には弱弱しく感じられた。もっとも、冷静にこの状況を見定めようとしている者達は、今回のフレッドの行動こそ警戒するべき事に気付きはじめたのだが、その数は決して多くは無い。


「俺達はなにも村長に逆らうつもりはないさ、ちょっとばかり狩に出ようとしているだけだ。なぁ?」


フレッドは自分の背後にいる者達にそう問いかけるが、口元にはジャベール達に対して自分が優位に立っている事を理解した愉悦が見られる。そして、その思いを後押しするかのように同意の声は強くなっていく。


「いい加減にしろよ?なぁ、俺達は村の為にちょっと出かけてくるだけなんだぜ」


少しずつ圧力を高めるかのように前進するフレッドは、ジャベールの目前まで進んできていた。


「お前こそいい加減にしろ。村の決定は絶対だ。もしお前が村の決定に逆らうのなら村を出る覚悟をしろ」


あくまでも村の決定の重視を主張するジャベール、その様子に先程まで野次を飛ばしていた者達の声も次第に静まって行く。


「・・・・チッ!わかったよ、まずは爺を説得しろって事だろ?まぁガキを連れてるんだ、多少遅れようが問題ねぇ、おい、爺の所に行くぞ!」


フレッドは、周りの状況の変化にすぐに気が付いた。そして周りの様子を確認した後、このままジャベールを排除し、イツキ達を追う事は得策ではないと判断を下した。

踵を返し、村長の家へと向かうフレッドとその取り巻き達を見ながら、ジャベールは変わらずに厳しい表情を浮かべて自分を取り囲む者達の表情を確認する。

そして、ジャベールもフレッドの後を追う様に村長の家へと向かうが、ルテクと視線を合す事無く語りかけた。


「ルテク、すまないがこれ以上は無理かもしれん。あの魔物が本当にイツキが生み出したのかは解らんが、村の者達の多くは初めて間近で見た魔物に怯えている。それ故に少しでも不安を減らしたいのだ。たとえ純粋なる人族の仲間を生贄にしてでも」


ジャベールの言葉をルテクは否定する事が出来なかった。なぜなら、あのジャガイモの化け物を見、そして戦った自分とて同じ気持ちを持っている。ただ、その思いの前に同じ島から逃げてきた、そして幼いころから知っている故にもつ仲間意識が、短絡的な感情を良しとしないだけである事に気が付いていた。


「ジャベール、アーキンとは馴染みだったそうだな、すまないこれ以上の助力は貴方の立場を悪くするなら引いてくれ」


ルテクの言葉に、ジャベールは口元を歪ませながらルテクへと視線を投げる。その目は決して笑ってはいない。


「あいつとは親父同士が昔どこぞの兵士をしてたって仲でな、子供の頃に何度か馬鹿やった事が有る。まぁその後お互い住む場所を分けたのが何でなのかは親父が死んじまっててわからんがな。ただ、俺が幼少の頃からの知り合いはもうあいつしか残っていないんだ。だから、出来るだけのことはするが・・・」


その後二人は無言のままに村長の家の中へと入って行った。


夜が更ける時刻まで、村の者達の人数を増やし討議は続けられた。そして討議も終わり、日が暮れた村長の家から男達が自分達の家へと戻る。その時のジャベールとルテクの表情は、夕闇で見る事は出来なかったが足取りは非常に重かった。

感想でどんどん先読みをされてるような・・・・

ジャベールはともかくとして、碌に知らない者の為に家族を犠牲にする、そんな危険を普通は負いたくないですよね?善人悪人どうこうではなく、基準や価値観なんだと思いますよね。

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