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2-9:花壇は荒らされてしまったのです

太陽が水平線へと沈みかけていた。

海岸線に植えられた防風林が、その夕日を受けて暗い影を落とす。

その影を落とす防風林には数十羽の鳥が集い忙しなく鳴き声を上げるが、正に日が沈もうとする瞬間、鳥は今まであれ程上げていた鳴き声を止めた。そして、まるで何かから身を隠すように、または何かに怯えるように、お互いに身を寄せ合い、一切の身動きを止める。


ザザザザザザ・・・・・


太陽が沈むのをまるで待ちかねていたかのように、防風林の奥から何かが地面を踏みしめるような、又は這うような、不思議な音が響き渡る。その数は1つや二つではなく、数十、いや数百ともいった数に感じられる。

本来、太陽が沈むとともに自己主張を始めるはずの月達も、今日は世界を照らす事を躊躇うかのように雲の中へと姿を隠していた。


ザッザツザツザツザツザツ・・・・・・・


目の前に手を翳したとて、その手すら見ることの出来ないほどの暗闇の中、ただ音だけが周囲に何かしらの異常を伝えるのみ。決して途絶えることなく海岸へと向かって何かが近づいて来る。

遠くから響いていた音は、ついには何らかの規則正しいとも言うべき音を響かせている。

そして海岸線付近で止る音、ただ、その音は止る傍から次から次へと防風林の奥からやって来る。


海岸が再び静寂に包まれるのにどれ程の時間が経ったのだろうか、周囲一面に広がる漆黒の闇の中において先程までの音の原因は何一つ見る事は出来ない。ただ、未だに鳥たちは一切の鳴き声を上げる事はない。

ただ波の打ち付ける音が周囲に響き渡るだけ、そんな状況の中において気まぐれな雲が切れ目を造り海岸線を照らし出した。

ただ青白く照らし出された海岸は、一見夕日に照らし出された姿と何ら違う所は見当たらなかった。

もっとも、海へと向かう砂浜が、無数のそれこそ何かが掘り返したかのように荒らされている事を除いたならばであったが。


◆◆◆◆


グ~~ルグルグル、頭を包帯でぐるぐる巻きにされているイツキです!気が付いたらミイラさんの様にお目め以外の頭部をぐるぐるに包帯で巻かれてベットの上で寝かされていたのですよ?

びっくりどっきりですね!あ、お口周りは開いてるので呼吸は出来ます。呼吸が出来ないと死んじゃいますよ!・・・たぶん?


それにしても、私の甘味強奪犯からの卑怯な攻撃を華麗に躱した私でしたが、流石の私も卑怯にも背後から頭ゴツン攻撃には何ともならなかったのです。悔しいですが、まだまだ3歳の未熟な体です、才能だけでは何ともならなかったです!むぅ、悔しいですね!この痛みを糧に更なるパワーアップを図るのです!


・・・え?なんか事実と違う気がするですか?

気のせいですよ?きっと頭でも打ったんじゃないですか?え?頭を打ったのは私ですか?むぅ、これこそ謎が謎を呼ぶ展開って言うのです、今後の活躍に乞うご期待?


うん、ともかくです、そろそろ目が覚めてからずっと私に抱きついて泣き続けているお母さんを何とかしましょうか。


「おかあちゃま、痛い痛いは飛んでけですよ?」


「よかった、目が覚めて本当によかった、イツキちゃん、吐き気は無い?頭はいたくない?」


「うん、もういたくないよ?あのね、おかあちゃま、かがいしゃはどこ?」


周囲をキョロキョロして、諸悪の根源および攻撃者を探します。背後から攻撃するなど許しがたいです!


「え~~っと、かがいしゃって加害者?」


「ん?」


お母さんは何を言っているのでしょう。加害者以外に何がいるのでしょう?もしかして被害者ですか?それは私ですよ?


「ひがいしゃはイツキですよ?」


「え、え~~っと、加害者は・・・つ、土・・・の下・・・かな?」


なんと!すでに私の仇を討ってくれたのでしょうか?しかも、相手はすでに土の下に葬られたのですか!自分の手で成敗したかったのですが仕方がないですね。

卑怯者よ、あの世で己の行いを悔いるのです!


「いや、あの場合加害者は花壇の縁石じゃないか?だから土の下っていうより上?」


「ひっくり返る要因は地面だから下でいいんじゃ・・・」


「そもそも、加害者ってなんだ?」


私が、ついにその姿を見る事の無かった卑怯者に、それでも冥福を祈っていると、何かお母様の後ろで皆がコソコソ話をしています。

ちょっと何を話しているか気にはなったのですが、ふと、花壇が荒らされていく情景が蘇ります。


「おかあちゃま!イツキの大事な花壇は?悪魔がブチブチしたの、毟ったの、お花ないないしたのよ?」


慌てて尋ねる私に、お母さんはふっと目を逸らします。

そういえば、お母さんも一緒になってお花をガジガジしていましたよね?でも、まだ無事なお花だってあったのです!


「花壇みるの!」


急いでベットから飛び降り、お母さんの手をすり抜けて部屋の窓に噛り付きます。花壇を見るのです!


「甘味~~~!」


お花への愛情、熱望を込めて、お外を見ると・・・・おや?花壇はどこに?


「あれ?」


今いるお部屋を見回します。うん、自分のお部屋です。で、お外を見ます。花壇は私のお部屋から見えるのです。


「あ!種の木・・・・ふぇ?」


花壇の中心にあるはずの種の木は見えます。でも、その周りには今朝まで咲いていたはずの花が一本もありませんよ?


「・・・・が~~~ん・・・」


良く見ると、無残にも荒された花壇がありました。あまりのショックにまたもや後ろへひっくり返る所を、慌ててお母さんが抱き止めます。でも、わたしはその時気が付かなかったのです。


ズリズリと花壇の下から何かが這い出しているのを。

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