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捨て猫勇者を育てよう ~教師に転職した凄腕の魔王ハンター、Sランクの教え子たちにすごく懐かれる~  作者: いかぽん
第2部/第1章

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第60話

 その女性勇者は、ギルド内に俺の姿を見つけるなり、驚いたという様子で目を見開く。


「キミはひょっとして、ブレット・クレイディルか……? 魔王ハンターをやめたと聞いていたが」


 重装甲の女性勇者は、鎧をかちゃかちゃと鳴らしながら俺の前まで歩み寄ってくる。


「セシリアさん、ですか……?」


 その女性勇者の姿を見て、俺もまた驚いていた。


 金髪碧眼の美しい容姿でありながら、全身を白銀色に輝く特製プレートアーマーと盾でガッチガチに固めた重装の勇者姿。


 数年前よりも多少大人びてはいるが──俺の知り合いでこんな姿の人物には、“鋼の聖騎士”セシリア以外に心当たりはない。


「やはりブレットくんか! いやぁ見違えたよ。数年前はこんな小さくて可愛い少年のようだったのにな。今や立派な青年になって」


 セシリアはそう言って、自分の胸の前で手を横にして、以前の俺の小ささを表現して見せる。


 なおその表現だと、俺の数年前の背丈は今のメイファ以下だったことになるが、いくら何でもそこまで小さかった覚えはない。


 相変わらず大雑把な人だなと思うが、さておき。


「セシリアさんこそ、昔よりもだいぶ大人びていて、見違えましたよ」


「はっはっは、まあな! ──って、誰が年増だって?」


 セシリアは急に、瞳の奥に闇を宿らせる。

 俺の両肩にがしっと両手を置くと、ぎりぎりと力を込めてきた。

 

「い、言ってませんて! 痛い痛い、力強い!」


「ううっ……毎年実家に帰るたびにチクチク言われるんだ……。誰かいい人はいないのか、孫の顔を早く見たい、などとな……。なあブレットくん、結婚をして家庭を持つことだけが人の生きる道ではないと思わないか? そもそも私たち勇者が世界の平和を守っているからこそ──」


「そ、その話、俺は関係ないっすよね!? セシリアさんと親御さんとの間の話ですよね!?」


「はっ……!? そ、そうだ、すまない。つい日ごろの鬱憤が愚痴になって出てしまった」


 セシリアさんは正気を取り戻し、俺の肩から手を離してくれた。


 両肩がにぎり潰されるかと思った……。

 相変わらずのバカ力と暴走癖だ。


 ちなみに、うちの三人の教え子たちはというと──


「……また昔の女っぽいのが出てきた。……お兄さん、無自覚に気に入られすぎ問題」


「先生より強くて美人とか、ちょっとまずいかも……」


「よし、いざとなったら三人で畳んで埋めるぞ」


「「了解」」


 などと、何だかよく分からないが恐ろしげな談合を行っていた。


 一方でセシリアはというと、こちらも俺の隣にいる三人の教え子たちの姿に気付いたようだ。


 そして可憐な少女たちを見た重装の女性勇者は、その瞳をキラキラと輝かせ始める。


「なっ……か、可愛い……! ──ブレットくん! この子たちはいったい、キミの何なんだ!?」


 セシリアは再び俺の肩をつかむと、今度はがくがくと揺さぶってきた。


 脳がシェイクされる。

 あと顔が近い。


「ゆ、勇者学院の教え子たちですよ……。俺、魔王ハンターをやめてから勇者学院の教師をしていまして。と言っても、俺が教えられることはほとんど教え切っちまったんで、今は実戦経験を積むためのフォローをしているぐらいですけど」


「うわぁ……いいなぁ、いいなぁ……勇者学院の教師って、こんなかわいい子たちといつもハァハァできるんだ……私もなろうかな、勇者学院の教師……ハァハァ……ハァハァ……」


 セシリアは鼻息を荒くし、欲にまみれた瞳をリオ、イリス、メイファの三人へと向けた。


 さっきまで恐ろしげな相談をしていた三人だったが、その視線にさらされると一様にビクッと震えあがり、全員逃げ込むようにして俺の後ろに隠れる。


 セシリアさん、昔から可愛いもの好きだったからなぁ……。

 以前の俺も少年扱いで可愛がられ、散々頭をなでられたり抱きつかれたりしたものだが。


 それにしてもこの人、以前よりもさらに性癖がひどくなっている気がするぞ。

 長い独り身生活で拗らせたのか知らんが、せめて隠そうとする努力ぐらいはしろよ。


「あー、無理っすね。セシリアさんを勇者学院の教師にするのは、凶悪犯罪者を一人生み出すのと同義ですんで」


「えーっ、何故だ!? 私ほど子供を愛している勇者もそうはいないぞ!」


「だからだよド変態。あんたは一生魔王ハンターやってろ」


「ひどい、あんまりだ! ──よし分かった。子供たちがダメならブレットくん、キミでも構わない。私のこの冷たく凍った心を温めてくれ! キミもだいぶ育ってしまったが、まだ私的にイケる範囲内だ!」


「もういい加減黙りませんかねこの犯罪者予備軍──って寄るな寄るな! 顔を近付けるな!」


 俺の肩をつかんだまま、ぐいぐいと近寄ってくるセシリア。


 目がヤバいし力が強い。

 美人なのに、ハァハァと鼻息を荒くしているからまともに異性として見れない。


 と、そこに──


 ぺいっと、間に割り込んだリオの手が、俺に近付こうとするセシリアの顔を押し返した。


「んん……?」


 セシリアは、きょとんとした様子で俺から離れる。


 リオ、イリス、メイファの三人が俺を守るように立って、セシリアに向かってこう言い放った。


「に、兄ちゃんは渡さねぇぞ!」


「先生が欲しければ、私たちを倒してからにしてください!」


「……お兄さんは、もうボクたちのもの。……昔の女の出る幕じゃない」


 あー、うん。

 一応ツッコんでおくと、俺は別にキミたちのモノでもないからね。



 ***



 ……とまあ、勇者ギルド内では、そんなカオスな出来事があったわけだが。


 しかしそれも、俺たちならばいつもの奇行だと思われて、周囲の人々からは見事にスルーされた。


 職員さんたちもほかの魔王ハンターも、我関せずという態度で平常運転である。

 ははは、普段の行いがモノを言ったな。


 ちなみに、その後は別に両者の間でバトルが起こるようなこともなく、普通にセシリアが退いて終わった。


 ただ、顎に手を当てて「ほぅ……」などとつぶやいていたので、何を考えていたのやら知れたものではないが。


 それはさておき、俺たちは目的であった勇者カードの受け取りを終えたので、あとは村に帰還するばかりだ。


 勇者ギルドでセシリアに偶然出会うというアクシデントはあったが、それ以外は特に何事もなく無事に村まで帰り着くことができた──と、なるはずだったのだが。


 リット村までの帰り道、俺は自分の隣をかちゃかちゃと鎧の音を立てて歩く女性勇者に質問する。


「あの、セシリアさん」


「何かなブレットくん」


「何かな、じゃなくて。……なんでついてきてるんですか?」


 リット村へと続く森の小道。

 俺と三人の教え子たちのほかにもう一人、余計な勇者がついてきていた。


 誰かと言えばもちろん、“鋼の聖騎士”ことセシリアである。


「私がなぜキミたちについていくか、か……。それはまた、ずいぶんと哲学的な質問だな」


 俺の隣を歩いていたセシリアは、そう言ってそらっとぼける。

 いや哲学性などどこにもないと思うが。


 ちなみにリオ、イリス、メイファの三人は、セシリアに向ってしきりに威嚇と牽制の態度を見せていたが、当のセシリアに効いた様子はまったくない。


 セシリアは、ふふふと笑いながら言う。


「では、そうだな……またあの当時のように、私がブレットくんとともに眠れぬ夜を過ごしたい──という理由ではダメか?」


 その言葉に、三人の教え子たちがびくっと跳ね上がった。

 一方で俺は、ひとつ大きくため息をつく。


「そういうあらぬ妄想をさせるような言い方はやめてもらえませんかね。確かに二人で一緒に夜通し魔王退治をした日はありましたけど」


「あのときにブレットくんにぶっかけられた体液のことは、今でも忘れられないな……」


巨大蟻の(ジャイアントアント)魔王(ロード)が、とんでもない数の巨大蟻を生み出してましたからね。たしかに俺が斬った蟻の体液が、返り血よろしくセシリアさんにかかったこともありましたね──って、そうじゃなくて」


 森の小道、俺はその場で立ち止まって、セシリアさんにジト目を向ける。


 するとセシリアさんは、少し拗ねたように顔をしてこう言ってきた。


「どうしても、ついていったらダメか……?」


「いや、ダメっていうほどの理由もないですけど。ていうか、なんでそんなについてきたいんです?」


「だぁって! ついて行ったら楽しそうなんだもん! お姉さんだって独り身は寂しいの! 冷たくしないでよぉ!」


「子供か。……いやだったら、彼氏でも何でも作ればいいじゃないですか。セシリアさんなら普通にしていれば、寄ってくる男の一人や二人はいるでしょうに」


「……だって、私が気に入った可愛い男の子に話しかけても、なぜかいつも怯えて逃げられるんだもん」


「…………」


 この人なんで、刑務所にぶち込まれないで自由に出歩いているんだろう。

 第一級の危険人物なんじゃないだろうか。


 こんな人が世界最強にほど近い実力を持った勇者の一人だというのだから、世の中恐ろしいものだが。


 ……でも、そうか。

 こんな人でも、実力はあるんだよな。


 セシリアさんの指導を受けられれば、リオたち三人も何か得られるものがあるかもしれない。


「分かりました。そこまで言うなら、二つ条件を出します」


「本当か!? 条件というのは──」


「一つ目、うちの教え子たちに勇者としての技術指導をすること」


「お安い御用だ! むしろ願ってもない! 手取り足取りたっぷりと教えよう!」


「二つ目、うちの子たち──リオ、イリス、メイファの三人の許可を得ること」


「えっ」


 俺がそんな条件を出した結果、セシリアは三人の少女たちの前で道端で土下座をしてまで頼み込んで、同行の許可をもぎ取ったのだった。


 何がそこまで彼女をかき立てたのか不明であるが、これで高レベルの指導者を一人確保だ。

 俺では教えられないが、セシリアなら教えられるという技術もある。


 そうして俺の教え子たちは、しばらくの間セシリアから指導を受けることになったのであるが、その成果は目覚ましいものとなった。


 メイファは相性が悪かったが、リオは【月光剣(げっこうけん)】という剣技を、イリスは【究極治癒(アルティメットヒール)】という魔法を、それぞれに獲得した。


 それらがどんなスキルだったかというと──


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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公よ、それは手遅れと言うやつである。 なんかまたトラブルメーカーみたいなのが出てきたなあ。
[一言] ダメだこいつ、一緒にいたらブレットが男の娘に目覚めそうだ
[一言] だったかと言うと…?
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