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捨て猫勇者を育てよう ~教師に転職した凄腕の魔王ハンター、Sランクの教え子たちにすごく懐かれる~  作者: いかぽん
第2章

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第22話

 リオがデレ期に入ってきたような気がして、これは合法的に抱っこが許されるのではないだろうかなどとも思ったが──今は魔王退治の最中だ、真面目にやろう。


 というわけで、作戦決行だ。


「よし、じゃあ行ってこい」


 俺がそう言うと、三人はうなずいてスタート位置についた。


 それから三人一斉に、隠れていた木の陰から飛び出した。


「頼んだぜ、イリス、メイファ!」


 リオ一人が、そのまま足を止めずに駆けていく。


 イリスとメイファは、洞窟への射線が通る位置まで出ると、そこで足を止めて、片や弓を構え、片や魔法のための精神集中に入った。


 目標は、彼女たちから幾分か離れた洞窟前にいる、見張りのオークだ。


 鈍重なオークは、武器を手にした少女たちが視界に現れたのをしばらくぼんやりと見ていたようだったが、やがて慌ててぶるぶると顔を振って臨戦態勢をとった。


 だがオークが慌てたのも一瞬のこと。


 見張りオークは、リオたち三人を敵ではなく獲物と捉えたのか、ぐひっと口からよだれを垂らしてニタニタしながら歩み寄ってきた。


 バカめ。

 うちの教え子たちは、ただの可憐な少女じゃないぞ。


 最初に攻撃動作が整ったのは、イリスだった。


「──当たって!」


 引き絞ったショートボウから矢を放つ。

 矢はまっすぐにオークに向かって飛び──


 ──ドシュッ!

 オークの出っ張りすぎた腹部に突き刺さった。


 激痛の叫びを上げる見張りオーク。

 だが致命傷にはほど遠い。


 怒り狂ったオークは、イリスに向かって駆け出そうとしたが、そこに──


「……まだまだ、終わりじゃない。──【炎の矢(ファイアボルト)】!」


 ──ボボンッ!

 メイファの魔法攻撃が炸裂した。


炎の矢(ファイアボルト)】は魔力によって火の玉を作り出し、それを矢のように飛ばして敵にぶつける魔法だ。


 最初級の攻撃魔法の一つだが、術者の魔力の大きさに応じて作り出せる火の玉の数が変わるという特徴がある。


 今のメイファの魔力だと、一度の【炎の矢(ファイアボルト)】で作り出せる火の玉の数は二つだ。


 その二つの火の玉が、オークの巨体にたて続けに直撃した。


 火の玉ひとつでも、ゴブリンのような小型モンスターなら一撃で打ち倒すだけの威力があるのだが──


『──グォオオオオオオオッ!』


 オークはイリスの矢に加え、メイファの【炎の矢(ファイアボルト)】の二弾直撃を受けてなお、倒れることなく天に向かって咆哮した。


 さすがはタフネス自慢のオークだ。

 猛攻を受けてふらふらになりながらも、その瞳に怒りを宿してイリスとメイファを睨みつけ、その口からだらだらとよだれをたらす。


 だが、そこに──


「──まだだぜ! テメェの相手は、もう一人残ってんだよ!」


 オークの巨体に向かって猛然と駆け込んでいく、小柄な少女の姿があった。

 リオだ。


 オークから見て斜め前方の方向から、あっという間の速度で接近していくリオ。


 それに対しオークは、慌てて棍棒を振り上げるが──


 その棍棒が振り下ろされるよりも、リオがオークの懐に飛び込む方が遥かに速かった。


「──はあっ!」


 ──ザシュッ、ズバッ!


 リオは【二段切り】によって瞬く間に二発の斬撃を叩き込むと、すぐに転がってオークの間合いから抜け出した。


『──グギャアアアアアアッ!』


 そのオークはついに、断末魔の悲鳴を上げて後ろ向きにどうと倒れると、そのまま動かなくなった。

 目標撃破だ。


 ちなみに、結果としてリオの最後の回避行動は必要なかったが、あれもいい判断だ。


 初見のモンスターなのだから、集中攻撃で倒せなかった場合のことも考えて動くのは、リスク回避の観点から望ましい。


 俺はメイファとイリスを連れて、洞窟前のリオのもとまで行く。


 リオ、イリス、メイファの三人は、まずは三人で手を合わせて「いえーい!」「やったね!」「……さすがボクたち」と言って互いの健闘をたたえ合った。


 そして次に──


「なあ兄ちゃん、どうだった?」


 リオを先頭にした三人は、褒めてほしそうな目で俺を見上げてきた。


 いや、そんな目で見られたら、もうね。


「よーしよしよし! リオもイリスもメイファも、みんな良かったぞ! 最高だ!」


「わふっ」

「きゃっ」

「あう」


 俺は腕を広げて、三人まとめて抱き寄せた。

 そして猫可愛がりするように、みんなをなでこなでこしていく。


「うあ……兄ちゃん、今度はオレたちまとめて抱っこかよ……まあ、いいけど……」


「ふああっ……ふわああああっ……先生に、先生にっ……!」


「……ロリコンのお兄さんが、ついに本性を現し始めた。……でも、苦しゅうない」


 ああもう可愛いなぁ、可愛いなぁ。


 何なら三人のほっぺたにちゅっちゅしたい、キスしたい。

 ダメか。

 ダメだな。

 しょぼーん。


 ……とまあ、我を忘れて暴走するのはこのぐらいにして。


「さてと──」


 俺は三人を解放すると、洞窟のほうを見る。

 そして──


「──【拡大聴覚(ハイヒアリング)】」


 遠くのかすかな音も聞き取れるようになる魔法を使った。

 俺を起点に、水面を波動が伝わるようにして、音のセンサーが広がっていく。


 洞窟内の反応は──ないか。


 オークが結構大きな叫び声をあげていたから、洞窟内にいるオークに気付かれた可能性を懸念したのだが、洞窟自体が結構広いのか、特に反応はないようだった。


 その俺の様子に気付いたリオが、首を傾げる。


「……? 兄ちゃん、今、何したの?」


「洞窟内の音を拾っていた」


「音……?」


「ああ。洞窟内のオークたちが襲撃に気付けば、すぐに飛び出してくるかもしれないからな」


「あ、そっか。さすが兄ちゃん」


「おう、もっと褒めてもいいぞ」


 本当のところを言うと、見張りのオークは声をあげさせずに倒すのが望ましかったのだが、そこまでを今の三人に要求するのはいくら何でも無理があるしな。


 教え子たちには適切な難易度のスモールゴールを用意してやって、着実にステップアップしていってもらいたいところだ。


 それから俺は、再び三人を集めて伝える。


「よし──次は洞窟探索だ。ここから先は臨機応変になるぞ。いちいち俺に答え合わせしてから行動していたんじゃ間に合わないから、各自で判断して行動するように。いいな?」


「「「はーい」」」


 教え子たちの元気のいい返事。

 素晴らしい。


 なんならもう一度抱きしめてなでなでしてやりたいぐらいだが、キリがないので自重しておく。


 さて、次は洞窟探索だ。

 引率の先生として、しっかりとお仕事をしないとな。


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