第127話
活動報告にて、第1部のライバル三人衆のキャラデザ公開です。
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海水浴場に着いたら、まずは着替えだ。
俺は女性陣と別れて、男性用の更衣所で海水パンツ一枚の姿に着替えていく。
しかし、と更衣所で着替えながら思う。
アルマ、セシリア、リオ、イリス、メイファ──
さっきまで連れがぞろぞろといたのに、男女に別れたら唐突に俺一人だ。
あらためて考えると、男女比がとてもおかしい。
俺の置かれている状況は、ひょっとしてひょっとすると、俗に言う「ハーレム」というやつなのではないだろうか?
そう思ってしまってから、俺はぶんぶんと頭を横に振る。
「いやいや、落ち着け。少なくとも子供たちは勘定するな」
俺は自分に言い聞かせるように、そうつぶやく。
アルマとセシリアの二人だけなら、俗に言う男女の関係でもないわけだし、別にそんなにおかしな話ではない。
学校の同僚、家政婦兼魔王ハンター仲間、教え子三人。
よし、問題ない、普通だ。
俺は着替えを終えると外に出て、更衣所の前で女性陣が着替え終えるのを待つ。
じわじわと日射しが照りつけてくるので、建物脇のちょっとした日陰へと移動する。
そこで腕を組んで、壁に背を預けて立ちながら待つことしばらく。
やがて女性陣が着替えを終えて、女性用の更衣所から出てきた。
「兄ちゃん、やっほ~♪」
「先生、お待たせしました」
「……女子のほうが、着替えに時間がかかるのは、普通のこと。……お兄さんはボクたちを待っている間、ワクワクできた。……問題ない」
まずはリオ、イリス、メイファの三人。
メイファが無駄に図々しいことを言うので頭ぐりぐりしてやりたくなるのはさておき。
三人の水着姿は昨日見ているので、特に驚くべきことはない。
ただ陽光の下だとまた少しおもむきは違って、三人の姿がキラキラと輝いているようにも見えた。
そんな三人が更衣所から出てきたタイミングで、周囲からは「おおーっ」というどよめきの声が上がる。
当然だが、海水浴客は俺たちだけではない。
この暑い夏場に、海岸都市シーフィードまで泳ぎにくる人々はたくさんいる。
その人々の目が、うちの三人の教え子たちへと注目していた。
それに気付いたイリスが「はわわっ」と言って、恥ずかしそうにリオの後ろに隠れる。
リオはそんな次女に、「そんな恥ずかしがることねぇって。堂々としてりゃいいんだよ」などと言いつつも、しっかり妹のことは庇ってやっていた。
リオ自身は有言実行、堂々としたもので、水着姿を注目されても平気なようだ。
アイドル衣装姿で戦えと言われたらあれだけ恥ずかしがったのに、不思議なものだ。
スポーティな格好だと大丈夫なのかもしれない。
なおメイファはというと、いつも通りに泰然自若、まるで気にした風もない。
相変わらずあいつはハートが強いな。
しかしそれにしても、公共の場だから仕方ないとはいえ、周りの男どもにはうちの子たちをあまりじろじろ見るなよなと言いたい。
とりあえず俺が全力で睨みつけておくと、周囲の男たちは慌てて目を逸らした。
アイドル級に可愛いうちの子たちに悪い虫が近寄らないよう、俺は番犬の役割もしなければならないようだ。
そして、さらに──
「お待たせ、ブレット先生♪」
「やあ、ここはまるで天国のようだよ、ブレットくん。私は幸せすぎて、天に召してしまいそうだ」
大人の女性二人組──アルマとセシリアが更衣所から姿を現した。
青天の太陽から降り注ぐ陽光が、二人の姿を燦然と輝かせる。
アルマは相変わらずスタイルがいい。
出るべきところはほど良く出て、引っ込むべきところはきゅっと引き締まっている。
今年の水着は彼女の髪色と合わせたのか、赤系統の色のビキニスタイルだ。
眼鏡はいつもどおりに付けたままで、泳ぐときだけ外すのが彼女のいつものスタンスである。
しかしアルマのやつ、なぜだか毎年違う水着を調達しているんだよな。
王都の学院に勤務しているエリート教師でありながら独り身だから、独身貴族で金余りしているんだろうか。
「うふんっ。ブレット先生、どう? あたしってば可愛い?」
冗談めかすようにしてしなを作り、蠱惑的なポーズを俺に見せつけてくるアルマ。
しかしその頬はやや赤く染まり、眼鏡の奥の瞳は俺の顔色を窺うような切なげな色に揺れている。
毎年恒例行事のようにこれをやるんだから、アルマのやることもときどきよく分からない。
「おう、今年も可愛いぞアルマ。よく似合ってる」
「ホントっ!? やった♪」
俺が素直に感想を言うと、アルマは喜色満面、パァッと表情を輝かせる。
この流れは毎年やっている気がするんだが、飽きないな本当。
あとせっかくなので、俺は毎年不可解に思っていたことをアルマに打ち明けることにした。
「けどお前、そう毎年水着を変えるのもったいなくないか? ほとんど一回ずつしか着てないだろ。なんで変えてるのか知らないが、さすがに無駄遣いが──痛てっ! な、何すんだよリオ」
俺がアルマに疑問をぶつけていると、近くにいたリオが俺の脚に軽い蹴りを入れてきた。
何事かとリオのほうを見ると、リオはまっすぐに俺を見つめて何やら抗議をしてくる。
「兄ちゃん、アルマ姉ちゃんが可哀想! ホント鈍感もほどほどにしろよな」
「な、何だよそれ。それとこれと何の関係が──お、おい、リオ」
リオは俺を無視してアルマのほうにてててっと駆けていくと、背伸びして手を伸ばして、アルマの赤髪をよしよしとなでた。
「アルマ姉ちゃん、うちの兄ちゃんがホントしょうがなくてごめんな?」
「ううっ、リオちゃんありがとう。リオちゃんは優しいね」
アルマはなぜだか涙をだばだばと流しながら、リオにひしっと抱きついていた。
なんのこっちゃ。
ちなみにイリスも、「先生、いくら何でも、今のは……」などと言って困ったような表情を浮かべていたし。
メイファもまた、「……お兄さんだから、しょうがないね」とつぶやきつつ大げさに肩を竦めていた。
何だか分からないが、どうやら俺が悪いらしい。
はいはい、どうせ全部俺が悪いですよ。
なおもう一人、セシリアはというと、リオとアルマのやり取りを見て「はわわっ……女の子が大人の頭をなでなで……しかも抱きしめられている……尊い……ハァ、ハァ」などと危ない様子を見せていた。
うん、悲しいぐらいいつも通りの、危ないセシリアさんだな。
しかしその危ない人の容姿はというと、決してバカにはできない。
金髪碧眼でモデル体型の彼女は、まさに誰もが羨む大人の美人女性を体現したようなセクシーさである。
そんなセシリアが身に着けている水着は、大胆な黒のビキニだ。
戦闘時の甲冑や盾の色が白系統だから、なんとなくイリスと同じような白系の色の水着を予想していたので、ここは少し意外だった。
どこかヴァンパイアになっていたときのセシリアを連想させるな。
悪魔的な魅力があって、その辺の少年少女を誘惑して悪の道に落とさないかどうか心配になるほどだ。
まあ実際には、中身はちゃんと元のポンコツお姉さんに戻っているから大丈夫だと思うが……って、それは本当に大丈夫なのか?
ううむ、この人も見張ってないといけないのか……。
まいったな、俺の仕事が多いぞ。
ちなみに、そんな俺に周囲の人々から向けられた視線はというと──
「あ、あの野郎……一人であれだけの美女や美少女をひとり占めだと……?」
「ロリからお姉さんまで、より取り見取りかよ……ゆ、許せねえ」
「どうして世の中はこんなに不公平なんだ! ちくしょう!」
などと、あらぬ疑惑の目を向けられていた。
実際には教え子と同僚教師と家政婦なんだが、外野から見たらそんなことは関係ないんだろうな。
やれやれ、まったく困ったもんだ。
まあ、それはともあれ。
「それより兄ちゃん、早く泳ぎに行こうぜ!」
いつの間にかアルマのもとから離れていたリオが、俺の手を取って急かしてくる。
イリスとメイファもリオの隣に立ち、一緒に遊びに行きたそうな顔をしていた。
よし──
俺は教え子たちに手を引かれて、海へと向かって歩いていった。




