第121話(第3部エピローグ)
キャラデザ公開、第四弾。
ブレット先生とアルマ先生です。
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/449738/blogkey/2597937/
しばらく待っていると、ようやくステージの開始となった。
『それでは、お待たせいたしました! まずはエントリーナンバー一番、トゥインクルスターズの四人です! どうぞーっ!』
満月の月夜の下のライトアップされた舞台、拡声魔法器を持った司会進行らしき女性が舞台から退くと、それと入れ替わりで四人の少女たちが舞台に姿を現した。
リオたちではない。
しかし可憐な貸し衣装に身を包んだ少女たちは、いずれもなかなかに容姿端麗だ。
舞台の奥に陣取っていた音楽隊が、大音量で演奏を始める。
そのアップテンポの演奏に合わせて、舞台上の少女たちが歌い、踊り始めた。
うまい──気がする。
最近うちの子たちの練習をずっと見ているから目が肥えてきた気がするのだが、この子たちはその俺から見ても相当なものだ。
観客席から歓声が上がる。
少女たちの親と思われる一団が、特に派手に応援を始める。
少女たちはそれに、踊りの邪魔にならないタイミングで笑顔を見せて手を振り、続いて観客席全体に向かっても笑顔を振りまいていく。
……もうほとんどプロじゃないのか、あれ?
素人ってレベルじゃない気がするぞ。
しかし当たり前といえば当たり前だが、どの子供たちにも応援してくれている人たちがいるんだよな。
うちの子たちだけが特別じゃない。
どの子たちも、みんなそれぞれの物語を背負って、特別になろうとしている。
歌と踊りが徐々に盛り上がってくれば、観客席ではペンライトも振られ始める。
……しまった。
その手の応援アイテムは用意していなかった。
適当に光属性の魔法でも使って応援するか──
などと思っていると、ペンライトを販売する売り子さんが近くを通りかかった。
商売上手め、などと思いながら俺は売り子さんに代金を支払って、ペンライトを購入。
それを振って、なんとなくよその子たちの応援を始める。
と、そのとき、俺の隣にいた訳知り顔の男が、こんなことをつぶやき始めた。
「ふむ……毎年行われている公開アイドルオーディションだが、トゥインクルスターズはまた一段とレベルを上げてきたな。これは超ド級の新人グループでも現れない限り、今年はトゥインクルスターズで決まりだろう」
訳知り顔の男は、うんうんとうなずく。
そうか、一番手のあの子たちは、優勝候補なのか。
道理でレベルが高いわけだ。
やがて一番手の子たちが大歓声のもとで演技を終えて、舞台から退いていく。
続いて二番手のグループが始まった。
まだうちの子たちの出番は来ない。
二番手のグループも、やはりなかなかの水準だったが、一番手の子たちと比べると表情が少しこわばっていたり、動きが硬かったり、演技が拙かったりと、やや見劣りするように感じた。
続いて三番手、四番手、五番手とステージが続いていく。
まだ来ない、まだ来ない、まだ来ない。
六番手、七番手、そして──
『ついに最後のグループになりました──ストレイキャット・ブレイバーズの皆さんです、どうぞー!』
出てきた、うちの子たち!
ウル、リオ、イリス、メイファの順番で舞台の右手から出てきて、舞台上で横並びになると、四人でぺこりとお辞儀をする。
入場の際には、どよっと観客席がざわめいた。
これまでのグループのときにはなかった反応だ。
四人とも容姿端麗はあるが、ほかのグループの子たちも可愛いので、そこまで目立つほどではない。
問題は衣装だ。
これまでの子たちが着ていた貸し衣装とは、明らかに一線を画する艶やかさ。
しかも一級デザイナーであるリゼルが、うちの子たち専用に作ったオーダーメイド品だ。
各自の魅力を引き立てていることこの上ない。
平たく言って、反則級。
もう見た目の時点で、他のグループとレベルが違いすぎた。
それを作ったリゼルはと見ると──
エルフの少女は特設の席から中腰で立ち上がり、よだれを垂らしそうな勢いででれっとしながら、ステージ上の子供たちを見入っていた。
……あー、うん。
今のは見なかったことにしてあげよう。
あれはエルフの美少女がしていい顔じゃない。
俺は舞台上の子供たちへと注意を戻す。
見た感じ、ウルはがっちがちに緊張しているようだった。
今日にかける想いが強すぎる上に、これだけの観客に注目されるのも初めての経験だろうから、まあ無理もない。
一方でリオ、イリス、メイファの三人は比較的落ち着いている模様。
ほど良く緊張して、ほど良くリラックスしている様子だ。
あいつらは最強新人勇者決定戦で、大観衆の前に立った経験もあるしな。
そんな三人は、観客席をきょろきょろと見回しはじめる。
そして俺を見つけると、笑顔で手を振ってきた。
俺は三人のほうを見て、力強くうなずいてやる。
三人もまたうなずいて、俺から視線を外して観客席全体へと視線を向けた。
舞台奥の楽団が伴奏を始める。
リオがウルの緊張をほぐすように背中を軽く叩くと、自らは前に出て歌い、踊りはじめた。
イリスが、メイファがそれに合わせ、ウルも慌ててついていく。
──大好きなあの人に 気持ち伝えたい
──それって本当かな 伝えたいけど 伝えたくない
──わたしのハートは ときどきドキドキ はちきれそうで
──しまっておいたら 壊れてしまう
静かなトーンで始まり、徐々に可愛らしさを前面に出した演技をしていくリオ、イリス、メイファの三人。
緊張しているウルをかばうようにして前に出た三人だったが、ウルも演技をしているうちに徐々に硬さがほぐれてくる。
──だからDONKANなあの人に
──けん制攻撃 叩き込め
──気付いてほしい 気付いてほしくない
──どっちなのか 自分でも分からない
キュートな表情と仕草に、可憐な踊り、そして愛らしい歌声で四人は観客を魅了していく。
湧き上がってくる観客席。
俺も観客に混ざってペンライトを振る。
俺の隣の訳知り顔の男が「ほう」とつぶやく。
「最後になって、とんでもないダークホースが来たな。最初は一人緊張していたようだが、ほぐれてみれば熟練の演技でほかの三人を牽引し始めた。ほかの三人も荒いながらに基礎はできているし、ときおり見せる大胆なアレンジ演技も急所を外していない見事なものだ。衣装を見たときには鳴り物入りかと思ったが、なかなかどうして侮れん。それに何より──か、可愛い! これは分からなくなってきたぞ……!」
訳知り顔の男が、カッと目を見開いた。
俺はその隣でほくそ笑む。
そうだろうそうだろう、うちの子たちは可愛いだろう。
お前はなかなか見る目があるな。
そんな中で、教え子たちのステージは佳境に入っていく。
弾けるような笑顔を観客席に向かって振りまきながら、舞台をいっぱいに使って演技をしていく。
──クライマックスの恋愛成就 それだけが望みじゃない
──今が楽しい それも大事
──わたしのわがまま 叶えてくれる
──気付きもしないくせに DONKAN☆
──DONKAN HAPPINESS
──DENTOU GEINOU
──付かず離れず それも悪くない
──DONKAN HAPPINESS
──LUCKY SUKEBE
──もっとわたしを ドキドキさせてね☆
そうして、フィニッシュだ。
片手を胸に、片手を前に突き出して、観客席全体を見回す振り付けだったはずだが──
ウルの演技は、基本の振り付けどおり。
しかしリオ、イリス、メイファの三人は、最後は完全に俺の方を見つめていた。
……んん?
俺としては微妙な顔にならざるを得ない。
あいつら、練習ではここを間違えたことはなかったと思うんだが。
しかしあれだ、何度見ても可愛いな三人とも……。
そんな風に見つめられたら、本気で惚れてしまうからやめてくれ。
一方俺の隣では、訳知り顔の男がふるふると震えていた。
「わ、私の方を、見てきただと……!? なんだこの胸の高鳴りは。くっ……長らく忘れていた、こんなドキドキ感を思い出させてくれるとは。──ストレイキャット・ブレイバーズ、これはとてつもない大型新人が来たぞ。是非とも記事にしなければ……!」
お前じゃねぇ俺を見てたんだ寝言言ってんじゃねぇぶち殺すぞ──などと思ったが、どうにか殴り飛ばさずに我慢した俺は偉いと思う。
だがアレだ、やはりアイドルはダメだな。
うちの子たちは可愛すぎて、勘違いする男どもを増やしてしまう。
うん、これは良くない、良くないぞ。
今後アイドル活動は禁止だ。
悪い虫がつかないようにしないとな。
──そうして、教え子たちのステージは終わった。
審査員たちの協議のあとに結果発表があり、グランプリが発表された。
グランプリは──トゥインクルスターズ。
最初に演技をしたグループだった。
おいおい審査員、見る目がないんじゃないか?
うちの子たちが絶対一番可愛かっただろ──などとも思ったが、まあしょうがない。
舞台上では表彰を受けるトゥインクルスターズのメンバーが、みんな嬉し涙を浮かべて感謝の言葉を述べていた。
……まあ、これでよかったのかもしれないな。
おそらく何年間もずっと頑張ってきたグループが、ようやく努力が報われたということなんだろうから。
それからしばらくして、リオ、イリス、メイファ、ウルの四人が戻ってきた。
「あーっ、優勝逃したーっ! 悔しい~! あんなに頑張って練習したのに~!」
「でも優勝した子たち、歌も踊りもすごくうまかったから、しょうがないかも。私たちよりずーっと長い間練習してきたんだろうなって思ったもん」
「……ふっ、今日のところは、負けを認める。……次に会ったときには、こうはいかない」
「でもうち、すっごく楽しかったっす! みんなと一緒に踊れて、あんなにたくさんの人に見てもらえて、こんなにすごい衣装まで。……幸せすぎて、罰が当たらないか怖いぐらいっす」
「なーに言ってんだよウル。お前これまでずーっと苦労してきたんだろ? ちょっと幸せになったぐらいで罰なんか当たるもんかよ。そんなことする神様がいたら、オレがぶん殴ってやる!」
そんな話をして、わいわいと騒ぎ、楽しそうに笑い合う少女たち。
俺はその子供たちの姿を見て、この場所にたどり着けて、本当に良かったなと思うのであった。
こうして、俺と教え子たちが芸術の都ラヴィルトンで出会った騒動は、満月の夜の下に幕を閉じた。
なお後日の話だが、リット村に帰った俺たちのもとに、ウルから手紙が届いた。
その手紙には、俺たちへの感謝の言葉とともに、こんな事柄が記述されていた。
ドワーフの職人ガルドンとエルフの職人リゼルが組んで「ガルドンブランド」なるものを立ち上げて、注文殺到・予約数年待ちの大人気状態に至っていること。
リオ、イリス、メイファの三人がラヴィルトンの街から颯爽と姿を消したため、業界誌ではストレイキャット・ブレイバーズというアイドルグループが伝説扱いされていること。
あるいは、ウルが件のカッパードラゴンとも仲良くやっていることや、アイドルの道もあきらめずに努力を続けていること。
そして何より、ウルが勇気を出してパン屋の親方に自分の事情をすべて打ち明けた結果、親方や奥さんから抱きしめられて、狼人間の少女が自分の居場所を手に入れることができたこと。
俺は夕焼け空の下、勇者学院校舎という名のボロ小屋の前で、手紙をポケットにしまう。
それから訓練を終えた子供たちを連れて、みんなで家路へとついたのだった。
読了お疲れさまでした!
以上で第3部の物語が終了になります。
第1部、第2部ともまた毛色の違う、勇者以外の人々にもスポットを当てた物語となりましたが、いかがだったでしょうか?
面白かったよーという方は、評価や感想などいただければ嬉しいです。
なお今回は、第4部のプロットがすでに概ねできているので、このまま月・木の週二回更新が継続になる予定です。
というわけで、第4部予告!
***
元同僚の女性教師アルマに誘われ、夏休みに海に遊びにきたブレットと教え子たち(と、おまけの家政婦)
みんなで海水浴を楽しんでいると、海から浜辺に、槍を手にしたひとりの少女がボロボロの姿で流れ着いた。
そんな少女のあとを追って、海からは魚人族のモンスターたちが現れる。
ブレットたちは少女の窮地を救うべく、魚人たちの前に立ちふさがるのだが。
それは彼らが挑む、壮大な海洋冒険の始まりだった。
魚人族の軍団、海神様、女海賊、宝の地図、そして──
ブレットと三人の教え子たちの、あらたな冒険の旅が始まる!




