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捨て猫勇者を育てよう ~教師に転職した凄腕の魔王ハンター、Sランクの教え子たちにすごく懐かれる~  作者: いかぽん
第3部/第2章

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第100話

書籍化、6月発売の予定でしたが、7月発売に変更になりました。

よろしくお願いします。m(_ _)m

「んんっ……!」


 俺は読んでいた本に栞紐(しおりひも)を挟んで本を閉じ、うんと伸びをする。


 ずっと同じ姿勢で本を読んでいると体が固まるから、たびたびほぐしてやるのだが、それにしてもそろそろ少ししんどくなってきた。


 図書館に設置されている壁掛けの時計を見れば、間もなく昼になるという時刻。


 朝食後に宿を出て、ウルと合流してすぐに図書館に来たのだから、すでに三時間ほど、ずっとこうして本と睨めっこをしていることになる。


 目的の情報──ウルの獣化(ライカンスロピィ)の呪いをどうにかする方法は、残念ながら、いまだ見つかっていない。


 六人掛けのテーブルで同じく読書をしていた教え子たちは、まずリオは根気が続かずに、とうの昔に突っ伏していた。


 イリスも、最初こそメモなどを取りながら頑張る姿勢を見せたものの、しばらくしてうつらうつらしはじめ、やがてノックダウン。


 彼女らにとっては、魔王退治よりも、図書館での調べもののほうがよっぽど強敵のようだ。


 一方で、メイファとウルの二人はというと、興味深げに本に喰いついていて、今も黙々とページをめくっていた。


 メイファはなんとなく本と相性がいい気はしていたが、ウルのほうは少し意外だ。


 ウルは自分のこと──狼人間(ワーウルフ)について記述されている本なので、獣化(ライカンスロピィ)の呪いに関すること以外の記述にも興味があるのかもしれない。


 が、それはそれとして、ひとまずは昼食休憩だろうな。


「よし、お前ら。一度切り上げて、昼飯に行くか」


「ふぇぇっ、やっとだぁ……」


 俺が昼食休憩を宣言すると、リオが疲れきった様子で言う。


 イリスもまた、崩れ落ちていたテーブルからがばっと顔を上げ、「ね、ねねねね、寝てませんよ!?」と、半ば寝ぼけ眼で言った。

 口元からうっすらよだれがたれていたが、それでも可愛らしいというのがずるいところだ。


 まあね、難解な本を読んでいると眠くなってくるというのは、分かるよ。


 今回はわりと専門的な内容の本が多いから、図書館で調べものをするにあたって、ビギナー向けの授業としては、ちょっと難易度が高すぎたかもしれない。


 とはいえ今回は、題材が選べないから、しょうがない。


 本当は、頑張って自力で調べた結果、ほしい情報が見つかって万々歳、という展開になってくれることが教育的にも理想なんだが……。


 いずれにせよ、一度昼食をとりに外へ出よう。

 俺は司書さんに本を預かってもらって、子供たちを連れて図書館を出た。


 エントランスから表に出ながら、子供たちはこんな会話をしていた。

 切り出すのはリオだ。


「それにしてもメイファとウル、よくそんなに集中力続くよな」


「……多分、集中力じゃなくて、興味の問題。……ボクは、自分が知らないことを知るのが、わりと好き」


「あ、興味が大事っていうのは分かるっす。うちも自分のことで知らないことがたくさんあったから、もりもり読んじまったっすけど、自分のことじゃなかったら全然読める気がしないっす」


「興味かぁ。いろんなことに興味持たないとダメってことかぁ」


「……それも、なんか違うような。……向き不向きがある。……イリスとリオは、物語を読むといい。何もしていないより、暇がつぶれる」


「うわっ、メイファが上から目線だよ。くそ~、いつも怠け者のメイファが働き者に見える~!」


「……誤解はやめてほしい。……本を読むこと、知識を得ることは、ボクの中では労働に含まれない。……働きたくないということに関して、ボクはプライドを持ってやってる」


「そのプライドは、今からでも遅くないから、捨てたほうがいいと思うな……」


 そんなイリスの意見に俺も同意である。

 メイファは普段からもっと働け。


 まあ、それはともあれ。


「さて、昼飯どうすっかな。──ウル、近くでどこか、うまくて安い店とか知ってるか?」


 俺が地元民であるウルにそう聞くと、ウルは嬉々として答えてきた。


「そしたら、うちが働いているパン屋が近くにあるんで、よかったらどうっすか? 親方の焼くパンはうまいっすよ~。ちなみに名物はデリシャスジャンボサンドっす。安くてうまくてボリューム満点が売りっす!」


 胸を張って、誇らしげにそう言うウル。

 この様子だと、自分が働いているパン屋のことが好きなんだろうな。


「ん、じゃあそうするか。お前らもそれでいいか?」


「「「賛成ーっ!」」」


 そんなわけで、ウルの案内でしばらく歩いていくと、やがて往く手に一軒のパン屋が見えてきた。


 中流階級の住宅街にひっそりとたたずむ、素朴な雰囲気のパン屋だ。

 店からはパンを焼くいい匂いが漂ってくる。


 するとウルは、店の近くまで来たところで、こんなことを言ってきた。


「じゃあ、うちはここで待ってるっす」


 ウルはそう言って、その場で立ち止まってしまった。

 手を振って、俺たちを見送ろうとしている。


「なんでだよ。せっかく来たんだから、挨拶してけばいいじゃん」


 リオがそう詰めると、ウルは恥ずかしそうにこう返してきた。


「いや、その……うち、職場では、無口キャラで通ってるんすよ……。店のみんなとは、あまり仲良くしてないというか……」


「「「……?」」」


 リオ、イリス、メイファの三人が首を傾げる。


 そして俺も、そこはかとない違和感を覚えていた。


 自分の職場を誇らしげに紹介しながら、職場の人たちとは仲良くしていないというのは、どうもアンマッチな気がする。


 と、そこへ──


 近くの路地の角から、陽気そうでガタイのいい中年男性が現れ、ウルに向かって声をかけてきた。


「おう、ウル坊じゃねぇか。どうした、休日に店に来るとは珍しいな」


 その声を聞き、ウルがびくーんと跳ね上がる。


 そしてウルは顔を隠すようにうつむき、男に返事をした。


「お、親方……うっす」


 ウルの声のトーンが、一段落ちていた。

 なんだろう、妙だな……?


 だがウルから親方と呼ばれた男は、別に気にした様子もなく、のしのしと俺たちの前までやってくる。


 見上げるぐらい背がでかい。

 体もマッチョで、特に上半身がムキムキだ。


 だがウルが「親方」と言ったからには、この人がウルを雇っているパン屋の店主なんだろう。


 そんなパン屋の店主と思しきマッチョ男は、俺に向かって声をかけてくる。


「ウル坊が友達と一緒にいるところなんて初めて見たな。しかもその格好、旅の勇者さんかい?」


「ええ。ウルとは昨日知り合いまして」


 俺がそう答えると、マッチョ男は俺のそばにいたリオ、イリス、メイファの三人を見て、それからうつむいているウルを一瞥すると、俺に向かってちょいちょいと手招きをしてきた。


 なんだろうと思って男の近くに寄ると、男はその腕をガシッと俺の肩へと回し、少女たちに聞こえないよう耳打ちで、こう伝えてきた。


「……なぁ、兄さんよぉ。女の子を侍らすなたぁ言わねぇが、ウルのこと、遊びだと思って付き合ってんなら、やめてやっちゃあくれねぇか。こいつは人見知りだが、仕事にも真面目ないいやつなんだよ。な、頼むよ」


 なんだかものすごい勘違いをされていた。


「ち、違いますよ! こいつらは俺の教え子で、俺は勇者学院の教師です」


 俺がそう説明すると、男は俺を解放し、驚いたような顔を見せる。


「教師……? 教え子……? ──なぁんだ、それならそうと早く言ってくれよ! ウル坊が悪い男に引っ掛かったんじゃねぇかと思って、勘違いしちまったじゃねぇか。はっはっは!」


 そう言って、バンバンと背中を叩かれた。

 勇者じゃない一般人なのに、まぁまぁのパワーで、まぁまぁ痛い。


 そこにウルが、おずおずと言ってくる。


「あ、あの、親方……この人たちは、お昼ご飯に、店のパンを買いにきたっす……」


「おおっ、そうかそうか、お客さんか! いやぁ、そりゃあすみません。ささ、どうぞお店の方へ。初めてうちのパンを食べるなら、まずはデリシャスジャンボサンドを……」


 そう、パン屋の親方に背中を押される俺だったが──


 後ろを見れば、うつむいて表情を隠したままのウルがいて。

 俺はパンのことよりも、ウルと親方の奇妙な関係のほうが気になっていた。


 親方のほうは、ウルを我が子のように可愛がっているような印象。

 俺を悪い虫だと思って、追い払おうとしたのがその証拠だ。


 だがウルのほうはというと、親方に対して自ら壁を作っているようにも見える。


 ──こりゃあまた、何か複雑な感じっぽいな。


 そんなことを思いながら、俺は親方に押され、パン屋の扉をくぐっていくのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 祝100話!おめでとうございます!
2020/04/17 20:08 退会済み
管理
[良い点] 100話おめ~ 本読むとおトイレに行きたくなるかと思ってたw 眠くなるタイプだったかw [一言] 春のパン祭り!
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