第55話 霹靂
「どけえええぇぇ!! 俺はお母ちゃんだぞおぉぉぉっ!!!!!!」
手にした光の剣で、砂人形たちを斬る、斬る、斬り伏せる。
ヒスイは迫り来る〝砂を騒がせるもの〟どもを次から次へと【破邪】を込めた降光魔法の光の剣で撃ち祓ってゆく。
目標は一際大きな白い砂の巨人。
すーちゃんがあの砂の巨人の中に取り込まれてしまっているのだ。
「待っててすーちゃんっ! すぐにそこから出してあげるから!」
そう言って巨人へ剣を向けるヒスイの足に、白い砂がまとわりつく。
不定形な砂の人形は、地球の神ヴォルヴァドスの化身。
ヒスイを確実に仕留めるために、まずは動きを止める。
ヒスイの体が金縛りにあったかのように硬直する。
しかし――
「嘗めんなよぉぉ!! 破邪!!!!!」
『!!』
ヒスイは己の全身から破邪を放ち、体にまとわりつく白い砂と金縛りを吹き飛ばす。
――当初、ヴォルヴァドスは困惑していた。
何故破邪というスキルが、ヴォルヴァドスに対して特効を持つのか。
ヴォルヴァドスの力を相殺し打ち消す力。
そもそも、最初はそんな効果はなかったはずだ。
おかしい。
力の大半を失っているアイリスの仕業ではない。
ともすれば――
「うるあぁぁっ!!!」
ヒスイは破邪の効果範囲を辺り一帯を包むほどに拡張し、発動させる。
そして白い砂人形どもがみるみる内に崩壊してゆく。
それはまるで天から射した神の光が、悪鬼羅刹を浄化するかのようだった。
砂の巨人は他の人形よりかは長く耐えたが、やがて形を失い崩壊していったのであった。
*
疾く。
駆ける。
韋駄天のごとく。
「頼んだよカリニャン」
「はい! お姉さま!!」
亜音速にすら達する無機獣神は、カリニャンをターゲットと決め紅い魔導砲を絨毯爆撃のごとくぶちかます。
カリニャンは流れ弾がコハクに当たらない程度に回避・防御しつつ、修行で新たに体得した術式を発動させる。
「術式解放……『迅雷』!」
カリニャンの全身の体毛が逆立ち、白い光を纏う。
その刹那――
『……!?』
「鬼ごっこをしましょう!」
亜音速で駆ける無機獣神の真横に、並走するカリニャンがそこにいた。
カリニャンは今、雷の化身となったのだ。
――『迅雷』は白雷一閃と同じ仕組みの術式である。
ただし、運用方法は全く異なる。
白雷一閃が直接攻撃……その超スピードと莫大な電圧をもって体当たりする攻撃なのに対し、『迅雷』はカリニャン本人の能力を向上させるいわば『バフ』である。
脳内の電気信号の活性化による反応速度の向上と、白雷一閃には劣るものの超速での移動と小回りが可能となる。
白雷は直線的な動きしかできないため、立ち回りでの応用力は迅雷に軍配が上がるであろう。
「絶対に捕まえてやります!!」
カリニャンは無機獣神の背中を追いかける。
ここまでしてもまだ、無機獣神の速度に追い付くことはできない。
が、追いかける事ができるというだけで良いのだ。
『パギュウゥゥゥゥン――』
疾走しながら無機獣神が嘶く――
すると、無機獣神の周囲に真っ赤な杭状の光がいくつか浮かび、カリニャンめがけて発射された。
カリニャンは身を翻しそれらを危なげなく回避する。
――1回だ。1回でいい。
カリニャンが無機獣神にこの帯電した右手で一瞬触れるだけでいい。
カリニャンは追いかける。
無機獣神は、己に肉薄する速度での移動能力を持つカリニャンを最優先の排除対象として認識している。
それが、油断となる。
「幻影召喚……〝祝福の杖銃〟」
コハクは四葉のクローバーの刻印が施された、長い杖のような銃を構えた。
狙うは無機獣神の進路。
弾丸には高い追尾性を付与。
そして、人差し指でトリガーを引いた。
『!!』
放たれた弾丸は無機獣神の前足に着弾した。
ダメージは小さい。
しかし、ほんの一瞬……僅かであるが無機獣神の動きを止めた。
「つかっ――」
その一瞬だけで、十分だった。
「――まえたぁっ!!!」
カリニャンの右の手が、無機獣神の後ろ足に触れる。
が、すぐにまた無機獣神は動きだし距離をとってしまう。
さらにターゲットをカリニャンから攻撃を当ててきたコハクへと変更。
無数の紅い光弾がコハクへと殺到する。
「お姉さまっ!」
そしてコハクはそれらを、薄命の星盾で防御する。
その内防ぎきれないぶんは、割り込んだカリニャンが身を呈して庇った。
「いたた……」
「大丈夫?」
「だいじょーぶです、作戦通りです!!」
そう、作戦は順調である。
ここまできたらほぼ成功と言ってもいいほどに。
相も変わらず無機獣神は砂漠を亜音速で駆け、カリニャンたちを翻弄しようとしている。
しかし、もはやカリニャンには無機獣神を追う理由はない。
――現在、無機獣神の体はカリニャンが触れた時に陽の電荷が付与されている。
一方のカリニャンの右腕は、負の電荷を纏っている。
陽と負の電荷は互いに引き寄せ合う性質がある。
通常、大気は電気を通すことはない。たとえ近くに陽と負の電荷を纏うものがあったとしても、双方が大気を挟んで誘導されることはない。
しかし、あまりにも莫大なエネルギーの場合は絶縁破壊を引き起こしその限りではなくなる。
その現象は、大気を引き裂き、瞬間的に反物質をも生み出し、ガンマ線を放出させる。
「――〝霹靂〟」
すなわち、落雷である。
ほぼ光速で放たれたその魔法の前には、無機獣神の亜音速の脚も止まっているも同然。
白い雷が無機獣神の体を貫き、胴体に大きな風穴を開く。
この技はカリニャン自身を雷雲、相手を地面に見立て放つものなのだ。
「や、やった……! 成功ですよお姉さま!!」
実はこの技を成功させたのは初めてのカリニャンは、嬉しそうにコハクとハイタッチを交わす。
『損傷度……60%、戦闘継続不可……』
あとはとどめを……というより、ヒスイを待つだけ――
かと思われたその時。
「……なんだ?」
「これって……」
胴体を破壊された無機獣神の頭部に、何か凄まじいエネルギーが集束し圧縮されてゆくのを二人は感じていた。
これは――
「まさか自爆か!?」
「えぇ!?」
レベル300相当もの存在が全エネルギーを解き放って自爆をするなど、一体どれほどの破壊力になるのだろうか。
というか、石柱群やアイリスの肉体もろとも消しとんでしまうのではないか?
やはり、無機獣神は――
コハクがやむを得ず、薄命の聖騎士を呼び出そうとしたその時だった。
「ぴっちゅ~!! おまたせなの!!!」
「待たせたな! 破邪!!!!」
上空より、すーちゃんの脚に捕まったヒスイが無機獣神へ向けて破邪を纏いし光の槍を投擲する。
槍は無機獣神の頭部に突き刺さった。
すると――
『う……』
無機獣神の身体から、白い砂のようなものが抜けさらさらと散ってゆく。
そして集められていたエネルギーもいつの間にか消え、爆発する様子もなくなっていた。




