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プロローグ02

「ふぅ…徹夜のせいか朝日が目に滲みるな。」


屋敷を出ると軽く伸びをし身体を解す令。彼の片手にはアタッシュケースがあった。中身は盗まれた自身の研究データだ。


「さて、帰るとしよう。」


玄関先に停められたリムジンに乗り込む。運転席には昨日、自分を拉致した男が座っていた。彼も洗脳され今や令の操り人形である。


「大学へ向かえ。」





令が自身の勤める大学の研究室へ戻ると、そこには一人の女性が居た。年齢は二十代半ばで白衣を纏っている。


「威澄先生…!?」


彼女は令を見るなり身体を硬直させた。明らかに動揺している。


「どうした木島。まるで私がここに居るのが不思議みたいではないか。」


「い、いえ…」


「フン、残念だが研究データは無事だ。貴様だな。私の研究をあの女にリークしていたのは。」


「ち、違っ…」


「黙れ。」


令の一言で木島は弁解を中断した。既に彼女も令の洗脳に犯されているのだ。


「貴様の事は既にあの女から聞き出してある。もっとも、私の研究を知っているのは助手の貴様だけだからな。漏洩元は猿でも分かる。」


木島は大学側からあてがわれた助手であり、令から頼んだ者ではない。情が有るわけでもないので糾弾や処罰にも遠慮はない。拉致した代議士同様、自分を敵に回した事を後悔させてやろう。


「先ずは謝罪して貰おうか。服を脱いで床に這い蹲れ。土下座の後は身体で償わせてやる。安心しろ。死にはせん。身体はな。精神の方は貴様次第だ。」


令に睨まれた木島は無言のままガタガタと震えていた。


「ああ、喋れないのだったな。もう話しても良いぞ。」


「ごめんなさい!許して下さい威澄先生!」


「あの女も同じ様に泣きながら謝っていたな。芸の無い奴らだ。そう思うなら少しは私を楽しませろ。」


令はデスクから愛用のカバンを取り出す。中にはメスや注射器等の医療器具から大人の玩具まで様々なものが取り揃えてある。用途は推して知るべしだ。


「さあ、鳴け牝豚。出来るだけ無様にな。」


「ヒィッ!!イヤーー!!」


木島の長い一日が始まった。






「あふっ…もう八時か。道理で眠い筈だ。」


昨晩は女代議士を責め抜き、大学では不埒な助手の制裁と大忙しだった。そろそろ帰宅し惰眠を貪りたい。


「研究室の掃除は明日にして帰るか。」


助手の木島は公園のトイレに放置してあるので、制裁の続きは性欲に飢えたホームレスの連中が担ってくれるだろう。





翌朝、令は掃除道具を手に研究室の片付けを行っていた。代議士の部下達は相当乱雑に漁ったらしく、備品の一部は倒れ、研究器具なども床に散乱していた。


「やはり面倒だな。」


制裁ついでに木島に掃除させれば良かったと反省する。


木島といえば通勤時に公園のトイレ近くに救急車が停まっていたが、無関係だろう。多分。


「止めた。後で学生でも捕まえてやらせる事にしよう。」


自分で荒らした訳でも無い為、モチベーションが上がらない。掃除を断念した令は、ドカリと椅子に腰掛け研究データの一部が記載された書類に目を通す。


『可視光線による催眠及び洗脳術』


実はこのテーマは実現化に向けて始めた研究では無かった。謂わばこれは考察なのだ。令自身の特異体質への。


彼が自分の体質に気付いたのは5歳の頃だ。目が青白く光るのだ。それこそ毎日鏡で見る自分の顔だからこそ気付けた程の微弱な光だ。最初は光るから何なのだと気にも留めなかった。


しかし十歳に成った頃、漸くその効果を理解するに至った。目を合わせ、命じると相手はその通りに動くのだと。


それからというもの、自分の能力を活用し好き放題に人生を謳歌した。特に思春期からのヤリたい盛りの頃は酷かった。学校では美人と言われた女生徒の大半はヤッたし、大人の女を知りたいと教師や近所の人妻にも手を出した。


正直、既に自分の子孫がこの世にいてもおかしくは無い。いや、あれだけヤリまくったのだ。確実にいるだろう。一切把握しては居ないが。


「私も若かったという事だな。うん。」


とはいえこれからも自重するつもりは無い令だった。


「うわっ!何だよこの部屋。」


思考の海を漂っていた令を、一人の男性の声が現実へと引き揚げた。


「ボブナップでも暴れたのか?」


「違う。」


「んじゃベリー隊長?」


「同じ黒人だからといって一緒くたにするのは感心せんな。」


「冗談だよー。」


現れた男は軽薄な笑みを浮かべたまま、散乱する器具を避けて令へと歩み寄る。


「一昨日は大変だったみたいだねぇ。」


「気付いていたのなら助けに来たらどうだ?」


「お楽しみを邪魔したら悪いかと思ってねー。」


ウッシッシと意味有り気に笑う男。彼もまたこの大学の教授で令の同僚だった。名を異歩木 ことぶきりくという。令の能力を知る数少ない人物だ。


「で、どうだった?噂の女代議士の味は?ヤッたんだろー?」


「そこまで知ってるのか。」


陸は令のように特別な能力を持っているわけでは無いが、妙に機転が利く男だった。令とは付き合いも長く学生時代からの縁だ。所謂悪友というやつである。


「容姿は平均以上だったがそれだけだな。そこいらの女と何ら変わらん。代議士という特殊な職業で持て囃されていただけだ。」


「ははっ!相変わらず辛辣だねー。」


令の物言いに苦笑する陸。親友のこの態度は今に始まったことではないので気にしない。


「それで何の用だ?私は掃除中なのだが?」


「嘘つけー。どうせ途中で諦めて学生にでもやらせようとしてたんだろ。」


「……。」


「当たりかい!」


「うるさい奴め。話し相手が欲しいならテレビの砂嵐にでも喋っていろ。」


「地デジにんなもんねーよ。大体そこまで病んでねーし。」


軽口を叩き合う二人。ひとしきり雑談を終えると陸は用件を切り出した。


「ねぇ、令ちゃんさー。旅行行かない?とっておきのプランが有るんだけど。」


「旅行?」


「そうそ。実は来週、日本から豪華客席が一隻出るんだけどさ。その乗客の顔ぶれが凄いのなんの。芸能人から有名人ばっか。話しに寄ると外国からは王族まで来るってよ。」


「ほう。」


陸のプレゼンに多少の興味を惹かれる令。こういうイベントを提案してくるからこそ、彼とは友人を止められない。


「だがもう予約は取れないのではないか?」


「そこは令ちゃんセンセのお力で。な?」


「やはりか。」


案の定だ。協力するのもやぶさかではないが、皮肉の一つも放り込んでやるべきだろう。


「以前の『有閑マダム達との浮気旅行』も同じでは無かったか?」


「その節は楽しませて頂きました。」


令に向かって拝むように手を合わせる陸。その動きはどこかコミカルで毒気を抜かれる。


ちなみに件の旅行では総勢三十人程の暇を持て余した美人妻と、愛欲の限りを尽くしたのだった。


「良いだろう。付き合ってやる。」


「やりぃ!あ、でもマリーちゃんは俺が頂くぜー。」


マリーとは最近話題のシンガーだ。プロモーションビデオ等ではセクシーさを全面に押し出して人気を博している。


「構わん。アレは私の趣味ではないからな。」


「ヌフフッ。待っててねーマリーちゃん!」


どうやら次の彼女に関する最新ニュースは『おめでた』になりそうだ。もっとも陸が責任など取るわけもないのでシングルマザーは確実だろう。




何だこの外道主人公(笑)

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