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ドS、登用する

今回はドイヒーな表現が多分に含まれます。苦手な方はご注意を。

令に導かれながら宿屋の一室へと入るミレア。これから思う様身体の火照りを発散しようと意気込んでいた彼女を、陸とバルトという二人の男が待ち構えていた。


「いらっしゃーい!」


陸はケラケラと笑いバルトは無言。だがその目は明らかに笑っていた。


「こりゃ…どういう事だい?」


部屋へと招いた令を睨み付ける。さすが裏世界で一目置かれている男の娘である。気丈などと言うには凶暴過ぎる態度で三人を威嚇していた。


「ハァ…猫を被るのは肩が凝るな。高飛車な雌犬の相手は特に。」


「ふざけるなぁ!!」


一喝するミレア。彼女は激怒していた。せっかく身体を許してやろうと思っていた相手に騙されたのだ。オマケに令の催眠によって感情をときめかせていた事が、更に彼女の怒りを増幅させていた。


「この野郎…あたしを馬鹿にした事を後悔させてやる!」


ミレアが殴りかかる。当然狙いは最も自分をコケにした相手。令だ。


「噛み付くな雌犬。」


「あっ!」


本来なら男でも昏倒するような威力を持った拳は、あっさりと振り払われた。


「何で…」


思うように力が乗らない。ミレアはあまりに非力な自分の体に困惑していた。


「今の貴様の力は並みの女の半分以下だ。見るからに野蛮な雌犬だからな。首輪をしておいて正解だ。ああ、それと酒場で言った台詞は全部嘘だ。貴様に魅力なぞ、ノミの額ほども感じん。」


酒場で述べた甘言を、令は悪びれた様子も無く全否定する。


「どうだ?私の笑顔を見る度に胸がときめいただろう?アバズレが懸命に思慕を隠す姿は失笑モノだったぞ。」


逆鱗に触れるどころか、引き千切らんばかりの物言いだ。当然、プライドの高いミレアは我を忘れて怒り狂う。


「てめぇ!殺す!絶対殺してやるーー!!」


「おっと。」


憎き相手に飛びかかろうとするミレアだったが、今や彼女の力は子供とそう変わらない。令に頭を押さえつけられるだけで突進は阻まれてしまう。


「吠えるのは構わんが少しは媚びを売っておけ。これからの貴様の処遇は私達次第なのだからな。」


「フフン♪フン♪フーン♪」


陸が鼻歌交じりに鞄を開ける。中には怪しげな器具の数々。この世界に来て新調したお楽しみアイテムだ。


「令ちゃん、程度は如何ほどー?」


「死ななければ何でも良い。取り敢えず許しを乞うまで嬲ってみよう。」






とある屋敷にて、初老の男性が部下に怒声を浴びせていた。


「まだ見つからんのか!?」


「はい…手下総出で探してるんですが、さっぱり…。酒場で男と出て行くとこまでは分かってるんですが。」


「クソッ!護衛は何をしてやがったんだ!」


男の名はロブロ。街を裏から取り仕切ってきた不良悪漢の元締めである。彼は現在、行方不明となった娘を捜索していた。


「あの不良娘め…だから護衛から離れるなと…。しかし何処の野郎だ?俺の娘を攫うとは…見付けたらただじゃおかねぇ。」


娘が失踪してからもう五日が経つ。我が儘なハネッ返りではあるが、大事な一人娘だ。ロブロは毛がだいぶ後退した額に青筋を浮かべ、娘を攫った犯人への報復を考えていた。


「お、親分!お嬢さんが!」


「帰ってきたか!?」


「そ、それが…」


結果的に娘は帰ってきた。だがその惨状は酷いものだった。屋敷の前に全裸で放置されていたミレアは、生きては居たものの全身痣だらけ。体中に男の体液がこびり付いていた。オマケに背中にはナイフで肌に直接『使用済み』の文字。


「誰がこんな事を…」


娘の変わり果てた姿に絶句するロブロ。


「親分、手紙が。」


ミレアの傍らに添えてあった手紙を部下が手渡す。ロブロは手紙を読み進めるにつれ、その顔をどす黒く変色させていった。


『趣向を凝らした宣戦布告、気に入って貰えただろうか?余計な節介だとは思ったが、其方のキャンキャンと小煩い雌犬を少々躾させて頂いた。最初は牙を剥いて吠え掛かっていたが、回を追う事に従順な家畜に成り得た様だ。調教内容は後筆してあるので参考にすると良い。追伸、糞でも食らえ。』


手紙の後半にはミレアが受けた仕打ちが事細かに記載されていた。


「野郎おおおおぉ!!舐めやがってえええ!」


ロブロは手紙を読み終える事なく破り捨てる。


「ミレアを攫った野郎を見つけ出して連れてこい!俺が直接ぶっ殺してやる!」


怒髪天を衝くとはこの事だ。口から泡を飛ばしながら喚き散らし、真っ赤に充血した額には青筋が浮かんでいる。今の彼の形相で睨まれれば、気の弱いものでは失神してしまいそうだ。しかしここまで感情を爆発させることは、体にかなりの負担となる。それが初老の男性ともなれば余計に…だ。


「親分!落ち着いてくだせぇ!」


「うるせぇ!見てろ!バラバラにして魔物の餌にしてや…あふん…」


急に目の前が真っ暗になり、直後、意識がプツリと途切れた。糸の切れた操り人形の如くバタリと倒れ込む。周りの部下が支えるのも間に合わず、彼は地面に後頭部を強かに打ち付けた。


「お、親分!?親分!おやぶーーん!!」







「死んだ?ロブロがか?」


事務所の談話室でバルトの報告を受けた令が、意外そうに眉を釣り上げる。


「へえ、何でも娘の有り様に怒りまくって、おつむの線がプツンと…。その後地面に頭ぁ打ち付けたのがトドメみたいですね。」


「卒中か…何だつまらん。」


もっとイビリ倒してやる予定だった令は、玩具が不良品だったかのように、不満げに唇を尖らせた。


「それなりに歳だったみたいですからねぇ。」


「ふん、手間が省けたと考えるとしよう。行くぞバルト。」


令は上着に袖を通し出掛け始める。


「行くって何処に?」


「ロブロの屋敷に決まっている。」





主人を失ったロブロ家は混乱の極みにあった。跡目を誰にするか?先に原因となったミレアを攫った犯人を捕まえるべきでは?など、意見は絶えずしかもそれらを取り仕切れる人間も居なかった。


せめて代理を決めようとするが、幹部全員が跡目を狙おうと立候補していて膠着状態が続いている。


「邪魔するぞ。」


幹部連中が言い争いや牽制をしていたところへ、令が十数人の部下を従えて現れた。


「あん?誰だてめぇは?」


「私はこういう物だ。」


懐から名刺を取り出す令。物珍しいらしく、幹部達はこぞって名刺を覗き込む。


「交渉屋?聞いた事ねぇな。そんな野郎が何の用だ?」


胡散臭そうに睨む幹部におびれる事なく、令は説明を始めた。


「うむ、我々は依頼人に成り代わり交渉を行う事を生業にしている。今回は、ロブロ氏が亡くなったと知り、彼が生前に残した遺言を諸君にお伝えに参った。」


「遺言?親分がそんな物を残してたのか。」


「私は別室に控えておくので、一人ずつ来てくれ。」


「ちょっと待て!何で一人ずつなんだ。ここで読めば良いだろうが。」


何らかの裏があるのではと、聡い幹部の一人が疑う。しかしそれすらも令にとっては想定内。予め用意してあった台詞を紡ぐ。


「ふむ…実は遺言はこの場の幹部方全員に、個別に用意されているのだ。余程ロブロ氏は諸君が可愛かったと見える。彼は自身の死後も全員の行く末を案じておられた。」


「お、親分が俺達の為に…」


シンと静まり返る一同。情に脆いのか生前の恩が深いのか涙ぐむ者も居る。


「は、早く!早く親分の遺言を教えてくれ。」


「結構。ご理解頂けたようだ。別室でお待ちしている。」


部下を連れ別室へと赴く令。彼が遺言を受けているなど真っ赤な嘘である。ここに来た理由もロブロ一家を洗脳によって制圧するためだ。単純に攻め入っても良かったが、何せ数が多い。洗脳の取りこぼしによって思わぬ反撃を食らう可能性もある。第一スマートではない。令は別室にノコノコと洗脳されに来た幹部に瞳を光らせるのだった。





「ふぅ、洗脳完了といったところか。」


「おめでとう御座やす。これで旦那はこの界隈のカオですね。」


祝辞を述べるバルトだが、上司から返ってきた答えは意外なものだった。


「何を言っている。この家の主はお前だぞバルト。」


「へ?」


「奴ら幹部にはお前を主人と認識させておいた。おめでとうバルト親分。これからも私の為にその力を振るって貰うぞ。」


「だ、旦那?」


事態が飲み込めずバルトは混乱していた。


「その阿呆面を止めろ。言ったではないか。私に尽くせば良い目を見せてやると。それに私の能力は露見すると使い辛くなるのでな。私自身が目立つのも好ましくない。」


令の能力は基本的に不意を突く時にこそ、その本領を発揮する。もしも敵に能力がバレれば、何かしらの対策を講じられる可能性がある。そこで表立った力はバルトに担当させ、人目を避けようという訳だ。


「な、成る程…俺は旦那の隠れ蓑ってことですかい。」


「不満か?」


「とんでもねぇ!最っ高ですぜ!ここが俺達の家か!楽しくなって来やがった!」


「ククッ…新しい我が家を満喫するが良い。」





令が去り、ロブロ一家がバルト一家へと成り代わった日の夜、バルトは落ち着き無く自室を歩き回っていた。彼が居るのはロブロが使用していた寝室。屋敷の主人が過ごす場所で、今やバルトのものである。辺りを見回せば家具や調度品も高価な物が置かれていて、稼ぎの良さが伺える。以前の主は貴族並みに贅沢な暮らしをしていたようだ。


「ふーっ…」


ドカリとソファーに腰を下ろす。座り心地も上等だ。山賊時代にふんぞり返っていた木箱とは比べるべくもない。


バルトは天井を見上げ物思いに耽る。


「ク、クク…クハハハハッ!傭兵から山賊に落ちぶれ…くすぶってたこの俺が裏社会の頭か!面白ぇな人生ってなぁ!」


自然と笑いがこみ上げてくる。暫く高笑いが部屋に轟き、ピタリと止む。


「一生付いてくぜ…旦那。」


バルトは自分の選択が正しかった事を確信すると共に、上司への更なる忠誠を誓うのだった。




ミレアにヒロインを期待した人、居たらゴメンなさい。

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