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1-20 敵は本能寺に、あり?

明智くんは頭脳明晰で成績はいつも学年一番だ。でも、歴史、特に日本史は大嫌い。過去の出来事を振り返って学んでも、結局は同じことを繰り返してるのだから、日本史の勉強は無意味だと切り捨てる。

どうしたら明智くんの日本史嫌いを直せるか、幼馴染の女の子はいつも頭を悩ませていた。

そんなある日、明智くんと幼馴染の女の子は、別の世界線からやって来た二人組に拉致される。そして彼らから、日本の歴史が変わらないように、特別な使命を半ば強制的に依頼される。

それは、戦国時代の末期に第六天魔王と呼ばれ恐れられた織田信長、そんな最強の武将の首を取るというプレッシャーに負けて直前にバックれた明智光秀、そのバックレ野郎の代わりとして織田信長を討伐する『敵は本能寺にあり』ミッションだった。

「明智、またお前だけ全科目満点だぞ」

 担任教師は、学年トップの成績をたたき出しても、さも当然だといった顔をしている生徒に、複雑な表情でテスト用紙を返す。


「でもな、社会科の先生に向かって『無意味なことしてますね』とか言うのはやめてくれよ」

「先生、オレは社会科全部が無意味だなんて言ってません。社会科のなかで、歴史、特に日本史を教える必要なんかないですよね、と言っただけです」


 担任の山田先生は髭の周りをさすりながら、苦虫を踏み潰したような顔になる。


「社会科の先生、怒ってたぞ。歴史をないがしろにしたら、過去の偉人たちに申し訳ないって」

「なに言ってんすか。そりゃぁ過去の失敗は知ってて損は無いけど、歴史じゃなくてもいいっしょ。いまさら終わった昔話を、有り難そうに丸暗記して何が楽しいんすか」


 明智と呼ばれた男子は、受け取ったテスト用紙の中身を見ることもせず、ぐしゃぐしゃに丸めると、教室の隅にあるゴミ箱に投げ入れる。


「社会科は、地理や政治経済をちゃんと教えてくれれば良いんすよ。そっちの方が現実の生活に役立つじゃないすか。鳴くよウグイス平安京をそらんじられても、佐賀県の位置もわからないとか、三権分立も知らない奴らが、闇バイトにハマって強盗するんすよ、せんせ」


 明智の憮然とした言い回しの反論に答えに窮してしまった先生に代わって、彼の隣に座っているショートカットの女子が反論を始める。彼女は、彼の幼馴染でもあり、彼の歴史嫌いで効率重視な考え方を少しでも改めようと、いつも、ちょっかいという名の努力をしているのだ。


「何言ってるの、明智君。過去は変えられないけど、過去に生きてきた人の反省点を自分の生活に生かせればいいでしょー。そういう意味では、昔の人達は自分の人生の師でもあるわけじゃない?」

「でもよう、そうやって過去の偉人の勉強をしたり、過去を振り返って反省しても社会は全然良くならないじゃんかよ。結局は過去の繰り返しだろ? だったら過去を勉強しても無意味だよ」

「でもでも、やっぱり過去は学ぶべきだよー」


 そうして、いつものように二人の言い争いになり始めたので、担任は無理やり授業を再開する。


「わかった、わかった。もうその話はやめて、教科書56ページ、ベクトルの第二章を開いてくれ」


 *


 学校の帰り道、ひとけの少ない河原を歩きながら、明智と幼馴染の彼女は相変わらず言い争いを楽しんでいた。

 すると、そこに突然眩いばかりの光と共に、シルバーメタリックのボディースーツで全身を覆った一組の男女が現れる。一人はお腹の部分がでっぷりと出て、頭頂部が多少薄くなっているのを必死に隠そうとして隠せてない中年男性。もう一人は胸が弾けそうな体型で、ボディースーツが身体にフィットし過ぎてるのがちょっと嬉しそうな若い女性だった。


「あのー、コスプレはこんな場所でやっても誰も見にこないと思いますので、もっと人の多い街中でやった方が良いと思いますよ、忠告までに」

「イヤイヤ、突っ込む所はそこじゃないでしょ、貴女」

 

 カッコよく現れてポーズを決めていたスーツの女性は、一瞬ズッコケてから女子高生の場違いな忠告に言い返す。


「そんなことより、この場所じゃ目立つから、私達の閉鎖空間に来て欲しい。本当は拉致したいところだが、この世界線の人類をリスペクトする意味で、あくまでお願いする立場だ。とはいえ、非常に大事な話なので、ぜひ拒否しないでくれたまえ」


 そんなことを言いながらも、中年男性が彼らに向けた両方の手のひらが光りだす。そうして光る手から繰り出される念動力のような力で、明智と幼馴染の女の子は無理やり光の中に連れ込まれてしまう。



 ──そこは、巨大なディスプレイが一つだけの、あとは全てが白い壁のようなもので覆われていた。彼らが入った入り口はすでに白い壁に隠れてしまい見当たらない。


「私は、友里3296アンヌ。そして彼は本郷4731猛だ。私たちは、君たちとは違う世界線の地球からやって来た。そして、お前たちにしかできない依頼を頼みたい」


 その女性は、シルバーのボディスーツの胸元を強調するように胸を張り自己紹介を始める。


「で、その依頼ってなんすか? こう見えても、俺ら忙しいので早く帰りたいんすけど。家帰って数学のプリントしないと」

「そーそー、私はアマプラの予約録画が沢山残ってるし!」


 明智たちが騒ぐと、そんな彼らに目もくれず、スーツの女性は真っ暗なディスプレイに向かって手のひらを向ける。

 すると、そこには、テレビの時代劇でよく見かける甲冑を着込んだ若者たちが、おろおろしている姿が映りだす。


「彼らは、明智光秀の部下。時代は戦国時代の末期、織田信長が京都にのぼる途中で本能寺に入ったところだ」


「なんだそれ。俺は日本史を選択してないから、そんなの説明されても知らないぞ」

「何言ってんの、明智くん! こんなの日本人なら誰でも知ってるでしょ? あの、ちょーゆーめーな、『本能寺の変』だよ。ちなみに、コレって本物なんですか、はーはー」


 明智が画面を見ながら頭を傾けていると、幼馴染の彼女は目をランランと輝かせて、画面に食いつく。実は彼女は刀剣女子で、歴史物が大好きな歴女だった。それもあって、明智の歴史嫌いを直そうと必死になっていた。


「うむ、貴女の言う通り。日本人なら誰でも知っている、歴史上のエポックメイキングな出来事だ。で、ここからが問題であり、お前たちに頼みたい内容だ」


 スーツ女子はそう言ってから、おもむろに頭を下げる。金髪の長い髪がキラキラしながら頭に追従するようにすーっと下がる。


「明智光秀のやつ、本能寺の織田信長を討つ前に、その膨大なプレッシャーに負けてバックれやがった。で、明智の討伐軍は大将不在で動けない。要するに、『敵は本能寺にあり』を言うやつが居ないんだ」


 下げた頭をチラリと明智に向けてから、さらに深々とお辞儀をするスーツの女は、話を続ける。


「このままでは、本能寺の変が起きない。日本は第六天魔王である織田信長の元で統一されてしまい歴史が変わってしまう」


 そこまで言ってから、頭を戻して明智たちに近づく。


「お前たちにあの時代に飛んでもらって、明智光秀の代わりをして欲しい。やることは簡単だ、少ない護衛で守られてる織田信長を、大部隊の明智光秀の軍勢で取り囲み暗殺すりゃ良い。たった一言『敵は本能寺にあり』って言えば良いだけだ」


 ニヤリと口角を上げたスーツの女は、あぜんとしてる明智の両肩をガッツリとつかむ。とてもじゃないが、ノーと言える雰囲気ではない。


「でも、それじゃ彼女まで拉致する必要ないじゃんか。それにそんな簡単なら、アンタたちが直接行って、変装でもなんでもして『敵は本能寺にあり』て叫べば良いんだよ!」


 明智は、スーツの女の両腕を掴むと、肩をつかんでいる彼女の両腕を無理やりに外して、スーツの女を睨み返すように叫ぶ。


「私たちは別の世界線に属するところから来た者だから、君達の歴史に干渉が出来ないんだ。さらに言えば、同じ血族の人間だけが歴史に関われるんだよ。要するに、明智光秀のケツは明智一族の子孫が拭かなきゃダメなんだ。爺さんの過ちは孫が正す、さ。それで納得したかい?」


 スーツの女は、明智に掴まれた両腕をさすりながら明智に向かって淡々と告げる。


「だったら彼女は無関係だろ。歴史好きだからって、こんな無謀なイベントに巻き込むなよ」


 そう言うと、明智は目をキラキラさせて甲冑や刀剣が写っている画面に見惚れている幼馴染の彼女を指さす。


「いやダメだ。お前が織田信長を暗殺したあと、主君の仇を取るために『備中大返し』で戻ってくる羽柴秀吉に生きたまま捕まえてもらわないと。そうでなければ、歴史を元に戻した功労者を、明智光秀として野党狩りの手にあって野垂れ死にさせてしまうからな」


 明智はそこで気がついた。


 幼馴染の苗字は羽柴。豊臣秀吉の昔の名前、羽柴秀吉の一族の名前だ。明智に明智光秀の代わりをさせるように、彼女に羽柴秀吉の代わりをさせて、謀反人の明智を保護する。そんな作戦を実行出来るには──


 明智と羽柴が幼馴染で仲がいい、そんなタイミングを()()が放って置くわけないか。


 画面に見入ってる、幼馴染で刀剣女子で歴女な女の子、羽柴ヒデコを、明智ミツオはため息とともに見つめたのだった。

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