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Dジェネシス ダンジョンができて3年(web版)  作者: 之 貫紀
第5章 株式会社Dパワーズ

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§080 教官を探せ! 1/3 (thu)

「というわけなんですけど、どなたかいらっしゃいませんかね?」

「芳村さん。私のところは人材派遣センターではないのですが……」


電話の向こうで、某田中氏が困惑したように言った。

またぞろ、捕まえた誰かの引き渡しかと思って電話に出たのに、人を紹介してくれと言われたら困惑もするだろう。


「いえ、普通に募集すると、いろんな国の息のかかった方がいらっしゃるんじゃないかなぁと……」

「それはそうかもしれませんが……今すぐ即答はしかねます。後ほどご連絡させてください」

「わかりました。それではよろしくお願いします」


俺が電話を切ると、三好が呆れたように言った。


「先輩、図々しさに磨きがかかってきましたね。マチュピチュの恨みですか?」

「そりゃお前だけだろ」


俺は別に秘境に用はないぞ。ウユニ湖はちょっと行ってみたいけど。


「それで、先輩。次のオークションですけど、一体何を出品します?」


ああ、それもあったか。オーブ自体は結構溜まってる。


「今あるオーブは、こんなところだな」


--------

収納庫×1

超回復×4

水魔法×6

物理耐性×8

促成×1

危険察知×1

不死×1

生命探知×2

魔法耐性(1)×1

マイニング×5

地魔法×1

暗視×1

器用×1

--------


「結構溜まってますね」

「ゲノーモスの時以来使ってなかったからな。なにか使いたいのとかあるか?」

「今のところ特には。それぞれ鑑定して、結果をまとめておこうとは思いますけど」

「ああ、そうだな。それもあるか」


「今後の我が社の活動を考えると、超回復はキープしておきたいですよね」

「不慮の事故があるからな。一応ポーションも(1)なら結構溜まってるぞ」

「スケルトンのおかげですね。魔結晶は、ちょっと減ってきましたが」

「アルスルズの強化に使ってるもんなぁ……って、まだスケルトンで効果があるのか?」

「直接計る方法がないのでわかりませんけど。今度聞いておきます」


「だな。で、オークションは?」

「とりあえず、マイニングを2個くらい放出しましょう」


現在数多くのパーティが、よってたかって18層に挑んでいるはずだから、今のうちってことだろう。


「そうだな。後は……魔法や耐性や回復系は、支援物資として、ある程度の数をキープしておきたいしなぁ……」

「暇があったら、何かを狙って遠征しますか?」

「だな」


こうして自分自身に置き換えてみれば、軍産のオーブやアイテムが世の中に出まわらないわけがよくわかる。


「促成なんか、面白くないですか?」


三好がタブレットを指さしていった。

ゴブリンの12億分の1オーブだ。三好の鑑定のおかげでその効果も判明した。なんとSP2倍だ。


「取得SP2倍か? ただなぁ……」


SP2倍はなかなかのチートといえる。だがそのペナルティというか反作用というか、そこに大きな問題があるのだ。


「ステータス上限が60に制限されるってのはキツくないか?」

「先輩、今60もある人なんか、ほぼいませんよ」


うん。それは確かに。平均60ったら、SP360。使用50%なら720ってことだもんな。

それで何層まで行けるのかは謎だが。


「だから、結構使えると思いますよ、これ」


どのくらいの階層で苦しくなるのか、正確なところはわからない。しかし、当面は全然問題ないってことだ。その辺は注釈で記載しておけばいいか。


「あと1個は?」


そう言ったとき、呼び鈴が鳴った。

ぱたぱたとPCの元へ走った三好が、その画面をちらりと見て言った。


「先輩。サイモンさんです」

「は? 今頃18層で無双してるんじゃないの?」

「何かあったんですかね?」


三好が応答して、門のロックをはずすと、すぐに玄関のドアをノックする音が聞こえた。


『こんにちは、サイモンさん。今日はどうしたんです?』

『よう、ヨシムラ。アズサのところのブートキャンプって、俺らでも受けられるのか?』


いきなりそう切り出された俺は、軍人が民間の訓練を受けるなよと突っ込んだ。心の中で。


『……軍の訓練があるでしょ?』

『いや、興味があるだろ。なにか独自のノウハウもありそうだしな』

『ええ?』


そのままリビングへと案内すると、三好がコーヒーを用意していた。


『良い豆だな。アズサの趣味か?』

『です。芳村はジャパニーズティー派なんです。それで、ブートキャンプの申し込みだそうですが?』

『まあな。俺達もエバンスでの29層から先は結構やばかったんだ。なにか底上げできる方法があるんなら、藁にもすがりたいってところなのさ』


確かに彼らなら、たっぷりとSPが溜まっているだろう。

だから、強化すること自体は簡単なのだが……面倒も多そうなんだよな。


『あの……うちのキャンプを受講すると、代々木攻略に力を貸す義務が生じるって縛りがあるんですけど』


俺は控えめに、だから無理ですよね? とお断りの電波を発してみた。


『いいぜ。今は特に急ぎの命令もないしな』


しかし、サイモンの受信機はどうやら壊れていたようだ。


『そんな簡単に言っちゃっていいんですか? USのダンジョン資源を掘り起こすとか、あるんじゃないですか?』

『そっちはダンジョン省の管轄だな。DADはもともとThe RINGの救出用に組織された経緯があるから、攻略主体なんだよ』


The RING。

それは米国の大型加速器実験場に発生した、おそらく世界一有名なダンジョンだ。

実験中にそれが発生したことで、稼働中の加速器が破壊され、あわや原発を巻き込んだ大惨事になりかかったらしい。

そのせいかどうかはわからないが、発生したダンジョンは加速器に沿ってリング状の構造をしていた。それで、後に The RING と呼ばれるようになったそうだ。


代々木ダンジョンも、発生時に千代田線を切断して惨事になりかかったが、世界で最も大きな事故が発生したのは、The RINGだろう。


進退窮まった俺は、目で三好にパスを送った。なんとかしてくれ、三好!

彼女は力強く、任せておけと目で応えてきた。頼んだぞ!


『じゃあ、サイモンさん。代わりと言っては何ですけど、鬼教官を紹介してくれません?』

「は?」


俺はサイモンが返事をするよりも早く、思わず日本語で反応した。三好~! おま、何を言い出すんだよ!!

それに気がついたサイモンが苦笑しながら言った。


『鬼教官だと? ヨシムラかアズサが教えてくれるんじゃないのか?』

『私たちが、シングル相手に模擬戦なんかしたら、一瞬であの世行きです』


冗談じゃないとばかりに、三好が肩をすくめた。


『現役でも退役でも構わないのですが、日本語が話せるグッドな人材はいませんかね?』

『ロナルド・リー・アーメイみたいなか?』

『眉が良いですよね! 惜しい人を亡くしました……』


ハートマン軍曹以来、ひたすら軍曹役をやった彼は、今年の4月の中頃亡くなった。それを最初に知らされるのが twitter だというところが、今という時代を象徴している。


役所(やくどころ)ほど突き抜けて貰っても困るんですけど、厳しい感じの人が良いんです』


サイモンは、腕を組んで少し考えていたが、何かを思いついたかのように腕をほどくと、薄気味悪くなるくらい良い笑顔でこう言った。


『丁度いいヤツがいる。出身も海兵隊のサージェントだぞ』

『え、現役のですか?』

『今の所属はしらん。最初はそこからDADに出向させられたはずだ』

『ならDAD内でチームを持ってるんじゃ? 引き抜いたりしたら恨まれませんか?』

『そこは大丈夫だ。なにしろ世界で一番怪しいパーティに堂々とスパイを送り込めるんだぜ? 上のほうだって泣いて喜ぶに決まってる』

『あのね……』

『冗談はともかく、そいつはうちのバックアップだから、特定のチームに所属してないんだ。適任さ!』


チームサイモンのバックアップったら、トップエクスプローラーの一角じゃん!

あと、スパイは絶対冗談じゃないよな……


『DADってよそから給料を貰ってもいいんですか?』

『ああ、報酬か。そりゃ出るよな。ううーん、どうかな……まあ、教官やってる間、非常勤扱いにしときゃだいじょうぶだろ』


そんな、いい加減な……それ、その人のキャリア的に大丈夫なのかよ。合衆国の偉い人から怒られるのはイヤだよ、ほんとに。


『わかりました。その話がまとまったら、ブートキャンプの最初のメンバーにサイモンさんを入れておきます』

『いや、うちのメンバー全員でお願いしたいんだが』

『ええ? 主要メンバーは4人でしたっけ? それに教官までDAD関係じゃ、もう自分のところで訓練するのと変わらないんじゃ……』

『だが、プログラムは、そっちで作るんだろう?』


うーんと、悩む俺に三好がけしかけてきた。


「先輩、先輩。教官が決まってないから、まだ誰も募集していませんし。最初の受講者が世界のトップチームなんて、宣伝効果はバッチリですよ!」

「おまえな……」


サイモンは、もう話がまとまったかのように、涼しい顔で、冷めかけたコーヒーを飲み干している。


『わかりました。その話、お引き受けします』

『よし、すぐにそいつに連絡を入れさせる。直接来させればいいのか?』

『連絡をいただければ、JDAの会議室で面接しますから、まずは連絡をするようにお伝え下さい』


三好がそう言って、自分のネームカードを渡した。

就労ビザとかどうするんだろうと、心配もしたが、向こうで良いようにやってくれると信じよう。

信じているぞ、サイモン! ……とても不安だ。


『いや、今日は実りのある話し合いが出来て良かった!』


そういって立ち上がったサイモンが、ふと思い出したように言った。


『そういや、イオリ達が4層分攻略して、25層に到達したそうだぜ? どうも、おたくらから仕入れた水魔法が活躍したみたいなことをニュースで言ってたが……もう少ししたら彼女たちも苦戦し始めるだろうから、そしたら顧客になるかもな』


へー、あの水魔法、チームIの人が使ってたのか。


『じゃあ、俺は18層に戻るから。またな!』


そうして、いきなりやってきたサイモンは、風のように去っていった。


「18層をすぐ近所みたいな感覚で出入りしてんのかよ……」

「トップの人達って、やっぱり凄いんですねー」


「だけど、三好。チームIが水魔法の宣伝をしてくれたようだぞ?」

「あと1個のオーブは決まりですね」


まあ、6個もあるから、1個くらいいいだろ。


応接のテーブルを片付けながら、三好が言った。


「だけど、どんな人が来るんでしょうね」

「あんまりピーキーなオッサンはイヤだな」

「サイモンさんが楽しそうにしてたから、人柄は良いんじゃないですか?」


いや、三好。あの笑顔は、面白いことになりそうだってサインだ。ただし、それはサイモンにとって、なところがミソだ。


「あいつらのバックアップなんだから、能力はあるんだろうが……ま、連絡を待つしかないだろ」

「ですね。というか、その前に、もっともらしいプログラムをでっち上げないと……」

「三好、その方面の知識って?」

「先輩と、どっこいどっこいだと思いますよ」


つまり、俺達はふたりとも、ドシロウトってことだ。


「いっそのこと一日中2層の外周をぐるぐる走らせるか」

「一周、31.4Kmですよ? いくらなんでもぐるぐるは無理なんじゃ……サイモンさん達なら平気かも知れませんが」

「じゃあ、とりあえず一周を全力だ」

「ふむふむ」

「それでな……例えばDEXを伸ばしたいというヤツには、縫い針を1000本くらい用意して、それに糸を通させるとかどうだ?」

「どうだって……それ、バカにされていると思われませんかね?」

「10本くらいならそう思われるかも知れないが、1000本クラスなら大丈夫だと思うんだよ。あまりに作業が単純過ぎて、そのうち思考ができなくなるはずだ。ザ・修行って感じ、しないか?」

「発想がブラックですよ、それ……っていうか、それ以前に実は何の効果もないとかバレたら殺されそうです」

「プログラムを真似されたら、ものすごく笑える状況が生まれるな!」

「先輩……」


「AGIなら死ぬほど反復横跳びさせて、ザ・ニンジャの修行を応用した、とかどうだ?」

「じゃあ、それの合間に、ヨガのポーズを取り入れましょう!」

「ダンジョン内で、そのパワーを体に吸収させる! とか言ってな。いや待て、ジャパンならゼンだろう、ゼン」

「先輩、先輩。青汁みたいなのを合間に補給させるというのはどうでしょう!」

「ナイスだ、三好。効果がありそうっぽい」


そうして俺達は、『恐怖の』ブートキャンプメニューを作り上げていった。

某田中氏へしたお願いは、すっかり忘却の彼方だった。


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書籍情報
KADOKAWA様から2巻まで発売されています。
2020/08/26 コンプエースでコミックの連載始まりました。
作者のtwitterは、こちら
― 新着の感想 ―
[気になる点] 宣伝効果って笑 応募増えて自分達の手取られて周り強くしてアドバンテージ無くして何がしたいの? 誘拐したり消されたりされる立場なの理解してる筈なのに何でこんな頭パッパラパーなん?
[良い点] この話で初めて声を出して笑ったwww 某田中さん、泣いちゃうwww ★5評価入れときました!
[一言] 久々に読み返してみたけど 即成やばない? ステ上限60でもsp振れないだけで溜まっていくなら 将来的に即成をけしてしまえばそれ以上になれるわけで
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