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第32話 フェン遺跡の発掘

*用語解説あります

「ユキりん……はい……」

「……あ、うん……」


 ターニャが俺の口の前に、ちぎったパンを差し出す。

その瞳は、以前のターニャとは違って、何だかうるうるしている。


「ユキりん……おいし?」

「……うん。ありがと。ターニャ」


 う……。そんな上目遣いで小首を傾げられても……。

……それにしても、ターニャって可愛いとこあるんだな。

イケイケのエロ姉さんだと思ってたんだが。


「いやん……。ユキりん、私のことはターちゃんって呼んで」


 首をフリフリするターニャ。ぶりっ娘ですか……。

可愛いけど……。

それにしてもキャラ変わりすぎだろ?


「ねえ、ユキりん、ターちゃんって呼んで」


もはや言う事なす事、全てにハートマークがついてる雰囲気だ。

飼い主に期待してる子猫のような、キラキラしてる瞳が……もうね……。


「……うん。ターちゃん……」


 あざといけど可愛いので、つい、そう呼んでしまった……。

自分で一気に顔が真っ赤になるのがわかる。

すごく恥ずかしいです……。


「ふ、副長……。朝からどうしたんですか?」

「せ、拙者も副長のことが心配じゃ……。いつもと違う……」


 さすがにいつも冷静なアエラやリディアが、あまりのターニャの変わり様に、おどおどしてしまっている。


「私……もうユキりんいないと、生きていけないの」


メンバーたちにそう言うと、はあぁと甘いため息をついて、俺にべったりくっつくターニャ。


 あの媚薬……こんなに強力なのか。メロメロ状態じゃないか……。

そ、そりゃ……昨日の夜はすごかったけど……。

何だか効果が持続してるんじゃ……。


「ちょっと!ターニャ!いい加減にしなさい!」

「どうしたの?ステラ?そんなに怖い顔して……」


 いきなり立ち上がって、睨みつけてくるステラを、キョトンとした表情でターニャは見つめた。


「どうしたもこうしたも……食事中でしょ?それに仕事で来てんだ!」

「あらあら……。野暮ねえ……もしかして妬いてるの?」

「……くっ!こ、この……」


一瞬、険悪なムードが拡がる。

その瞬間、やんわりとジェシカが仲裁に入ってきた。


「まあまあ、ステラもターニャも……。これから仕事なんだし……」


……一番歳下なんだけど、しっかりしてるな……さすが王女。

俺もちゃんとしないと、チーム締まらないよな、これ……。


「では、これからフェン遺跡の調査をするけど、みんな一丸となって取り組んでほしい」


 俺は立ち上がって、食事が終わったみんなにそう告げた。


ターニャはずっとべったりと吸盤のようにくっついてたけど……。


***


「あ——寒いわね。さすが北部……」

「寒いよ……ユキりん……」


 フェン遺跡は北部山岳地帯でも、ほとんど開拓が進んでいない地域にある。

当然ながら、一面、分厚い雪で覆われているし、調査中、雪も降り続く。

これじゃあ、雪かき用のスコップじゃ間に合わないよね……。


「この雪が問題だな……。ちょっとなんとかする」


 うむ……。

遮蔽物を作っちゃえば、何とか風雪耐えられるかな?


その前に……と。


『雪よ、溶けよ! ティーニング!』 


 まずは<解凍魔法>で雪を溶かす。


みるみるうちに、岩肌と茶色の地表が姿を現した。

所々、石碑のようなものが立ってるな……。

神殿の北側で調査したダール地区の遺跡に似てるかも……。


 よし……次は<箱庭魔法>だ。


初めて使うんだけど上手くできるだろうか……。

ちょっとドキドキするな。

思い切って深呼吸し、目を閉じて精神を整えて呪文を唱える。


『結界よ!生じよ! エン ボックス』


 詠唱後、すぐに調査隊を中心に遺跡の範囲全てが結界に覆われた。

冷たい風も雪も、この中だと降ってこない。


「わあ!ユキりん、すごいすごい!」


 無邪気な子どものように、はしゃいでターニャが俺にくっつく。


 俺もちょっと上手く行ったことに驚いた。

自分がこれほど広範囲に、結界を張れるとは思ってもみなかったよ。


 一応、調査準備はできたので、調査隊メンバーを集めるか。


「お——い!それじゃ、みんな調査をはじめるよ。今回は予備調査なしに本調査をする」


「ん?本調査?やり方違うのか?」

「ああ。ステラ……。本調査は可能な限り、全て発掘するんだ」

「全部だって?ここの土、全部掘るのか?」

「そうだよ。そうしないと全体わからないし、予備調査だと一部だけでしょ?」

「まあな。調査用トレンチいくつか掘るだけだったな……」

「そういうことさ。ステラ……。ジェシカ!調査用杭の準備はできたかな?」


 今回は遺跡のどこから、何が出てきたのかを正確に把握するために、遺跡全体を碁盤の目のように細かく均等に分ける。


 まあ、調査の範囲に仮の方眼紙をかけるようなもんだ。


「ちゃんと準備できてますよ。ユキテルさん」

「ありがとう。ジェシカ。みんな!だいたいでいいから、等間隔に杭を置いておいて!」


メンバーはそれぞれ、広い調査範囲内に杭を置いている。


「ん?どうして杭がいるの?ユキりん……」


1人、俺の隣に残っていたターニャが、小首を傾げて尋ねた。


「ああ。調査するところを、細かく均等に四角く括るためのものさ」

「ふ——ん。さすがユキりん!」

「ああ、そうだ。ターニャ。ちょっと手伝ってくれないかな?」

「ぶ——。私のこと、ターちゃんって呼んでって言ったのにぃ」

「あ、ごめん。ターちゃん。お願い」


子どもっぽく甘えた様子で、ふくれっ面をするターニャ。

 

 俺は彼女と一緒に、調査区の中心に置かれた杭を一緒に打ち込んだ。

その後、魔法で、王宮中庭の噴水からの距離と位置を杭に書き込んだ。

 この杭を基準にするためだ。


「杭の配置は終わったかな?じゃ、リディア!地面に全部の杭を打ち込んで!」

「ん。拙者の番だな」

「あ、待って、リディア。私が微調整するわ」


 土属性の魔法が使えるリディアが、一気に魔法で杭打ちを済ませようとすると、ターリエンが竪琴を弾き始めた。


「隊長、杭の間隔は4mでいいですよね?」

「ああ、そうしてくれ、ターリエン。助かるよ」


ターリエンは小動物たちを使役して、杭の位置をちゃんと調整していく。

調査範囲が広いので、杭の本数が多いから助かる。


「お待たせ。リディア。あとは任せるわ」

「おお。ターリエン、かたじけない。では参る」


リディアが呪文を詠唱すると、一気に数千もの杭が地面に突き刺さった。


「ごめん、リディア。続けて申し訳ないんだけど、何か出てくるまで、土を剥いでくれないかな?」

「リディアさん、私にも手伝わせてください」

「あ、私もユキりんを手伝いたい!」

「……もちろん、私も」


 メンバーたちは次々に、自分の得意魔法で、広大な調査区の土を剥がしていった。


 リディアが大雑把に土を剥ぎ取り、マリオンとターニャが使役する植物たちが、邪魔になる土を移動させていく。

 何か出てきたら、アエラがリディアたちの穴掘りを止めた。

そのあと、ターリエンが野ウサギや野ネズミを使役して、遺物が壊れないように慎重に掘り出す。


 ……相変わらず、魔法で遺跡の発掘するって凄いなあ……。


……ん?ここの魔法って……。

俺はここの魔法の共通点に気付いた。


 そう。ここの世界の魔法は知ってる限り、何らかの形で生命の力を借りている。


 ルルや俺のような空間や時間をいじる魔法って、逆に異質なのか……。

あとでステラに聞いてみるか……。


***


「隊長——!ちょっと来てもらっていいですか?」

「なんか出たのか?」


  俺はアエラが呼ぶ方へ行ってみると、そこには異様なものが顔を出していた。


 それは遺物とは言えないものだった。


 ここで今、浅いところから出土している生活用品の年代は、『緑の時代』のものだ。

『緑の時代』は、この世界では、今のところ一番古い時代だとされている。


 その年代観からすれば、まるで見当違いなモノ……。

……俺のいた時代、俺のいた世界でもないモノ。


 しかし、地表からかなり深く掘った場所から、出てきたソレは……。

『緑の時代』よりも古い年代のもののはず……。


「隊長?」

「ユキりん?」


 呆然とそのモノを見ていた俺に、アエラとターニャが声をかけてくれた。


「……なんだ、これ……」


俺はこの言葉しか出すことができなかった。

調査区:遺跡の調査範囲のことです。


最後のほうでユキテルが戸惑ってる理由

・考古学には『地層の下から出てきたものの方が、上より古い』という、とても重要な原則があります(地層累重の法則)

作中ではそれに反するものが、見つかったので戸惑っているのです


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