第26話 結婚騒動!
*微エロありです
**用語解説あります
「ごめんなさい。ステラさんとルルさん……。私たち、結婚することになったので……」
ジェシカは三つ指をついて、ステラとルルに頭を下げている。
「あ——!お前という男は……!あたいに内緒で、ジェシカと関係持ったのか?」
「ユキテルさん……。どういう事でしょう?」
「い、いや……そ、そうじゃなくってだな……。軍を抑えるために陛下が……」
「陛下がどうしたって?あん?」
凄むステラとルルに、ジェシカと俺はすっかり腰が引けてる。
調査用トレンチがあったら入りたい……。
「まあまあ、ステラ……。ここは一度、穏やかに聞きましょう」
さすがルル!ステラを抑えてくれて助かる!
などと、俺がホッとした、その瞬間、この巫女の真の恐ろしさを体感した。
「で。ジェシカさん?私たちって何でしょう?わ・た・し・た・ちって?」
「…………私とユキテルさん……で……す」
「なるほど……。いつの間にお二人はできてたのでしょうね?」
穏やかにジェシカに尋ねる、ルルの目が笑ってなかった。
「だから……。2人とも誤解だって!陛下と王妃がそう言ってるだけで……」
「ふん!どうだか……け、け、結婚とか……」
「あ、あの……ここに婚姻証明書が……」
妙に結婚という単語に動揺するステラに、ジェシカは一枚の書類を、おそるおそる差し出した。
その書類を震える声でステラが読み上げた。
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婚姻証明書
ジェシカ=エンリルと小林雪輝を夫婦として認める
西帝国国王 ギャロウ=エンリル
西帝国第一王妃 ラスティ=エンリル
帝国暦18年10月28日
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「なんじゃこりゃ!婚姻届……ならぬ、証明書がすでに発行されてる!」
俺は思わず叫んだ。
頭がクラクラする……。どうしてこうなった……。
陛下にしてやられた!
冗談ではなく、本気で婿入りさせる気なんだな……。
陛下の策略にハマって動揺する俺の傍ら、ステラとルルが、お互いに抱き締めあって、体を小さく震わせていた。
ステラもルルも、今にも泣き出しそうだ……。
「だ、大丈夫です、す、ステラ……」
「そ、そうなのか?だ、だったら安心だ、ルル」
「そ、それにステラ……。まだジェシカさんとユキテルさんは、営みをしてませんよ。私たちの勝ちです!」
「……ん?待てよ!ルル!いい事思いついたぞ!」
急にステラが閃いた!と言わんばかりに目を輝かせた。
「な、何でしょう?結婚を阻止できるのですか?」
「ふふん……。3人ともユキテルと、結婚しちゃえばいいんだ!」
「……いいですね!さすがステラ!もう結婚してるも同然ですものね。うふふ」
「ステラさん、ルルさん……。それで宜しかったら、お仲間に入れてください」
「おおう!いいぜ!って、まだジェシカはそういう関係になってないよな?」
ステラとルルの無謀な提案に対して、ジェシカの顔がパッと明るく見えた。
……たかが一回、助けたからって……。
彼女の本当の気持ちはどうなんだ?
ジェシカは、ただ『白馬の騎士』を夢見てるだけなんじゃないか……。
エンリル家が軍を抑えるために、俺を利用しようとしているのはわかる。
半分は遺跡の情報を軍に知られないようにするためだろう。
もう一つが、あんまり自覚がないけど、俺自身の魔力……。
前、ステラが言ってたなあ……。『利用されないように』って……。
…………。
………………。
ネル……。それからルル……。
今の俺だと、守りきれないや……。
2人を守るためだ……。逆に立場を利用するしかないのか……。
「……い!……」
「おい!ユキテル!何、ぼーっとしてやがる!話聞いてたのか?」
「ん?どうした?ステラ?」
「何考えてたか知らんが、3人で決めたって言っただろう?」
ああ。3人で結婚うんぬんって騒いでたな……。
「それぞれの役割分担決めたんだ!」
「なんだ?それ?」
いつの間にか勝手に、いろいろ決めていたようだ……。
これ以上、俺が何か言っても、ステラ相手だとやぶ蛇になってしまうので、黙って聞く。
「ちっ!聞いてなかったろ?いいか。第一夫人がルル、第二があたい、第三夫人がジェシカだ。ただし、対外的にはジェシカが第一夫人だ」
「それで?対外的って、ジェシカが王女だからだな?」
「ああ。そうだ。軍への対抗なんだろ?なら、そうした方がいい」
「なんだ……ステラ……ちゃんと聞いてたんじゃないか」
「あ、当たり前だ!で、よ、営みのことなんだが……」
ステラは急に段々と小声になり、頬を真っ赤にして俯いてしまった。
その代わりにルルが続けた。
「……ユキテルさん、営みは、3人同時は週一回、あとは交代ということで……。夫人の順位は、関係を持った順番ですよ。ジェシカはまだですが、婚姻の手続き上、今夜……ですわ」
「今夜——!どうしてだ?ルル?ジェシカはいいのか?」
「……ユキテルさん、婚姻の儀式は大樹の御前で行います。でも<大樹の儀式>で、何があるかわかりません……。だから……婚姻の儀式は<大樹の儀式>前に行いたいのです……」
<大樹の儀式>は、大掛かりで危険を伴うという。
ルルの深碧の瞳が、揺れるように俺を見つめている。
……真剣なんだな……。
冗談で、提案してる訳じゃないのが伝わってくる。
「……わかった……。ジェシカさん……。ジェシカさんはそれでいいの?」
そう。肝心の彼女本人の考えを聞いていない……。
これが政略結婚であることなんて、陛下との面談でわかってること……。
でも……。本人の望まない結婚なんて……不幸だろ……?
「……私は……ユキテルさんの事が好きです……。初めてお見かけした時から……」
彼女の長い耳がピンと立ったと思うと、ゆっくりしな垂れていった。
そして、その耳先まで紅色に染めていた。
ふと不安げに彼女は唇を小さく動かすと、俺を真っ直ぐみて言った。
「好きです!私と一緒になってください!」
ストレートな好意……。それも恋敵たちがいる前で堂々と……。
『好意には行為で』……だったな。
俺……ジェシカのこと好きなんだろうか?
好きでもない女の子を抱いたって……。
確かにジェシカは可愛い。そして縁の下の力持ちだ。
でも……庇護欲こそ湧くけれど、これ、恋愛感情なのか……。
「……ユキテル、あたいたちは今夜は遠慮しとくから、ちゃんとリードしてやれよ」
「そうですよ……明日、午前中に婚姻の儀を行いますから……。その前にちゃんとしておいてくださいね、ユキテルさん」
2人とも、何だか同盟でも結んだか?
3人で結婚しちゃえばいいって、決めてから結束が強まってるぞ……おい……。
「ところで……ルル。お前、儀式執り行う方だろ?どうするんだ?明日……」
「……あ!いけな——い!どうしましょ……ステラ……」
相変わらずのドジ巫女ぶり……。ちょっとホッとする。
***
その夜、ジェシカは研究所にある俺の部屋に1人で来た。
「あ、あの……ユキテルさん……。本当にいいのですか?」
彼女自身、俺が本当はどう思ってるか不安だったのだろう。
どうしよう……。やっぱり今の気持ちを、ちゃんと伝えた方がいいよな……。
「……ジェシカさん……。俺、ジェシカさんの事は守りたいって思ってる……。好きだって気持ちとは違うんだと思うけど……」
そこまで伝えると、彼女の瞳が揺れ、一筋の涙が頬を伝わっていった。
そして華奢な腕で、立っていた俺にしがみついてきた。
「……わかってました……。わ、私……。ルルさんやステラさんとは違うって……」
……これ以上、言えないや……。ヘタレだな……俺……。
「でも!でも!私、好きです!ユキテルさん!この気持ちは変わりません!」
年齢の割には豊かな胸の双丘をすり寄せ、迫ってくる……。
甘い香りが鼻腔をくすぐって、クラクラしてしまいそうになる。
「私を好きになってください!ユキテルさん……」
今一度、泣き出しそうな、その顔が俺に迫ってくる……。
薄く薄桃色で瑞々しい唇、長い睫毛、ほっそりした顎のライン……。
柔らかくサラサラとした髪が、俺の腕をくすぐる……。
だめだ……何だかクラクラする……。
「……ユキテルさん……必ず好きにしてみせますから……」
ジェシカはゆっくりと薄いピンクの寝間着を、するすると脱ぎ、その瑞々しく雪のように白い柔肌をみせた。
俺は、吸い寄せられるかのように、自分の唇を彼女に重ねた……。
調査用トレンチ
・本作だと神殿北側の遺跡の予備調査で使いました。
・長さや幅は状況で決めますが、長方形の長い溝のことです。
・全て調査できないときや、予備調査等で、遺跡の範囲・性格を決めるときに使います。




