第25話 石版の秘密と国王面談
*注釈があります
「ユキテル……。いつでも言って……。我慢できなくなったら……」
「……あのな‥‥ステラ……。先にこの石版解読しないと……」
「……もう、休むときは休まないとダメだよ……」
そう言って、ステラは俺を後ろから抱きしめ、その豊かな胸を押しつけてくる。
背後から彼女のスラリとした指が、シャツ一枚の俺の胸の辺りを這う。
……指を俺の体に這わせるのは、甘えてる時なんだよな……。
俺なんかよりも歳上のお姉さんで、体育会系で……気丈そうに見えて……。
でも、俺はステラがすごく寂しがり屋で、親友想いなことを知ってる。
出逢った頃は口喧嘩ばっかりしてたな……でも今は……。大切な……。
「……ありがと。ステラ。もうちょっとで、この石版、解読終わりそうなんだ……」
「え?もう解読終わるのか?」
「うん。ほんとに終わる」
びくりとして驚いている彼女の顔が、背中からも伝わってきそうだ。
腕の立つ図書館の解析部門ですら歯が立たなかった碑文を、たった1人で読むのだから、そりゃあ、ビックリするだろう。
でもそれより驚いているのは、俺自身だ。
アルス南部遺跡から得られた資料は、俺が知っている甲骨文字に似ている。
そもそもまったく違う世界なのに、なぜ同じような文字があるのだろう?
それに石版は文字の解読というよりは、子どもの時によく遊んだロジックパズルに近かった。
俺より先にこの世界に来た奴がいたんだろうか?
石版や書物、礼拝堂にあった碑文が、指し示していたのは、北部山岳地帯のフェンという地方にある遺跡だ。
どうやらフェン地方にある遺跡には、アルス南部遺跡で見つかったものと同じか、それ以上のものがありそうだ。
フェンはステラによると、『緑の時代』に栄えてたところだという。
そしてステラやルルたち、樹人は、このフェン地方が発祥の地なのだそうだ。
この世界では樹人族が多くを占めている。
つまりフェンにある遺跡を調べると、この世界の成り立ちがわかるかもしれない……。
もしかして、遺跡から出てきた出土品や、ルルがおかしくなったのが、何故かわかるかも……。
いくつかの疑問が解けそうだ……。
俺は、ずっと抱き締めていてくれたステラの体温に応えるように、ステラの手に自らの手を優しく添えた。
***
「ほほほ。それでユキテル殿……。ジェシカとは関係を持ってくれましたか?」
「え?関係?よくいろいろ尽くしていただいておりますが……」
俺は次の日、王宮でギャロウ陛下とラスティ王妃と面談していた。
で、開口一番、ラスティ王妃にジェシカとの関係について聞かれてた。
「いいえ。ユキテル殿……。男女の関係のことですよ。おとぼけなさって……ほほほ」
「なんだ?まだうちの娘と、男女の仲になってないのか?」
げ!な、なんだって——!
どうなってるんだ……。両親自らが、娘と関係を持てとか……。
ラスティ王妃の横に座っているジェシカも、顔を真っ赤にして俯いちゃったじゃないか……。
「……い、いえ。そんな……畏れ多い……」
だんだん小声になってしまう……。
この様子だと、ルルやステラと夜を過ごしていた様子を、娘さんが羨ましそうに見てました……。なんて答えたら……。ヒィ……。
「ほほほ。ユキテル殿。最初から、うちの娘と関係を持っていただきたくって、お手伝いを許可したのですよ」
「奥手だのう——。ユキテル殿!うちの娘も奥手だから!どんどん行って欲しいぞ」
「まあまあ。陛下……。ジェシカから行くのが、流儀ですし……」
……なんじゃ……そりゃ……。
ここの流儀って、女の子から積極的に男性を口説くのか……。
……ステラが前、ベッドの中で言ってたけど……。
あれ、本当だったのか……。冗談かと……。
遺跡調査や軍の介入よりも、こっちの方が面倒じゃないか……。
こんな話の展開になるとは……。
「……ところでジェシカ……。貴女はユキテル殿のことをどう想ってるの?」
「…………はい、母上。素敵だと思います。命の恩人ですし……」
王妃は、耳先まで真っ赤にしてるジェシカの答えに満足気に頷く。
「陛下……。いいようですわ。ほほほ」
「うむ……。実はの。ユキテル殿。この度、貴殿が面会を申し込まれたのは、軍のことであろう?」
「あ、はい……。さようです」
ん?ジェシカが話してくれたんだろうか?
デリケートなことだから、俺から話すって、言っていたんだけどな……。
「軍の暴走については、諜報担当の図書館館長ステラ=エンバレットからも報告があってな……。それもあって、是非、ユキテル殿と親戚関係になりたいのだ」
ああ、ステラがちゃんと情報を陛下に……。さすがだな。
後でたくさん愛してあげないとな……。
…………。ん?今、親戚関係がどうのとか言わなかったか?
え……?
「ほほほ。元々、陛下は娘をユキテル殿に……ってお考えでしたもの……」
「うむ。是非、我が娘と関係を持ち、エンリル家に入っていただきたい!」
ちょっと待て……。
俺、お見合い経験あるけど……。
これって、ずっとジェシカとは会った時から、両親設定済みのお見合いだったってことかあ——!
「……もう、大巫女ルル様や、あの図書館長ステラ殿と関係持たれたのでしょう?だったら、なおのことですわ……」
「そうだぞ!ユキテル殿!娘も入れれば安泰になるぞ!素晴らしい!ガハハ!」
完全に縁談だ……。何しにきたんだろ?俺……。
それこそルルやステラの気持ちってどうなるんだ?
ハーレムかも知れんが、女の子の気持ち無視なんてできないぞ……。
ジェシカの方を伺ってみると、彼女は頬を上気させて、脚をもじもじさせている……。
はあ……。本人すっかりその気ですか……。
「ジェシカ!お前はユキテル殿と一緒になりたいか?」
「はい!お父様!母上!一生添い遂げますわ!」
「「よし!」」
力強く拳を振り上げる親子……。
………………。決まってしまった……。ははは。乾いた笑いしか出てこない……。
***
俺はもうすっかり頭の中が真っ白になってしまった。
「いやあ、めでたい。めでたい!真剣な話、貴殿にはエンリル家に、入っていただかないと困るのだ」
「……どうして私なんですか……」
「余とラスティの間に男子が生まれないのもある」
まあ、男子が生まれにくい傾向だって、ステラが言ってたな……。
「ほほほ。それにね。ユキテル殿……。貴殿のその潜在的な魔力量がすごいのですよ……」
「うむ。たぶん大巫女ルル様を上回るほどだぞ!」
「……陛下、王妃様……。いくら異世界人とはいえ、私ごときが……」
「ユキテル殿……。貴殿が自覚がないだけですわ。なぜこちらに来ることができたのでしょう?ルル様お一人では無理ですよ。いくら大巫女とはいえ……ほほほ」
ああ、そういえば最初にルルが言ってたな……。
『<次元魔法>は私だけではできません』……って。
「それからな!ユキテル殿!先の『大戦』を収めたのは、このギャロウなのだ。これから軍に対抗するためにも、貴殿がエンリル家となれば対抗できる!」
政略結婚か……。
ジェシカ本人は、本当の気持ちはどうなんだろう?
それにルルやステラは……。
こればかりは本人たちに聴かないとわからないな……。
とりあえず、ここは当初の目的通りに、遺跡のことを話して逃げよう……。
「あ、あの、陛下……。本題の件ですが……」
「ああっと!めでたいので、すっかり忘れておったわい!ガハハ!」
「ユキテル殿……。もし営みに必要ならば、いくらでも王宮のツールをお持ちくださいませ。おほほほ」
「うむ。すでに愛の巣もあるし、安泰じゃな!ガハハハ!」
「そうですわね、陛下。おほほ。3人で楽しめますしね。ほほほ」
ツール……。それって……。はあ……。
大丈夫か?この国……。
結局、肝心のアルス南部遺跡の事と、北部のフェン遺跡の調査の許可はなんとか……ね。
軍の暴走の件については、『ジェシカと一緒になれ!』ばかりだったし……。
まあわかるんだけどさ……。
王宮からの帰り、王妃がジェシカに大きなバックを持たせていたけど、あれは何?
まさかとは思うが……。いや、考えすぎだな……。あはは。
ルルが出頭するまで、後6日……。
甲骨文字
・漢字の元となった絵文字のような文字です。ほぼ解読されています。
(辞典もあります)
・中国の殷王朝(紀元前1600年)の遺跡から出土します。
・亀の甲羅や鹿の骨などに刻まれているため、この名称になっています。




