第22話 密会
*微エロありです
「あ、あの……」
「どうしたの?ジェシカさん?」
「……い、いえ……何でも……」
なんだろ?ジェシカさん、顔を真っ赤にして慌てて……。
声をかけておいて、逃げていくなんて……。
アルス南部遺跡の調査を終えてから、何となくジェシカの様子がおかしい。
確かにお姫様抱っこはしたけれど、あれは助けるためだから!
天井から落ちてくる岩盤から、お互いの身を守るにはあの体勢が一番だったんだけど……。
「おい!ちょっと……」
「……な、なんだよ。ステラ……」
「ちょっと話があるんだけどさ……。図書館の方に来てくれないか?」
「……あ、ああ。いいけど……」
……ルルとのことだろうか……。
調査に行く前は、どうも気にしてたみたいだったけど……。
***
図書館には、いつものようにルルに、<移動魔法>で送ってもらった。
その時、彼女にジト目で睨まれてしまった……。
少し無口だったのが怖い……。
「ステラ!来たけど?」
「ユキテル!こっち、こっち!」
声がした方へ行ってみると、そこには、Tシャツのような薄い上着とパンティ一枚で、あぐらを組んで座ってるステラがいた。
「お、おい!なんじゃ格好は!……み、み、見えてるぞ!」
「ん?いいじゃないか。今さら……お前とあたいの仲じゃないか」
「そ、そういうことじゃなくってだな……」
「なんだ、もっとセクシーな方が良かったか?」
そんなことを言いながら、俺の腕に、自らの胸を押しつけ絡んでくる。
「わ、ち、ちょっと、お、お前、胸……」
「……ん。胸がどうしたって?」
「い、いや。し、仕事は?そ、それで呼んだんだろ?」
柔らかく豊かな胸の膨らみを押しつけられながらも、どうにかギリギリ理性を保つ。
今日は仕事、今日は仕事、今日は仕事、今日は仕事……。
魔法のように心の中で詠唱する。
「ちぇ。意気地なし!今、ここでシテもいいのにさ」
ステラは口を尖らせながら、絡んでた肢体を名残惜しそうに離した。
「……もう!しかたないなあ……。で、まずは小部屋から持ってきた奴なんだけどさ……」
乱れたシャツをサッと直すと、机上にあった本を俺に放り投げてきた。
「この本、何かわかったのかな?」
「まずその本の方だけど、これ、ユキテルが言ってたように、ネルが礼拝堂で模写してきた文字と同じだね」
「じゃ、俺、それ読めるかもしれない……たぶんだけど」
「え?ユキテル!何気にお前って、すごい奴なのか?」
「って、お前、今までどういう目で見てきたんだ?」
「……ベッドでエロい優柔不断男‥‥」
「なっ、何、赤くなりながら言ってる!お前は」
そう言ってる自分の方が紅潮してるのがわかる。
「ふふ。照れ屋さん……。ま、そういうとこがいいんだけね」
満足気に俺を見つめながら、笑うステラを見てると、なんだか可愛く思える……。
「で、本当に読めるのか?ユキテル」
「ああ。俺のいた世界の文字の一つに似てるんだ。あの小部屋の鍵も読めたからな」
「うむ。じゃ、一緒に解読しようぜ」
何かいいことを思いついたように、ステラはパッと顔を輝かせていた。
「ん?ここでか?」
「小部屋から持ってきた石版も箱も、ここの資料あった方がいいだろ?」
「まあ、そりゃそうだけどさ……」
「それに大陸随一の知識量を誇るあたいがいるぞ!」
豊かな胸を張って、堂々と言うステラに俺は半ば呆れながらも、彼女の提案を受け入れた。
「……わかったよ。手伝ってくれ、ステラ」
「やったあ!これでユキテルと一緒にいる口実が増えたぞ」
やっぱりか……。
まあ、解読するためには彼女の知識も、この図書館の資料も必要だからな。
…………それに、まあ、なんだ……ステラともいられるし……いいか。
「あとな、最近、軍の動きがキナ臭いんだ。できれば一緒にいたいのさ」
「ん?軍?何か悪いことでもしたのか?お前……」
「……ったく……。アルス南部遺跡の件以降だから、たぶん、あの遺跡に関わる事なんじゃないかって思ってる」
「もしかして、お前、付けられているのか?」
「……関係者全員だ」
……軍か……。
前、ステラが『気をつけろ』って言ってたけど、彼らは何が目的なんだ?
遺跡や出土品なんて、彼らにとって意味あるもんじゃないだろうに……。
でも、うちらが尾行されてるっては……。
「それ、確かなのか?ステラ」
「あたいの優秀な部下達が、身を粉にして偵察してるからな。確かだ」
「……そうか。図書館で単独でいるのは危ないって事だね?」
「そういうことさ!」
待てよ?ステラが、俺の研究所に来れば……。
「あのさ、別にここじゃなくても、研究所に資料持ってくればいいじゃないか?」
「一度に資料を運び出せないぜ、ユキテル……」
「……わかった。じゃ、少しずつ一緒に研究所に資料を運ぼう。で、一緒に住めばいい」
「…………うん。わかったよ」
ホッとため息をついて、安心したような表情を俺に見せる。
その途端、ステラは悪戯っぽく、にやりと笑ってこう言った。
「で、ここからがあたいの本題だ」
げ……!やっぱりルルとのことか……。
何だろう。ルルのことは守ってやりたい……。
でも……ステラも……。
ステラは、俺の顔を覗き込みながら、問いかけてきた。
「……まず、ジェシカのことだけどさ。あの王女様、たぶんユキテルに惚れたぞ」
……ルルのことじゃなかった。
ホッとする一方、意外な名前が出てきたことに驚いた。
「何でだ?惚れられることなんてしてないぞ」
「ふん。あのダンジョンから抜け出す時、命がけで助けただろうが」
あ……。
でも、あれはジェシカだからってわけじゃなくって……。
「あの年頃だし、お前はすっかり王女様の白馬の騎士だぞ。どうする?」
「いや、どうするもこうするも……勘違いだろ?」
「ふ——ん。ジェシカが迫ってきたら……?」
ステラは目を細めて、ゆっくりとにじり寄ってくる。
まるで女豹のように……。
四つん這いになっている彼女のシャツから、たわわな胸が溢れそうだ……。
や、やばい……。こんなところで……。
「い、いや……だって王女だぞ。手出ししないよ」
自分の声が上ずってしまっているのがわかる。
もう、俺は艶めかしく迫ってくるステラから、目が離せなくなっていた。
だ、だめだ……。今日は仕事、今日は仕事……。
ああ、いかん……さすがのマントラ詠唱も………。
「……ルルとはもうシタんだろ?」
そう言いながら、俺の首と背中に、ステラは腕を廻してくる。
「あ、い、いや……」
「何言ってるんだ?こんなに反応してる癖に……女の勘を舐めてる?」
ちゃんと言わなきゃ……。
ステラには悪かったけど……でもルルだって……。
『私に愛しかたを教えてくださいませんか?』
『……子種は仕事です。でもユキテルさんじゃなきゃ、イヤなんです……』
そう真剣な面持ちで、俺に話してくれたルルを思い出す。
そう、ルルだって、きっと……。
「……あたい、待ってたんだよ……ユキテル……。今度は約束通り、あたいだろ……」
…………。
ステラは好きだ。でも一体どうすれば……。
「みんなの前でキスなんてして……許さないんだからね!」
「す、ステ……」
彼女は俺の言葉を、自らの口で飲み込むように塞ぎ、激しく求めてきた。




