表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/41

第21話 アルス南部遺跡調査(2)

 ステラと2人で入った、その小部屋は狭く、およそ6畳ほどに過ぎなかった。

小さな机と椅子が置かれ、本棚があるのみ。

 それ以外には何も見当たらない、実にシンプルな部屋だ。


 ……何だか、学生時代に住んでたアパートみたいだ……。


 机の上には何やら、古めかしい書物と石版が置かれていた。

俺はその書物をステラに渡して、聞いてみた。


「ステラ……この本、読める?」

「……なんだろうね。読めそうで読めないよ」

「持って帰るか?その本……出土物扱いだけどさ……」

「いいかもね。うちの図書館で預かって、解析係に廻してみる」

「ありがと。助かるよ。ステラ……」


 礼を言うと、うっすらと彼女の頬が、赤みを増したかのように思えた。

……すぐ表情に出ちゃうんだよね、彼女……でも、こういうとこが好きだ……。


「……と、ところで。ユキテル。この石板はどうする?なんか図が描いてあるぞ……」


 そう言いながら、ステラは、石版を手でコンコン叩く。


 俺も今、彼女のように顔に表情が出ちゃったのだろうか?


 咳払いする彼女から、その石版を受け取ってみると、表裏とも、歯車が組み合わさった図が描いてあった。説明らしき文字は書いていない。 何だろう……?これ、伝承にある最初の時計の設計図か……?


「……ステラ?これも、持って帰るよ。ん?何、それ?」

「ああ、これ、その本棚にあったんだ」


 ステラが手にしてたのは、手の平サイズの直方体状の箱だった。

その箱は木製だが、とても重く、振るとカチャカチャと音がする。

何か入ってるようだが、開けるようなところは見当たらない。


「ん——。何だろうね?これも出土物として、持って行こうか?」

「そうだな。ユキテル」

「隊長!隊長!ちょっと、こっちに戻ってきてください」


 箱や石版などを手持ちの袋に入れていた時、礼拝堂の方から、アエラが呼んだ。


「今いくよ——!」


 俺たちが礼拝堂に行くと、水色の液体が入っている円柱の周りに、メンバーが集まり、ルルに声をかけたり、肩を揺さぶったりしていた。


「ああ、隊長!申し訳ないです。ル、ルルさんの様子が……」


 メンバーたちの中心には、ルルが呆然と立っている。

その視線は虚空を彷徨(さまよ)い、いつも微笑んでいる口元はしっかりと結ばれている。


「おい!ルル!ルル!ルル!」


 返事がない……。ほんのちょっと前まで、話をしてたのに……。


「……ルル!ルル……!」

「隊長……。さっきからそうなのです……」


 アエラはそう言うと、肩を落とし、猫耳もうな垂れるように伏せた。


 どうなってるんだ……。一体……。

俺は『ごめん』と言いながら、ルルの頬を軽く叩いてみた。


…………。可憐な唇から、声は発せられない……。

相変わらず円柱の中に囚われたかのように、立ち尽くしている。


「おい!ユキテル!あたいが引っ叩いてみる」


パシッ!


……相変わらず微動だにもしない……。

まるで、違う世界にでも行ってしまったように感じる。

…………もう、ルルを背負ってでも、連れて帰るか。


「あ、あのさ……隊長……」


 全く反応のないルルを目の前に、途方にくれていると、おそるおそるターニャが発言した。


「隊長……。人を操る魔法って、私やターリエンじゃなくても使えるんですよ?」

「……で、ルルとどう関係が……」

「……相手を魅了する最大のものは恋なのですよ、隊長……」


普段は物静かなターリエンが、ターニャの代わりに、真剣な面持ちで静かに話を続けた。


「……賭けではありますが、もし、ルルさんや隊長ご自身に、お互い恋愛感情に近いものがあるなら……」


 少しターリエンは言葉を濁して、顔を赤らめた。

なぜ、ターリエンが恥ずかしがるのだろう?


 ?……。でも、ルルを連れて帰らなきゃ……。

この子は、俺にとって…………。


「……あるなら?」

「………………ルルさんと口づけを交わしてください」

「は……?」

「あ、あの口づけです……ルルさんと……口づけを交わしている間、私が竪琴を奏でて、コントロールをしますから……」


 あまりの突拍子のなさに、俺は唖然としていると、ターリエンは頬を赤く染めながら、自らの竪琴の音調整をしはじめた。


 あの……こんなに人がいる前で…………キス……。

それも昨夜、肌を重ねた子と……。

 自分の顔が火照っていくのがわかる。


「あのさ、ターリエンとターニャ。他に方法ってないのかな?」

「……ない……ですよね、ターニャ……」

「ないわよ。いいじゃない?ルルはユキテルが好きなんだし……。私たちは、むこうを向いててあげるわよ?」


あっさりとそう言い放つターニャは、他のメンバーを促して少し離れた。


 ……何?みんな、その、いつでもどうぞ状態……。


 ふと、ステラの方に視線を向けると、彼女は唇を噛んで、眉間に(しわ)を寄せていた。

……こんな顔する時って、彼女、我慢してるんだよな……。

…………そりゃ俺だって、ステラが他の男とキスすれば、嫌な気分になるよ……。


………………。


 ええい!後でステラには、ちゃんと謝っておこう。

そしてちゃんと埋め合わせするから……ステラ……今はごめん……。

 後ろを向けるステラに、俺は、そっと手を合わせて謝る。


 意を決したように、一気に、ルルを強引に自分の方へ向けた。

……そして、ルルの可憐で柔らかい唇に、俺は目を瞑って、唇を重ねる……。


ん…………。彼女の唇の感触と仄かな体温が伝わってくる……。

……遠くから、どこかで聴いたような懐かしい竪琴の音……。

…………。

……心地いいや……。なんだか下に落ちていくなあ……。


「‥‥テルさん」

「ユキテルさん!」

 

  誰……?俺を眠りから覚ますのは……。


「ん……」


 俺が目をそっと開けると、そこには、目の前には頬を真っ赤に染めたルルと、笑顔のメンバーたち……。


「よかったです!ルルさんを取り戻したんですよ、ユキテルさん」

「さすが隊長殿!拙者は感服したぞ」

「……さすがです」


 口々にメンバーたちが、喜びの声をあげる。

あ、そっか。俺、ルルとキスしたんだったけ……。

……ルル?ルルは?


 目の前には顔を上気させたルルがいた。


「あ、ルル……」

「わ、私……。あの水色の柱のところにいたら、何だか……」

「気にしないでいいから……。さあ、みんな帰ろうか?腹減ったろ?」

「お腹すきました……隊長……」

「拙者も……肉を……」

「私、魔力結構使いましたから……く、果物を……」


 ぐぅ。きゅるる……。

 

 誰かが盛大にお腹を鳴らす音に、みんなで大笑いした。



「よし!帰って、打ち上げするぞ!」


***


 帰り道は、マリオンたちが説得しておいた(つた)さんたちの援助もあり、ゾンビたちもそれほど出てこなかった。

 しかし、ゾンビたちを倒した後のためか、床の蔦の量がハンパなく多い。


「お——い!みんな、足元、気をつけてね」


 帰りの方が安心しきってるし、体力消耗しているから、逆に注意しないと……。


「きゃ!」


 後ろを振り返ると、案の定、ルルが蔦に足を取られて転んでいた。

あちゃあ……。考えるそばから……このドジ巫女……。


 やれやれ……と、ため息をつきながら、俺は彼女の足に絡まっている蔦をとってやった。


 そして彼女を立ち上がらせた、その瞬間。

ギシッと、天井が軋む音が聞こえた。 


 やばい!天井崩落だ!


 確か、後ろにはジェシカが……。

事故はダメだ!絶対!みんな、不幸になる……。

 

「全員!全力疾走で出口に行け!急げ——!」


 そう怒鳴ると、俺は全力でルルを前方に突き飛ばし、後方のジェシカの頭上付近めがけて、

<雷撃魔法>を詠唱する。


『トールデンリース!』


 そして詠唱する間も無く、俺は全力で、ジェシカの元へと走った。


そのあとのことは、自分でも何だかよく覚えていない。

 

 覚えているのは、ダンジョン出口で俺にお姫様抱っこされて、ゆでダコのように赤面しているジェシカ……ジェシカを冷やかすメンバーたちの顔……。


 そして腕組みをして、俺を睨みつけているルルとステラの恐ろしい顔だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ