表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/41

第14話 打ち上げ

宴席では大切な話もありますよね……

 帝都アルスは、もう日が傾いているのにも関わらず、多くの人々で賑わっていた。

人波をかき分け、『お腹減った』と騒ぐメンバーたちと入ったのは、お酒も出す居酒屋風大衆食堂だった。


 みな、怒涛(どとう)のごとく注文し、料理と飲み物がテーブルに山のように置かれる。


「じゃ、はじめましょうか?ユキテルさん、乾杯の音頭をお願いできますか?」

 斜め向かい側に座っていたルルが、木製のジョッキを持って、乾杯を促した。

 

 ちなみに今日のこの打ち上げ代は、ギャロウ陛下のポケットマネーからだ。その辺の段取りは、ルルとジェシカが仕切ってくれた。手際が良すぎる‥‥。


「では!皆さん、今日はお疲れ様でした。これからもよろしく!乾杯!」

「やっほう!乾杯!」


 俺を含め、総勢10名が、一斉にジョッキを空けた。


 さっそく肉に食らいつくリディア、果物を口に頬張りつつ、違う獲物を両手に持ってるターリエン、すでに8杯目を平らげているマリオン、ジョッキを何杯あけたかわからないステラ、ネルと一緒に鍋物を突いているルルやジェシカ……。


 別の意味での阿鼻叫喚(あびきょうかん)図だ。

 

「遺跡の発掘って、疲れるけど、意外と楽しいものなのですね」


 黙々と串肉を食べながら、アエラが話しかけてきた。

少しふくよかな体型にも関わらず、本人の言う通り、意外と食べていない。


「楽しんで仕事してもらえて、俺も嬉しいよ」


 その返事に、にっこりと微笑んだアエラは、俺のジョッキに琥珀色の飲み物を注いだ。

向こうの席に座っていたターニャも、そばに寄ってきて、飲み物を俺に注ぐ。


「あ、それは私も思った——。出てきた時が、なんか嬉しいよ」

「まあ、それは遺跡発掘の楽しみの一つかな」

「ふ——ん。で、ルルとはどこまで行ったの?」


 プ——。俺は思わず、ジョッキの液体を噴いた。


「何もしてないの?離れ家に住んでるから、同じ屋根の下も同然じゃない」

「あ、あのな……。声が大きいよ……」

 

 俺はルルの方をちらりと見た。ネルやジェシカたちと話してて、こっちには気がついてない。


「……もしかして、隊長はルルが大巫女だからって思ってない?」


 …………図星だ。

まあ、巫女という立場で俺の召喚者だからってのは、一番大きい……。


「黙っちゃうってことは、そう言う事だよね。あんまり気にする事ないと思うよ。隊長のいた世界がどうだったかは知らないけど、ここでは一夫多妻が当たり前。一夫一妻とかだと、逆に、何か問題でもあるんじゃないかって思われるわ」

「え?俺を召喚された者だって知ってるのか?」

「もちろん。ここアルスじゃ、みんな知ってるわよ」


 げ。そうだったのか……。

アルスで悪いことできないな。

……でも、一夫多妻ねえ……。馴染めないなあ。


「と言うわけで、私も参戦しちゃおうかな?」

 

 潤んだ瞳で俺を見つめて、濡れた自らの唇を舌舐めずりするターニャ。

うわあ。エロい危険だ……。俺には刺激強すぎる……。

 

「おおい!ユキテル!楽しんでるか。ん?何だ!この姉ちゃん!」


 俺に迫り来るターニャを退けて、すごい勢いで割り込んできたのはステラだ。


「ちょ、ちょっと……」

「ああん?ユキテルにちょっかい出してんじゃないよ」

 

 ターニャは残念そうに、こちらをちらりと見ると、ルルの方へと、自分のジョッキを持っていった。

 そんなターニャを(にら)みつけ、俺の隣に座ると、ステラは俺のジョッキに飲み物を注いだ。


「お前なあ……メンバーに喧嘩売るなよ」

「あの女、ちょっと気をつけた方がいい」

「ん?ルルの友達だから大丈夫さ」

「……女の勘ってやつかな。あの女は何かある」

「疑り深いやつだな。気のせいだろ?」

「……だと、いいんだけどな。ま、嫌な感じはするのさ」


  まあ、ステラも、ルルほどじゃないけど、かなりの魔力もってるからな。こう見えても……。


「……で、今晩さ。……ユキテルのとこ、泊まっていいか?」

「は?何でだ。図書館の仕事はどうした」

「大丈夫さ。部下どもに全部丸投げしてきた。なんせ館長命令だぞ!それにルルには仕事の打ち合わせって、言ってあるから無問題だ」


 もう、ルルに根回ししたのか……。

でもルルのこと、気にしてるんだな……。


「……って、お前、館長だったのか……どおりで」

「ま、そんな身分なんて、仕事にゃ、関係ないだろ。ユキテル」

「ま、そりゃそうだ」

「で。泊まっていいか?」

「……断ったら?」

「いや。ユキテルは断らない。ほんとに仕事もするし。あの返事も、もらってないから」

「……わかったよ」


 俺は、ついつい、ため息をついた。 

告られた返事をしなきゃならないのか、と思って……。


 そんな俺の腕に、ステラが豊かな胸を押しつけてきた。

まるで心配するなって言うかのように……。

 わあ……。柔らかくって、暖かくって……。理性とびそう……。


「ふふ……。じゃ、後で……」


 微笑みながら名残惜しそうにステラは席を立つと、待っていたかのように、ルルが

俺のそばに座った。


「あの。ユキテルさん」

「な、何でしょう?ルル」


 後ろめたさで、俺は声が裏返ってしまってた。


「変なユキテルさん。ステラが、今晩、泊めてくれないかって、お話したかと思うんですけど。それは構わないですよね?」

「あ、ああ。い、いいって、ステラにも言ったよ」

 

 ルルは微笑みながら、そして疑いもせずに、こう言った。


「それはよかったです。私は明日の午前中に、王宮で、陛下と将軍に、お会いしなきゃならなくなったので、今晩は一緒に神殿に戻れないんですよ。今夜は、ジェシカさんの別宅にでも、ご厄介になろうかと話をしていました」

「え?ネルはどうするの?それに<移動魔法>使わないと、この時間からでは、神殿に戻れないんじゃないの……」

「もうネルは寝ちゃいました。お腹いっぱい食べてましたしね‥‥」


 ルルが指差した先には、リディアの膝の上で、気持ち良さそうにネルが寝息を立てていた。


「それに<移動魔法>の件なら、ご心配なく。私がちゃんと送り届けますから」

「<移動魔法>は、術者が、そばにいなくても使えるの?」

「……普通は術者が、そばにいないと移動できません。これでも私、大巫女ですから。行き先と、相手の現在地がわかれば、移動させることができるんですよ」


 そう言って、細い二の腕を出して、力こぶをフンと出して、やる気をみせるルル。


「そうか。わかった。俺は陛下やローレン将軍に会わなくてもいいの?」

「えっと、今回は資金のことなので、大丈夫ですよ。ジェシカさんも一緒ですし」

「あ、そっか。今回の謁見は、ジェシカが持ってきた話だったんだね」

「はい、ユキテルさん。ジェシカさんのご発案です」

「……そうかあ。あの子、なかなか凄いね。交渉ごとやら、道具のこととか」

「そう思います。彼女を()めてあげてくださいね」

「うん。そうする。ありがとう、ルル」


 そう、お礼を言うとルルはかすかに微笑んで、頬を染めた。

そんなルルの姿を見て、俺は、胸の奥底にある空気が、止まる気配がした。


 いたたまれなくなって、俺は、ジェシカがいる席へと向かった。

ルルと、たった今、約束したばかりだもんな……。ちゃんとしないと。


「ジェシカさん、ありがとう。今回の調査が上手くいったのは、ジェシカさんのおかげだ」


 俺は素直にジェシカにお礼を言って、頭を深く下げた。

 

 器材の段取りや、必要な経費の計算、そしてこの宴席に到るまで……。

全部、細かいことはジェシカが受け持ってくれたのだ。

 今まで王宮にいて、こんなことやったことなかっただろうから、大変だったろう。

 

でも彼女のような、縁の下の力持ちがいなきゃできない仕事だ。


パチパチ………。パチパチパチパチ。

 その拍手の音は最初は小さく、そして少しずつ大きくなって、ジェシカを包んだ。

メンバー全員が、この小さな力持ちを讃えていた。


「み、みなさん……。こんな不慣れな私を……ありがとう」


 ジェシカは、思いっきりその頬を涙で濡らした。


***


「では、ユキテルさん。ステラをよろしくお願いしますね」

「あたいが、ユキテルをお願いされるんだぜ?」


 冗談を言いながら、ステラは、俺と一緒に、ルルが描いた魔法陣の中に入ってきた。

ルルの詠唱がはじまると、ステラがそっと俺の手を握った。


そう。これからステラと夜を過ごすのだ。俺は……。

いつもお読みくださいまして、ありがとうございます。

ブックマークもいくつか頂きまして、恐縮しております。


物語がスローテンポで申し訳ないです。

少しずつ、苦悩しながら、成長していく主人公たちを、見守ってくださると幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ