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第13話 はじめての予備調査

 昨夜は、いろいろなことがあって、どうにも寝つきが悪かった。


 どうも調子が出ないなあ……。

でも、今日からダール遺跡の予備調査だったな。


ある意味、ここからが本番だ。気合い入れて行かなきゃ!

 

 俺は自分の頬を両手でパシンと叩き、気合いを入れた。

そして集合場所であるダール遺跡へと向かった。


「……おはよ。ユキテル」

「……あ、ああ。おはよ。ステラ」


 なんか元気ないな。ステラ……いつもなら絡んでくるのに……。

さっきから俺をチラチラ見てるし、やっぱり昨夜のことを気にしてるんだろうな。


そんなことを考えていると、昨日、ギルドで面接した連中がやってきた。


「おはようございます、隊長!」

「ターニャ、それから、みんな、わざわざ現地までありがとう」

「うむ。これから拙者たちをどんどん使ってくれ」


「おい!こいつらをあたいらに紹介しろよ、ユキテル」

「……あ、ああ。悪い。向かって右から、ターニャ、リディア、マリオン、ターリエン、アエラだ。ルルと話して、とりあえずターニャを副長にした」

「……ち。ライバル増えたな」


 ステラがぼやくように呟いた。

それが彼女にしては、小さい声だったため、俺は聞き直した。


「ん?お前、今、何か言わなかったか?」

「ふん。気にするな。……それより、今、あたいのこと、『お前』って言わなかったか?」

「う。ご、ごめん」

「ふふ。ちょっと嬉しいぞ」


 ステラは、にやっと笑うと、スッと、ターニャたちのそばに行った。

 

 何だ……。よくわからん奴だ。

ストレートに告ってみたり、かといって、今のようにこっそりと愛情表現したり。


***


 みんなに手伝ってもらいながら、丘の小高い部分の一角と、矢じりが拾えたあたりを中心に、合計6カ所、(ひも)で長方形状に囲った。

 

 ま、トレンチって奴だ。この囲った部分を掘ってみるのが予備調査だ。


 さて、ここからが面接した連中の力の見せどころ。


「よっしゃ!ではターニャかマリオン、ちょっと草木をどかしてくれると助かる」

「では、私がまず説得してみますね」


 そう言ってマリオンが、トレンチ周辺の草木に、何やらボソボソと話しかける。

何だかアブナイ人に見えなくもないや。


「あ、ユキテル隊長。今、移動するそうです」


 マリオンが、そう報告するやいなや、場所によって、腰まで生えていた草木が、あたかもタコかイカのように、にょしにょし、わさわさと、葉を揺らしながら、自分から移動していく。

 

 わあ、はじめて見るけれど、すごくシュールだ。


 ここの植物って、どんな生き物なんだよ。

つか、植物を説得してしまうマリオン、すげえ……。


 俺があんぐりと口を開けて、植物たちの移動を眺めていると、ルルがクスクス笑いながら、声をかけてきた。


「ユキテルさん、植物たちは意思を持ってるんですよ。さて、次はどうしましょうか?土を掘るんですよね?」

「……あ、ああ。そうだね、ルル。じゃあ、リディアがいいかな。何か地中から出てくるまで、土をはいでくれないかな」


「拙者の出番でござるな。では失礼して」

『汝、ヨルズよ!、我、竜の眷属リディアが命ず!土よ!はがれよ。スカル・ヨーデン!』


 リディアが、力一杯、呪文を詠唱すると、モワッと土が盛り上がり、たちまち、6カ所あったトレンチ内の土が一斉にはがされた。

 それぞれのトレンチを俺が見に行くと、それぞれ深さは違うものの、どこも金属物や土器が出てきた層で、ものの見事に(とど)まっている。


 こいつは驚いた!全然、汗流してないぞ!

俺が魔法の威力に感心していると、ターニャとターリエンが前に出てきた。


「では次は私たちの番ですね」

 

 そう言うなり、ターリエンが目を閉じて、竪琴を奏でる。

一方でターニャは、杖を上に掲げ、短い呪文を一言、詠唱した。


 すると今度は、どこからともなく、ネズミや野ウサギ、モグラが何匹も現れて、顔を覗かせていた土器や金属物に付着していた土を取り除きはじめた。


 魔法ってすげえな!たった20分で、ほとんど調査が終わったわ!

で、今までの俺の苦労は何だったんだ……。


 敗北感に打ちひしがれていた俺の肩を、ルルがトントンと叩いた。


「あの、ユキテルさん。だいたい掘り終わったようですし、私たちで調べてみましょうか?」

「あ、ああ。魔法って、ホント凄いんだな」

「ふふ。ユキテルさんには、私がお教えますから」


 そう悪戯っぽく笑って、ルルが近くのトレンチに小走りに行こうとした。


「あ、走っちゃ危ないよ!」


 そう言って止めようとした瞬間に、ルルは『きゃ』と小さく叫んで、思いっきり尻もちをついてしまった。


あちゃあ……。ルルって、気が抜けた時、転びやすいんだな、きっと。


***


「おい!ユキテル!これ、何だ?時計でも落ちてたのかよ」


 ステラが隣のトレンチから、大小さまざまな歯車を持ってきて、俺に手渡した。

俺とルルがいるトレンチからも、同じような歯車がたくさん出土している。


「たぶん何かの機械だね。時計にしては歯車大きすぎるぞ」

俺はステラから、受け取った歯車を手のひらで転がしながら、応えた。


「機械?この大陸に、時計以上の複雑な機械ってないぞ」

「バラバラだから組み立てないとダメだね。まあ、とりあえず記録取って、出てきたものを研究所に運ぼうよ」


「わかった。で、あたいは次に何をすればいい?」

ステラは腰に手をあてて、俺の指示を待った。


「そうだな……。ちょっと待ってろ。ネル!この溝の位置関係を、絵に残したいから、ちょっと、これを持って上空に飛んでくれないかな?」

「いいよ。お兄ちゃん。あの大きな柱があるところから、描いていいかな?」


俺はルルのそばで、出てきた物の土を取り除いているネルを呼んだ。


 実はネルはすごく絵が上手いのだ。


 暇なときは、『いつも描いてるんだ』って言って、描いた絵を見せてくれた時は、すごく驚いた。


 それは写真より精緻(せいち)だったんだ。


 それでネルにはこの役目をお願いした。適材適所。


俺は、お手製の板で、作った画板と紙を、ネルに手渡した。


 にこにこしながら画板を受け取って、大空に舞い上がるネルを見てると、昨夜、聞いていた不安感はなくなったのかもしれないな、と思った。


「ステラ、待たせたな!これから、アエラたちと一緒に図面の作り方を教えるから、ちょっと付き合ってくれ」

「お、おう。いいぞ!」


 ん?何、勘違いしてるんだ。ステラは……。頬染めてさ。

付き合うの意味が違うだろうに……。


 そう思いつつ、俺は、ジェシカが、準備してくれた測量器材をセットし、ステラはじめ、ルル、アエラ、ターリエン、リディアの計5人を集めて、測量のしかたを教えはじめた。


 ん?マリオンとターニャが暇そうにしてるなあ。

彼女たちにも、ちょっと仕事してもらおう……。


「おおい!マリオンとターニャ!ちょっと申し訳ないけれど、ジェシカが、これから出てきた物を入れる箱をいくつか持ってくるから、手伝ってあげてくれ!」

「いいですよ。ユキテル隊長、ちょっと神殿に行ってきます」

「おう。気をつけてな」


***


 無事、測量や遺跡全体のスケッチも終わり、俺たちは神殿への帰路についた。

もうすっかり夕方になってしまっていた。昼間の暑さが嘘のようだ。


 出てきた物については、ターニャやターリエンが、それぞれ使役するネズミや野ウサギ、モグラたちに、箱ごと運んでもらった。

 金属製品ばかりだから重いもんな。



「みんな、お疲れ様。疲れただろう?」


「あたい、もう腹減って死にそうだ。お前、いつもこんな仕事してたのか……」

「ユキテルさん、私も疲れました……お夕食作りたくないです……」


 ステラは口数が少なくなり、ただでさえ、足元が危ないルルも、フラフラだ。


「……隊長、お腹と背中がくっつきそうです……」

「拙者は肉が食いたい……」 

「私は果物が食べたいですわ」

「とにかくお腹が……」


 ドラゴンの血をひいてるリディアは肉を……。ターニャは果物を所望か……。

ひたすら食べたいって、言ってるのが、一番華奢なマリオンとターリエンだ。

 

 ん?アエラはお腹空いてないのか?

ちょっと俺は聞いてみた。


「アエラ、お腹空いてないのか?」

「ああ、私は元々、小食なのです。肉が少しあればいいです」


 すでにキルドから雇ったメンバーたちは、アエラを除き、食べることしか考えていない。

 

「僕は大丈夫だよ!きれいに描けたし。えへへ。」


 一方、1人、にこにこと元気だったのは、遺跡のスケッチを、俺に褒められたネルだけだ。

 

 かくいう俺も、(かしま)しい子たちに、いちから測量のしかたやら、出土品の取り上げ方とか、いろいろ教えながらだったので、さすがにヘロヘロだ。


「お風呂から上がったら、アルスにでも行って、皆さんで打ち上げしませんか?」

「お!いいね、ルル!飲もうぜ!」

「お腹いっぱい食べたいですぅ」

「に、に、にく、ニク、肉ぅ」

「く、果物を……」


 宴会と聞いて、急に元気が出るステラをはじめとして、もはや食欲魔王と化したマリオンたちは、すっかり打ち上げをする気になってる。


 そういうわけで、後片付けをする暇もなく、帝都アルスへ行くこととなった。


 正直、俺は出てきた機械の部品のような物が、気になって仕方ないんだが……。

ターニャたちと、うちのメンツの信頼関係を築くのも大切だしな……。

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