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とても幸せに暮らしています~私とモフモフと過保護の日常~  作者: シーグリーン
いつかどこかのお話編

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22/22

漁師にグーで殴られそうなファッション感2

 




「はる」






「……はい」



 チカチカさんに起こしてもらいのそのそと起き上がる。


 よたよたしながらテラスで顔を洗おうとすると、昨日作り上げたマイ釣竿のそばに見慣れぬ――いや、逆に見慣れたと言ってもいい物たちがそっと置いてあった。



「これ……」



 手作り感満載の釣竿には糸を巻くリールが取り付けられている。

 そしてライフジャケット。めっちゃポケットついてる……。

 さらには指先部分がカットされた手袋に水をばんばんはじきそうなごつい靴にキャップ。


 完全に釣り番組のおじさん達が身に着けてたやつ。

 これは確実に保護者の仕業。



「えっと……チカチカさんこれ……?」



 なぜこんなにも本格的な装備なのか。

 釣り堀で休日な感じのポップな釣りのつもりだったんだけど……。



「寝癖」


「……ありがとうございます」



 オーパーツ的な釣り道具一式についてのコメントは得られそうになかったので、ひとまず感謝の気持ちは伝えておいた。

 ……準備しよ。









「おお~かっこいいですね~」

「似合っている」

「たくさん釣れそうです……!」



 本格的すぎて少し恥ずかしさも感じつつ元店舗小屋から外に出ると、迎えに来てくれた3人がさっそく褒めてくれた。

 でもサンリエルさんの似合っているはどうなのそれ。



「……優勝を目指します」



 この装備に見合った釣果を残さないと黒歴史に新たなページが刻まれてしまう。



「力を貸す」


「いやあの勝負なので……」



 きりりとしてるな……。



 サンリエルさん達には昨日リレマシフさんと一緒に釣り大会のお誘いに行ったのだが、リレマシフさんと現れた私を見てサンリエルさんがずっとリレマシフさんを凝視していた。

 今日は機嫌も直ったようでなにより。


 アルバート家やヴァーちゃん達も誘ってもらったが、全員集合となると周りに何事かと思われるといけないので宴会の準備班と釣り班に分かれるそうだ。

 また今度個別に誘おう。



「おはよう」

「おう!」


「おはようございます」



 サンリエルさんが用意してくれた大きな船にはすでに大会参加者が集まっていた。


 いつものお偉いさん達にヴァーちゃん夫婦とおじいちゃん数人。

 残りのおじいちゃんとアレクシスさん達は準備班みたいだ。

 ジーノ君が守役様をはっきりと認識できる年齢になってきたし、そろそろ集まりに連れて行くのは――なんて話をしてたしね。


 というかこのメンバーだと私1人の勝負みたいになりそうで怖い。接待プレイが怖い。



 が、それよりもなによりも皆さんのラフな格好なんなの?

 誰1人として私みたいな重装備な人いないんですけど。

 ねえなんで? ちょっとコンビニ行ってくる感じじゃん。



「気合入ってんな!」



 でも「わはは」とガルさんに背中をばんばんされているから重装備で良かったのかもしれない。



「この服どうなってんだ?」

「竿の持ち手のものは糸を巻き取るものか?」



 ダニエルおじいちゃんとサムさんは装備に食い付いてくれている中、私はヴァーちゃんに腰のあたりに紐を結び付けられている。

 良い笑顔で「ごめんね、海に落ちないよう私に繋いでおくわ」と言われた。

 へい。



 島のみんなが透明状態のまま船に乗り込んだとボスから教えてもらったのでいざ出発。

 リレマシフさんが極太の(もり)を船に持ち込んでいるのは見なかった事にした。





「はい、では釣り勝負開始します」


「お~!」

「釣るぞ!」



 少し沖に出て海が深くなっている場所で停泊、ゆるい挨拶を終えてさっそく糸を海に垂らす。

 餌は生きている虫だったが意外と触れた。わたしすごい。



「お?」



 なにやら手に振動が。 

 早くない? さっきぽちゃんと落としたばかりなのに。



「引いてるわよ!」



 やっぱりもう魚がかかったみたいだ。



「うわうわうわうわ」



 まだ心の準備が出来ていなかったが、とりあえずリールのハンドルをぐるぐる回す。

 手にぶるぶるくるこの感じ興奮するな。



「うぃぃぃ……あ! 見えた!」



 力を込めてハンドルを回していると魚影が見えてきた。

 結構大きいぞ!



「任せて!」


「え?」



 まさかのリレマシフさんがドボンと海に飛び込んだ。

 ……あれ? 網みたいなのですくうんじゃないの?


 しかも無言でサンリエルさんも飛び込んだ。

 まじで何をやってんだ!? シャツ脱いでたけど!

 しかもなんかリレマシフさんと海中で揉めてないあれ?

 そんな難易度の高い揉め方やめて欲しい。



 しょうがないから海中を見つめていると、リレマシフさんは左手、サンリエルさんは右手というかたちで魚を鷲掴みにしてざばっと船に乗り込んできた。



「領主様、後から飛び込んで横取りですか!?」


「んん~?」



 リレマシフさんがサンリエルさんに文句を言っているがそれどころじゃない。

 この下顎がぐるぐるのノコギリのような魚は見た事がある。

 確かファンタジー生活序盤にごちそうになったはず。



「キュッ!」


「うわっ……!」



 いきなりロイヤルもしゅばっと海中から飛び出してきた。

 びっくりした。



「……もしかして守役様アレに関係してます?」


「キュッ!」


「はあ……景気づけですか……」



 ……初っ端から接待プレイだった。

 わざわざ私の釣り針に連れてきたノコギリ魚を引っ掛けるという高等な接待プレイ。



「なんですかこの……魚?」



 リレマシフさんとサンリエルさんに構わずにカセルさんはノコギリ魚をまじまじと見ている。



「ダニエル族長、このような魚を見た事がありますか?」


「わしはないな」


「わしも」


「俺もない!」



 やばい、ノコギリ魚かなりレアキャラっぽい。



「も、守役様のお力で釣れたようですう」



 近くでロイヤルの体ブルブル海水飛ばしの洗礼を嬉しそうに受けていたヴァーちゃんに報告する。



「さすが守役様だわ!」



 ヴァーちゃんの言葉を聞いたリレマシフさんがうっとりとロイヤルを見つめるのに夢中になった隙に、サンリエルさんがすっとノコギリ魚を持って来た。

 堂々と手柄横取りしてるな~。

 あとさすが無駄のない体してる。……帰ったら筋トレしよ。



「ありがとうございます。えーと、皆さんで食べます?」


「これ食えんのか?」


「食べられるそうです」



 ガルさんの質問に食べた事がない風を装いながら答える。

 ヒラメのお刺身に近かったから美味しいよ。



 誰にさばいてもらおうかなと辺りを見回していると、アルバートさんが1人何かと戦っていた。



「アルバートさん、もしかして釣れてます?」


「は、はい……!」


「手伝おうか~?」



 すごいなカセルさん、全然手伝う気無さそう。



「もう少し自分の力でやってみる……!」



 アルバートさん真面目。



「もう少し腰を落とせ」


「はい!」



 おじいちゃんたち熟練の漁師みたい。



 そのままみんなやいやいとアルバートさんの応援にまわる。

 ロイヤルはそこ邪魔。



 そしてついに――



「ひっ!?」







 ……魚をくわえたキイロが釣れた。

 というか豪快に海から飛び出してきた。



「え!? あの!? え!?」



 アルバートさんパニック。気持ちはわかる。

 ほんともう帰ったらキイロはモフぼさの刑だわ。



 私のじっとりした視線に構わずキイロはすたすたアルバートさんの足元まで歩いて行き、ぺっと魚を吐き出した。

 ガラ悪鳥。



「え? あ、あの! ありがとうございます!」



 わざわざお礼言ってるよあの子……。良い子……。

 美味しいご飯でもごちそうしよう。



「いいな~! 守役様が魚を獲って下さったぞ!」



 カセルさんをはじめとしたメンバーは羨ましそうにアルバートさんを見ている。



「えーそれじゃあ守役様と海の恵みに感謝してさっそく頂きますか?」



 いつもならすぐに姿を現しているダクスと白フワの姿が見えない事に不安をあおられるが、魚が傷まない内に食べたい。



「これは塩焼きにしてアルバートさんが食べます?」


「い、いえ」



 キイロの吐き出した魚を指さして尋ねると、案の定アルバートさんは恐縮してみんなで食べましょうと提案してきた。

 だと思った。



「なら持って来た野菜と一緒に煮込みますか?」



 漁師鍋みたいにして食べたい。



「私達が良く食べている作り方でいいかしら?」



 リレマシフさんが作ってくれるみたいだ。やった。



「こっちのはどうする?」


「こっちのはひと口で食べられる大きさにしてそのまま調味料をつけて食べたいです」


「火は通さなくて平気か?」



 サムさんの質問に持って来た醤油もどきを持ち上げて答えると少し不安そうにされたが、「守役様が大丈夫だと仰っています」と伝えたらすぐ安心した顔をされた。

 さすがクダヤの一族。



 ノコギリ魚はサムさんがさばいてくれるようなのでお任せする。

 お刺身が食べられるまでにあと何匹か鍋用の魚を釣っておこう。


 みんなもさっそく釣りを再開していて、おじいちゃん達はもう魚を釣り上げている。

 ここは良いポイントなのかもしれない。

 よし釣るぞ。





「いただきまーす」



 料理が出来上がり釣りはいったん休憩。

 釣りが楽しくて釣った数を数えていないのでもはや大会でも何でもなくなっている。

 楽しければそれでいい。



 お刺身はみんなむしゃむしゃ食べている。

 そんなむしゃむしゃするものでもないけど守役様が獲ってくれた魚だもんね。そりゃあむしゃつくよね。

 お刺身は少し持って帰って鯛茶漬けみたいにして夜ご飯にする予定。

 チカチカさんと島のみんなと一緒に食べたい。



「リレマシフさん、この味おいしい」


「良かったわ」



 リレマシフさんが作ってくれた漁師鍋も色んな味が染み出ていて美味しい。幸せ。



「キャン!」



 ほくほく楽しく食事をしていると、海中にラッコ状態のダクスがいた。白フワもお腹に乗っている。

 先にご飯を食べてたから怒ってるみたい。

 勝手に姿を消してたのはダクスなのに……。



「守役様ーさっき呼びましたよー」



 まったく、と思いながら魚をすくう網でダクスをすくう。

 今日初めて網使ったわ。



「お帰りなさい」


「キャン!」


「はいすみません。あれこれ?」



 白フワが手のひらにぐいぐい体を押し付けてくるのでなんだろうと思っていたら、手のひらにごろんと色とりどりの宝石がくっついた石が転がり込んできた。

 そんな収納できたの?



「キャン」


「守役様が見つけたんですか? 綺麗。すごいですね~」



 神の島の周りにごろごろあるやつがこの辺でも見つかるらしい。

 せっかくのプレゼントなのでいそいそとライフジャケットのポケットにしまう。

 ありがとね。



 鍋を食べようと席に戻ると、ヴァーちゃんが申し訳なさそうにさっきの宝石を見せて欲しいとお願いしてきた。

 ちらりとダクスを見ると、わざわざカセ&アルのお皿のお刺身をがっついていたので「皆さんにお見せしますね~」とひと声かけてから宝石をポケットから取り出した。

 ダクスも後でモフぼさの刑な。



「すごいわね……」

「こんなにたくさんの種類の宝石が……」

「石だけを取り除くのは難しいな」



 みんなが宝石を見ている間にカセ&アルのお皿を新しく用意し、ダクス用にもお皿を用意した。

 カセルさんがどこか残念そうな顔をしていたけど新しいお皿使ってね。





 食事終わりのまったりした時間を楽しんでいると、チカチカさんから突然「はる、準備して」と言われた。


 なんの事かわからずきょろきょろしていると、サンリエルさんがリレマシフさんに「銛を用意しろ」と指示を出し始めた。



「お? お?」



 急に雰囲気が変わった一族達の様子に、私とアルバートさんはおろおろするしかない。



「ヤマチカちゃん、私のそばにいてね」


「は、はい」



 ヴァーちゃんに言われたので、アルバートさんの腕を引っ張って一緒にヴァーちゃんの近くに避難する。



「はる、昨日のマグロもどきが群れでやってくる」



 わお。

 それで一族がこんな雰囲気なのか。



「1本釣りの準備して」



 保護者の無茶ぶりきた!



「むりむりむりむり」



 つい言葉を発してしまってヴァーちゃんに不思議そうな顔をされたがへらへら笑って誤魔化しておいた。

 アルバートさんはチカチカさんと会話しているのがわかっているのか、心配そうな顔をしてこちらを見ている。



「水の族長、一族を連れて来い。シュトートゥルルーガーの群れがこちらに向かっている」


「まさか!」

「あの幻の魚か!?」



 なんかマグロすごい名前で呼ばれてる!

 シュトートゥルルーガーて!



 リレマシフさんは海に飛び込んであっという間に街に泳いで行ってしまい、ガルさんとサムさんは極太の銛を手に船の縁に足を掛けている。

 ひええ。狩人の目だ!



「はる、1本釣りすれば優勝間違いなし」



 ……どんだけ娘に優勝させたいんですか。

 そもそも幻のシュトーなんとやらがこちらに来たのも怪しい。

 過保護の親が関係しているのをひしひしと感じる。



「ヴァレンティーナおばあちゃん、幻の魚って?」


「滅多に姿を現さない上に速くて大きい魚よ。あれを1人で仕留める事が出来れば水の一族内では英雄扱いね」


「はあ~」



 そんなのが大量にこっちに向かって来てるんだ。



「美味しいですか?」


「数回しか口にした事はないけどとても美味しかったわ」


「たくさん持って帰ったらみんな喜びます?」


「そうね、みんな大喜びね」


「良いアングルでかっこいい写真撮ってあげる」



 そうか。



「私も幻の魚を釣ります!」



 御使いも役に立つとこ見せるぞ。

 チカチカさんにかっこいい写真を撮ってもらえるからとかじゃない。



「ぴちゅ!」

「キャン!」

「キュッ!」



 いやあの君達は大人しくしといていいよ。



「ヴァレンティーナおばあちゃん、アルバートさん。海に引きずられそうになったら引っ張ってもらえると助かります」


「わかったわ」

「はい!」



 私の真剣な顔を見たヴァーちゃんは、止める事はせずにサポートを約束してくれた。

 アルバートさんもやる気だ。





「そりゃ!」



 目視で確認できる距離まで近付いてきたマグロの群れに向けて釣り針を飛ばす。



「うわっ! もうかかった! え!?」



 瞬時に手ごたえがあったので竿をぐっと引くと、海中からマグロが自ら船の中に飛び込んできた。



「え? 釣れた? え?」



 みんな唖然としている。

 そしてマグロは超びちびちしている。



「えーと……へへ……釣れました~」



 おそらくこれは保護者たちの力が働いたんだろう。

 甘やかされっぷりが半端ない……。



「さすがヤマチカ! 俺らも負けてられないな!」



 ガルさんが少年漫画みたいなセリフを言い放った事により、みんなはっとなりサバイバルモードに突入した。

 腕まくりしてる……!

 さっきの私の力じゃないんです……!





 その後は到着した水の一族の船団と、後から来る予定だったお偉いさん達が合流し、マグロ漁が始まった。

 いやもうすごいね。

 ティランさんとか虫も殺さぬ顔してってやつだよね。爽やかに仕留めてた。


 水の一族のおじいちゃんおばあちゃんも集まって来て、海中でマグロに勝負を挑んでたからひやひやしたわ。

 せめて船の上から挑んで。お願い。



 私は遅れてやってきたアルバート家の女性陣に叱咤激励されながらマグロ釣りに挑んでいるアルバートさんを応援したりした。

 ほら、私がやるとひょいひょい釣れちゃうから。幻の魚が。

 みんなが仕留めたマグロの近くでポーズを決めといたから釣れた感じは出してると思う。





 幻の魚を大量に捕獲して戻った私達は、港に集まった人達に大歓声で迎えられた。

 特になんもしてないけど英雄プレイを堪能させてもらった。ありがとうありがとう。


 マグロは海の恵みとして住民だけでなく観光客にも振る舞われ、夜遅くまで楽しい時間を過ごした。



 そして、毎年この日にシュトートゥルルーガー祭という名の祝祭が開催される事になった。










 ********************





 咲の月 7日




 困った。



 今日も祖母が孫が釣った幻の魚シュトートゥルルーガーだと、魚拓を見せてご近所さん達に自慢していた。

 もうやめてくれ。


 居間には大きなシュトートゥルルーガーの魚拓が飾られている。


 祖母だけではない。家族全員が褒めてくれる。

 ライハでさえ俺を褒める。

 あのイシュリエ婆さんと水の族長もだ。



 だが、実際のところ幻の魚を釣り上げたのは俺ではない。


 守役様だ。

 俺はただ海に引き込まれないようにするだけで精一杯だった。


 もう無理だと思ったところで竿が一気に引き上げられたのだ。

 一瞬手に触れた感触であの手先の器用な守役様だとわかった。


 それからは呆気にとられる内に家族が興奮して大騒ぎして今に至る。



 何度俺ではないと主張しようかと思ったが、街の人間が姿を知らない守役様の力添えがあったなんておいそれと言えるわけもなく、ぐずぐずしている間に取り返しのつかない状況になってしまった。

 今思えば「守役様のお力」とだけ言えばよかったんだ……!



 ヤマ様とカセルと領主様だけが真相を知っているが、カセルはにやにやするだけだ。

 ヤマ様には「守役が手伝いたいと思わせる人徳ですね~」と慈愛に満ちた笑顔で仰って頂けたが……。

 領主様はヤマ様に笑顔を向けられている俺を睨まないで欲しかった。



 俺はこの秘密を一生抱えて生きていくのだろうか……。

 しかも水の一族のご老人達が若者を引き連れ、シュトートゥルルーガー釣りの英雄に話を聞くというとんでもない目的で家を訪れるようになってしまった……。



 胃が痛い。






終わり

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