漁師にグーで殴られそうなファッション感1
今日も良いお天気だったので、小舟に乗って街側じゃない方の海に繰り出してみる事にした。
池でボートに乗るようなもん。
ぐいぐい漕ぐぞ。
白鳥ボートにも乗ってみたいから今度ヴァーちゃん達に頼んでみようかな。
あの人達なら結構何でも作れそうだし。
「よし、しゅっぱーつ! ――ねえ、ダクスは船首に前脚かけてるの危なくない? こっちで座っとけば?」
勇ましさはすごく伝わって来るけどドボンといきそうで見ていて怖い。
「キャン!」
「うん、かっこいいかっこいい。でもそこじゃなくてもこっちでもかっこよさ出せると思うけど」
「フォーン」
「コフッ」
「じゃあ落ちそうになったらお願いね」
マッチャとナナが目を光らせてくれてるんだったら安心だ。
白フワも頭に乗ってるし大丈夫だろう。
よし漕ぐぞ。
「あの……疲れた。腕痛い。ボス、あの、舟を動かして欲しいなあなんて……」
自分で舟を漕いでみたものの、100メートルもいかないうちから腕が痛みを訴え始めた。
あんなに張り切ってたのに……。
でもまあもう十分漕ぐのは堪能したしもういいかなとボスにお願いをする。
人型で同乗しているチカチカさんには真顔で見つめられてるけど気にしない。
「フォーン」
「マッチャが漕ぐの? じゃあお願いします」
しっかり掴まってと言われたので、ダクスと白フワを抱え込みエンとナナに両側から挟んでもらう。
もふ。ふか。
「ねえチカチカさんもこっちで――」
「遠慮しとく」
「まだ何も言ってません~」
最後まで言い終わらないうちにすぱっと断られたので、下唇を突き出してブサイクな顔を見せつけていたらチカチカさんの腕がひゅっと伸びて下唇を引っ張られた。
まじホラー。すんませんした。
「ぴ」
「え? キイロは泳ぐの?」
キイロはわざわざ飛び立ち、上空から弾丸のように勢いをつけて海に飛び込んだ。
そしてロイヤルと一緒に縦横無尽に泳ぎ回っている。
鳥なのにすごいし呼吸どうなってんだ。
でも2人はタツフグの落ち着きを少し見習うといいと思う。
「クー」
「あ、ごめん。出発ね。お願いします」
改めてエンとナナの間にぐいぐい入り込み出発に備える。
「わあ~はや~い――――え、ちょっとはや。ねえちょっとスピード……はやっ!」
マッチャがぐいぐい漕ぐもんだから小舟にあるまじきスピードが出てる。
景色を楽しむどころじゃないし風が冷たくて痛いんですけど。
しかしだんだん面白くなってきた。
これはジェットコースターだ。水流タイプの。
「わーはははは!!」
楽しすぎる。
ひとしきり楽しんでいると、海鳥らしきものがたくさん飛び交っている光景が目に入った。
「マッチャー! ストップー!」
大声で叫ぶと舟はぴたりと動きをとめた。
この衝撃のこないとまり方はチカチカさんかボスの力に違いない。
「ありがと~」
まずマッチャに抱きつきお礼を言い、体を支えてくれたメンバー、そしてボスとチカチカさんにも抱きついてお礼を言う。
「ぴちゅ」
「キュッ」
「あ、はい」
自由に泳ぎ回っていただけのびしょ濡れの2人にもアピールされたので、タツフグを含め鼻チューで勘弁してもらった。
鼻チューというかくちばしがぐさりと鼻に刺さっただけというかちょっと痛いというか。
「ねえねえチカチカさん、あそこ鳥がいっぱいいます。魚の群れがいるんですかね?」
「あの種は今年大量発生してる」
「へえ~」
わくわくしながらその光景を眺めていると、海中からばしゃんと魚が飛び跳ねた。
「うわっ! おっきい魚いた!」
さらにばしゃん。
「うわ~すごいすごい!」
飛び跳ねた魚は鳥よりも何倍も大きかった。
遠いから良くわからないけどマグロくらいありそう。
良い物見れたなあと喜んでいると、海中から次々とマグロもどきが飛び跳ねだした。
「え、なんかすごいいるんですけど」
「大量発生だから」
「え、え、え? 大量発生ってマグロの方? てっきり小魚かと思ってたんですけど。あの鳥さん達あんな大きな魚食べるんですか?」
「鳥はあれが捕食してる小魚目当て」
「はあ~そうなんですね~」
鳥がばくっといかれそうサイズなんだけどな……。怖くないんだろうか。
タイミング悪いと小魚と一緒にばくりだよ。
「キュッ」
「あ、大丈夫。獲ってこなくて大丈夫。ありがとね」
あのサイズのマグロをもらっても手に余る。
「――そうだ」
思いついた。
「ねえみんな、自分達で釣竿作って釣りしようよ」
急に自分で釣った魚を食べたくなってきた。
島のみんなももちろん賛成してくれる。
「よしじゃあ島に戻って釣竿作ろ! で、明日釣り大会にしよう。釣りって早朝だよね? あとは順位決めて商品も用意して――そうだ、人が多い方が楽しいからカセ&アルも呼ぶ? 魚もさばいてもらお。そうなるとサンリエルさんも参加だよね」
アイデアがどんどん湧いてくる。
才能。
「それだとクダヤの近く、港だと街の人の目もあるから海上での釣りになるよね。となると報告が必要か」
神の島がある事と防衛上の観点から、勝手に海に出られなかったはず。
その辺は水の一族の族長であるリレマシフさんに話を通しておけば大丈夫だろう。
帰りももちろんマッチャジェットコースターで島の家に到着。
帰りはぎゅんと曲がったりしてよりジェットコースターに近くなった。
華麗なる舵さばきというかオールさばき。マッチャ才能ありすぎ。
「細めの枝細めの枝……」
そしてさっそく竿にできそうな木の枝を物色する。
木の棒に糸と針をつけたらそれはもう立派な釣竿なはず。
「あ、あそこのにしよう。チカチカさん、木の枝もらっちゃいますね~」
いちおう保護者に断りを入れ、ボスにくわえてもらい虹色斧でがつがつ良さげな枝を切る。
釣り糸はどうしようかと考えていたところで、ボスから「使って」と尻尾のサラツヤもふもふを目の前でふぁさふぁさされた。
「何本ももらっちゃうけど……伸びた!! ボス伸びたよ!?」
毛を1本持ち上げているとその毛がすすすすと伸びた。
なにこれ。
「伸ばしたのか~すごいね……」
とんでもスペックなだけあって毛を伸ばすのもお手の物なボス。
糸を巻くリールなんてものは無いから適当な長さで切り、予備も含めて数本もらっておいた。
ありがとう。
「ぴちゅ」
「クー」
「フォーン」
「コフッ」
「キャン」
「キュッ」
「うーん、気持ちはありがたいけど使いどころがさあ……。羽は浮きとかに使えそう?」
みんなからも素材提供の申し出があったが、釣竿なんてもちろん作った事もないし趣味にしていたわけでもないのでアイデアは浮かんでこない。
ひとまず提供された素材は装飾で活用する事にした。
木の枝の先端部分に作ってもらった虹色錐でごりごり穴をあけ、そこにボス糸を通して適当に結びつけてみた。これに針をつけたら釣竿の完成だ。
釣竿と言い張る。
すぐ壊れそうだが、素材は神の島産の木の枝にボス糸というレア度かなり高めのアイテムなのでそこは素材の持っている力に期待したい。頼む。
「針はどうしよっか? 骨とか定番なのかな?」
「コフッ」
「そうだね、それは自分達だけで釣りをする時に使いたいな。ありがとう好き」
ナナから虹色鉱石釣り針の提案を受けたが、おそらくいつもの3人以外にも明日の釣り大会は参加したがる人がいそうだから虹色鉱石の釣り針は使えない。
海にぽんぽん投げ込んでたら衝撃で気絶者が出そう。
結局、リレマシフさんに釣りの許可を得るついでに足りないものを買い足す事にした。
ヤマチカ屋近くの元店舗小屋から港に。
リレマシフさんは港の水の一族の待機場所にいるらしく、途中で手土産(賄賂)を買ってそこに向かう。
到着した場所は薄着の男女が集まっており、海外のビーチリゾートかと思った。
「あれ?」
うろうろしていたら水の一族にしては胸がさらりとした――とは言っても私よりでかい――可愛い人が声を掛けてくれた。
アクセサリーじゃらじゃら。腕輪も可愛い。
「ヤマチカ屋のヤマチカちゃんでしょ?」
「そうです。すみません、お邪魔しちゃって。明日舟で海釣りに行きたくて族長さんに報告しようかと」
そう告げると、その彼女は心得たようにリレマシフさんを呼びに行ってくれた。
後姿目の保養になるな~。足長いし引き締まってるし。
……帰ったら筋トレしよ。
「明日釣りをするの?」
少し離れた所でリレマシフさんを待っていたらびしょ濡れのリレマシフさんがひゅんっとやってきた。
サンリエルさんみたい。
「海に入ってたんですね。すみません、お仕事の邪魔しちゃって」
「構わないわ」
濡れた髪をざっと豪快にひとまとめにしているリレマシフさんは色っぽかっこいい。
「海に出るには報告が必要なんですよね? なので報告にきました。あとこれどうぞ」
「まあありがとう。1人なの?」
「お休みならカセルさんとアルバートさんにも声をかけようかと。たくさん釣れて食べきれないといけないですし、魚もさばいてもらおうと勝手に考えてます。早朝から昼くらいまで釣りをしたいです。勝負にして順位ごとに商品なんかも用意すれば楽しいかなって」
へへヘとへらへらしながら説明すると、予想通りリレマシフさんが釣れた。
「護衛もいるでしょうから私も参加していいかしら? あの2人だけだと頼りないわ」
「リレマシフさんもいればさらに安心ですね」
海に出る許可をもらったので釣り針の相談もしてみたところ、水の一族の人がわらわらと集まってきておすすめの竿やら使う餌なんかを教えてくれた。
水の一族の人達は釣竿ではなく網や銛での豪快な漁がメインの為、私の身長程の長さの銛もおすすめされたが丁重にお断りしておいた。
何と戦わせるつもりなのか。




