開拓村
「ソーマさんならここを安全地域にできるでしょう? そうして、入村税を取り立てればいいじゃないですか。そうすれば、塩湖の調査も楽にできるでしょう」
ここにしよう、というソーマと文官、フェルディナントとの会話後にローズがいう。おそらくはソーマがリント村やヨツン村、ミッタ村、マリカ村でして来たことをここでも行えばよいと思ったのだろう。
「無理ですよ。たしかに、安全は確保できるけど、入村税なんて取れないよ。いつも、ここにいるわけじゃないし、管理する人や村を守る兵も雇わなければならないから」
ローズの言葉に驚きながらもソーマはそう言葉を返す。
「ああ、それはいいかもしれない。ソーマなら簡単に出来るでしょうし、人なら今、ノイエベルグにあふれている」
ローズにつられてヒルダがいう。
「ヒルダさんまで、第一、勝手に領主宣言することになるし、後が面倒ですよ」
二人の意見に呆れながらいう。
「でも、ノイエベルグを拠点にするよりもここのほうが良いではないでしょうか」
「ヒルダさんはよほどローエンハイム騎士爵領に滞在するのがいやなんですか」
「まあ・・・ いろいろ訳ありです」
「とはいえ、宿泊施設もないのですよ。今すぐは無理でしょう。村として機能するには数年かかりますよ」
「そんなことができるのかい? ソーマ殿」
ソーマたちがそんな話をしているところに、割り込んできたのはフェルディナントであった。
「えっ、いや、まあ可能だと思いますよ。ただし、家までは無理ですけど」
「私としても、そうしてもらえるなら助かるんだが・・・ 人がいるなら雇ってくれれば代理ぐらいはできると思うよ」
「ええっ、フェルディナントさんはこの後、フォイエルバッハ侯爵領に戻るのではなかったのですか?」
「いや、私も移住者の一人だよ」
「なら、俺も雇ってもらいたいね。移住した後のことを考える必要がないしな」
そこに割り込んできたのはフーゴであった。
「そんなことをいわれても、給料なんてあてがないですよ。ただ働きになってしまいます」
「まあ、一年くらいは食費と住居を用意してくれるだけでいいですよ。二年もすればそれなりに税収もあるだろうし、村も整備できるだろう」
とフェルディナント。
結局、誰もが不安なのだろう、そう判断したソーマは領主云々、税云々は別としても、安全を確保するのは悪くないと思うことにした。自分たちも拠点にするなら、ある程度の安全性は確保したいからである。魔境で夜営するのは簡単なことではないのである。その不安を和らげられるなら、いいだろうと思う。それに、ローズのいうことももっともである。資金もサザンクロス商会から融通してもらうことで、多少なりとも、人を雇える。即効性のある資金源として、塩湖の塩もあるし、マリカ村の調味料もある。
そうして、ソーマは動いた。内側の東西南北の丘陵の麓の土を積み上げ、五mほどの高さにした。外側は一mほど掘り下げることで、空堀としての役目を持たせた。五日かけた作業の結果、東西三千m、南北三千m、周囲十km弱の地域を確保する。むろん、四つの門はがら空きのため、木柵で塞ぎ、新たな魔物の侵入を出来るだけ阻止する。これで、内部の魔物を討伐、門扉を設置すれば、それなりの規模の村になると思われた。人が増えれば、街として機能させることも可能であろう。ただし、それには時間がかかるだろうと思われた。
ソーマの考えとしては、将来的に外側の丘陵の東西南北の狭部に門を設置刷ることで、安全な耕作地の確保ができ、自給自足が可能だと考えていた。少なくとも、北の塩湖からの塩の輸送には必要な場所だと思うのである。それに、市政しだいでは、魔境の中の中心都市として機能させることも可能であろうと思われた。とはいえ、それは最初の一年である程度の結果を残す必要があった。それに重要なのは仕事がある、それに尽きるとも考えていた。
東門を出て南東に徒歩三時間、そこには岩山があり、当面の街の外壁や家を建てるための石材を確保することが可能であった。とはいえ、当分は木造や煉瓦作りの家が中心となるだろう。その煉瓦はソーマの土メイジとしての能力とローズの火魔法である程度は用意できると考えられた。いずれにしろ、これで移住者の環境は格段に向上するだろうと考えられた。
「で、入村税は一マリクでいいのですか? 私としては十マリクが適当だと思いますが」
「何もありませんからね。井戸も家も作らなければなりません。少しの安全だけですから、そんなに取れるものではないでしょう。一マリクから始めて折を見て増税ということでいいでしょう」
そう、フェルディナントに答える。そして、続ける。
「村作りは整然としたものがいいですね。無計画なものは駄目でしょう。先のことはわかりませんが、大きくなることを考えておいたほうがいいでしょう」
「東西南北の大通りは必ず建造すること、特に南北の大通りの幅は五m以上とる必要があります」
「五m以上? 何故です?」
「まだ調査の段階ですが、ここから馬車で一日のところにある鉱物があります。もし、それを運ぶとなれば、南北の大通りは荷馬車の通行が多くなります」
あえて塩の存在はぼかして話すソーマ。
「なるほど、わかりました」
「次に開拓村を四つ、北西部、北東部、南西部、南東部に分け、南西部は耕作地、北西部は工業区、北東部は居住区、南東部は行政区、大通りの両脇は商業区にします」
「なるほど、住み分けになるのですね」
「ええ、耕作地以外の街壁際には共同汚物槽を建造して開拓村の汚物はすべてそこに流れるようにします」
「ああ、下水道ですか? ですが処理が大変ですよ?」
「フェルディナントさんはご存知ありませんか? スカトワームを」
「スカトワーム?」
「ええ、魔境に近い外縁の領地では汚物処理をするワームが使われています」
スカトワームというのは全長五十cm、直径二十cmほどの芋虫に似たワームで、汚物や腐敗物を取り込み、土にして排泄する虫であり、辺境の街や村ではよく利用されている。森に生息し、魔物の死体などを食べている、森の掃除人とも言われる生き物である。生きている動物や魔物を襲うことはないという。これをトイレに飼うことで、汚物の処理が行われるのである。難点は、排泄する土をかきだす必要があるということだろう。しかし、その土は栄養に富んでおり、耕作地の土に混ぜることで、肥料となるので、辺境の村や街では重宝されているのである。ニュルンでは未成年冒険者への依頼がもっとも多いものであった。
ちなみに、下水道はどこの街でも整備されている。特に、内陸部の街ではほぼ十割の確率である。辺境ではあまり整備されてはいないが、新しい街では整備が進んでいる。ソーマの故郷では四つの街すべてに整備されており、点在する村でも、大きいところでは整備が進みつつあった。なので、ソーマは下水道を整備することにしたようである。
「そうなんですね、知りませんでした。なるほど、その土を採取する効率を高めるためですね、共同汚物槽は」
「そういうことです。土メイジに依頼すれば作業も捗るでしょう。まずはテント生活ですが、簡単な共同住宅を建てたら、家屋の建築です。これは大きさを決めて、四人家族用、八人家族用で建築を進めます。出来上がった物件から売却していきます。独身者には一人用の共同住宅を用意します」
「オーダーメイドではなく、建売りにするのですね?」
「ええ」
「共同住宅は売却ではなく、賃貸なのですね?」
「ええ、移住者優先で、もちろん、官吏の詰所も仮説です。領主館など後回しで」
「わかりました」
「とにかく、開拓村の魔物討伐、共同汚物槽の工事は冒険者ギルドに依頼する方向で行きましょう」
「そうですね、移住者の護衛もありますから」
「ええ、それに、大工や石工など職人も一時的に雇う必要があります。こちらは商人ギルドを通して集めましょう」
「わかりました。それと、この開拓村ですが、名前はどうします?」
「えっ」
「一応領主ですから、名前をつけてもらわないと」
「ああ、わかりました。考えておきます。フォイエルバッハ侯爵領からの移住者が入ってからでいいですか?」
「はい、お願いします」
そう、フェルディナントに説明し、今後について打ち合わせる。とはいえ、開発途上の状況により、変更があるのは当然なので、初期の計画がそのまま進捗することはないのが普通であった。あくまでも、大筋での話であり、臨機応変に計画を進める必要があったのである。
「あと、人が多いほうがいいので、フォイエルバッハ侯爵領以外からの移住者も受け入れてください。良い人材がいるかもしれませんし」
「そうですね。私の王立アカデミー時代の知り合いも何人かいましたし、話してみます」
「はい、それでも、フェルディナントさんが代官なので、事由に進めてください。私も依頼が終われば、できるだけここにいるようにしますので」
『ありがとうございます。ご期待にそえるようがんばります」




