南の村
ソーマがその村、ヨツン村に興味を示したのには理由があった。ニーニクという野菜があると聞いたからである。もし、三上走馬の記憶にあるニンニクと同じものであるなら、今後の食生活の更なる向上が期待できるからである。この野菜は王国内では西部で出回っているようで、それなりに知られている香辛料である。ただ、東部ではあまり知られておらず、流通もしていないようであった。
トーガシとニーニクがあれば、より美味いものが食べられることをソーマは知っていた。胡椒に相当するものがないのは残念であるが、少なくとも塩だけよりははるかに美味いものが作れると考えていた。それに、ある程度の保存が利くことから、サザンクロス商会の新しい商品としても十分可能だと判断したのである。ナイジェルによれば、その強い芳香から虫除けなどとして使われているが、東部では食されることはないという。これは狙い目かもしれい、ソーマはそう考えたのであろう。
さらに、ナイジェルによれば、その村、ヨツン村では魔境に接しているが、出島のようになっているという。十mほどの台地の上にあり、周囲十kmほどだという。北と西で平原に続くが、東と南は十mの高低差があるため、魔物は西と北からしか侵入しないという。今のリント村のように安全性が高いとはいえないが、そう頻繁に魔物が現れることもないというのだ。ニュルンからの距離は馬車で一日だという。
注文した武器が出来てから向かうこととして、それまでは今までと変わらず、討伐を受け続けることとした。そして、これも、リント村に向かう前と同じく、パーティの連携を重視した訓練として考えることとした。当然ながら、自らが数日後に通るということで、討伐にも気合が入ったといえた。結果として、討伐達成と素材売却による収入が増えることとなった。
それから三日、<セオドア武具工房>へ完成した武器を受け取りに行くことになった。店に入ると、例によって奥さんが店番をしており、来意を告げるとすぐに奥に向かって歩いていった。現れたセオドアは剣、刀、ショートソード、短槍、四本のナイフが入った木箱を持って現れた。
「待たせたな、総て完成しておる。見てみるがいい」
そういってそれぞれに武器を渡していく。ナイフだけは箱の中である。
「軽い!」
そういったのはセーラである。セーラの手には長さ四五cm、刀身三十八cm、幅三cm、厚さ五mmという、片刃の刀があった。反りはそれほど判らないが、それでも一cmはあるという。
「軽くて使いやすそうです」
そういったのはローズである。穂先は長さ三十cm、幅三cm、厚さ五mm、柄が七十cmという、突き刺すよりも斬ることに重点を置いたような短槍である。
「これは振り回しやすそうです」
そういったのはブライトンである。その手には全長八十cm、刀身六十cm、幅六cm、厚さ七mmという両刃の片手剣である。
「軽いです」
そういったヒルダの手にしているのは全長八十cm、刀身六十cm、幅三cm、厚さ五mm、反り二cmという刀であった。以前の鋼鉄製の刀はすでにカウンターにおいている。
「強度は前にも言ったが、鋼鉄より上だが、ダイアチタ鋼には劣る。切れ味は保障してやるが、自分で試せ。次にこいつだ」
そういってソーマの持つナイフにそっくりな全長二十五cm、刀身が十五cmのもので、革製の鞘に収められている。
「これは・・・ ソーマさんが持っているのと同じ形をしていますね」
そういったのはセーラである。
「ああ、小僧がいうには、この形がもっとも力を入れやすいというからな。慣れれば使いこなせるだろうさ」
「ありがとうございました。これからギルドの訓練場で試してみます」
「そうしろ、それからニm近く余っているスチールワームは貰っておくぞ」
「はい」
そういって店を出ると冒険者ギルドの訓練場に向かう。訓練場ではそれそれに確かめていたが、特に問題はなさそうであった。軽いようで、女性陣にとっては使い勝手がよさそうであった。
翌日は休息に当て、二日後にヨツン村へと向かう。今回ナイジェルは同行せず、ヨッヘンという、マンセロール商会から移籍してきた二十代半ばの男性が同行することとなった。ソーマは馬屋で幌付き荷馬車をレンタルし、馬車二台で、八の鐘が鳴ると出発した。
道中、魔物の襲撃はあったものの、難なく撃退する。この道中では剥ぎ取りを行わないとして、そのまま進むことにする。ただし、オークやジャンピングラビット、プレーリーラットのように食用肉として有益なものはソーマがセーラに預けている魔法鞄に入れて持っていくことにする。この鞄にはソーマ以外の予備の武器が収められている。休憩を挟みながら進むがやはり、襲撃は続く。昆虫系魔物がほとんどのため、ローズの単魔法で撃退してはそのまま進む。素材を回収しないのであれば、燃やし尽くしても問題はないからだ。
昼食は商会自慢のトーガシを使った乾燥肉と乾燥野菜、固めのパンというメニューであった。パン以外のものを鍋で煮て、スープの元で味を整えれば即席のシチューにもなる代物である。そのため、乾燥肉としては少し味は濃い目である。冬には重宝されるだろうが、今の季節は若干暑いかもしれない。これまでの黒パンと乾燥肉だけというメニューに比べれば、格段の向上と言えた。乾燥肉と乾燥野菜は冒険者にも行商人にも評判は良いという。
馬車二台ということもあり、日が暮れる前の四時ごろに目的地であるヨツン村に到着することが出来た。村は北と西を木の柵で囲っていたが、魔物対策としては不十分であった。村では交易品として持ってきた小麦や鉄製品を売却する。これらはナイジェルの判断によるものであった。彼は幾度かこの村を訪れているため、必要なものがわかるのだろう。
その日は宿泊場所として与えられた一軒家で過ごすこととした。ソーマは夕食に村長を招き、途中で手に入れたオークを一体提供すると共に、ニーニクについて話を聞いた。やはり、香辛料として認識されていないようであった。商会としても、継続的に購入する旨を伝え、提供してくれるよう交渉する。村長は最初は不信そうな顔をしていたが、明日の昼食に来てくれれば判るだろう、と説明するに留めた。言葉よりも実物を見て味わってもらうほうが良いと考えたのである。
そうして、翌日の昼食はジャンピングラビット肉のステーキで、提供されたニーニク、持ち込んだトーガシをふんだんにつかってみせた。野菜炒めにもトーガシとニーニクをたっぷり使ってみた。その料理はソーマ以外の誰もが初めて食するものであったはずだが、評判は良かった。ニーニクの出荷準備には二日ほどかかるはずなので、その間にソーマは<サムライ>メンバーで台地の西と北を巡り、可能な限りのことをしてみせた。
それは北側では延長五百mで高さ三mほどの土を盛った壁を作成し、その外側は深さがニmの堀としてみせた。中級土メイジのソーマにとってはさほどの負担ではなかった。西側も同じようにしていったが、途中で門を作る。これらは同行した村長の目の前でやってみせている。防壁としては不十分であろうが、これまでに比べれば多少なりとも安全になると思われた。
後は管理をしっかりとして土壁の上に土を盛り続ければより安全性が増すと思われた。ちなみに、ソーマが土を盛ったのは、北側が五百mほど、西側が三百mほどこれまでの木柵よりも外側に造られている。なぜなら、ちょうどその部分に北東から南西に向かう小高い丘があったからである。
「でも、なぜ土壁なのです? 石壁のほうが強度はあるし、長持ちするのでは?」
魔法使いのローズが尋ねる。
「他の人はどうか判らないけど、僕の場合、土を石に変えたり、土を岩に変えた場合、魔力消費が多いのです。今回土壁だから短時間でできたけれど、石壁だと十日くらいかかるよ」
「そうなんですか?」
「うん、だから、魔力消費を抑えるためにも土壁にしたんです」
通常、土属性の魔法使いの場合、土を石に変えても魔力消費は倍程度といわれるが、ソーマの場合、四倍近くなるようである。そのため、彼は土壁に硬化をかけることで強度を少しでも上げていたのであろう。
ソーマとしては、慈善事業で行ったのではなく、ニーニクを安価な価格で継続的に独占提供してもらうための交換条件であった。それはリント村でも同様だった。ただ、もう一つの目的としては、南の森の異変がこの村に及ぶのを少しでも避けたかったという意味もある。商会としては大事な商品仕入先であり、それがなくなるのは利益の減少を意味すると考えたためである。
そうして、翌々日、予定よりも一日長く、滞在し、現状で手に入れられるニーニクを馬車に積み、ニュルンへと向かった。帰路も魔物の襲撃はあったが、行きと同じく、素材の剥ぎ取りは行わないものとして対応したため、それほど苦労もなく、ニュルンの街に帰り着くことが出来たのである。




