獣と王宮6
(ザクスの、親戚…)
言われてみれば、似てる…気がする。
整った顔のパーツが多分全体的に、似てる。
正直、ザクスも、ネトリウスと名乗った青年も、美形過ぎて、いまいち特徴がないから、似てるのかよく分からない。
美形も極めると、皆同じに見えるのだな、と実感する。まあ、元々葉菜は人の顔を覚えるのが苦手だから、葉菜の顔認識能力が乏しいのかもしれないが。
(同じ美形でも、レアルは別格だ。あれは人間離れした異形に近い美形だ……いや、葉菜の予想が正しければ元々人間でないかもしれないが)
ただ、身に纏う色は、ザクスとネトリウスは対称的だ。
ザクスが持つ色は漆黒。瞳も髪も、光の加減でさえ色を変えない、混じりけのない闇の色だ。
反して、ネトリウスの色は鮮やかだ。太陽の光を思い出させる、柔らかそうな金色の髪に、晴天の空の色の瞳。
おとぎ話の勇者と魔王を想像したら、きっと二人とよく似た色合いになるのではないのだろうか。当然ネトリウスが勇者、ザクスが魔王のポジションで。
魔王の姿のザクスを想像したら、はまり過ぎていて、内心吹き出す。
どこまでも悪役が似合う男だ。
「――落ち着かれたようですね、魔獣様」
(ちょ、近ー!!距離が近ぇよ!!この美形)
息がかかるほど間近で発せられた声に、葉菜は思わず後ずさる。
しかし葉菜が離れた分だけネトリウスは、距離を詰めてくる。
美形のドアップ。
本来なら眼福な筈のそれが、ひたすら葉菜をぞわぞわ嫌な気分にさせるのはなぜだろうか。
ネトリウスの表情が熱を孕んだ、恍惚としたものになっているせいか。なぜ、この場面でこんな表情になるのだ。
「少し惜しいな…先程までは貴方様の魔力を全身で感じられたのに…あぁ、でもまだまだ芳しい魔力の香りが貴方様を包んでいる……強大で、とても美しい魔力だ」
(ぎゃあ!!にお、匂うなあ!!気色悪い!!)
ネトリウスは、葉菜の首筋辺りに顔を埋めてすんすんと体臭を嗅いできた。
全身の毛がさがだち、尻尾が膨らむ。毛皮の下では、恐らく鳥肌がたっているのではないだろうか。
葉菜が固まっていることを良いことに、ネトリウスは葉菜の体に手を這わしてくる。その手つきがなんだかいやらしい。獣を撫でる手つきでない。
(も、もしやこいつは単なる動物フェチではなく、獣姦マニアか!?)
まさか、獣になってからセクシャルなハラスメントに近いもの(ザクスのお風呂も見方次第では十分セクハラだが、あれとは次元が違う)を受けるとは想定していなかった葉菜は混乱する。
そんな変態かいるとは考えたこともなかった。
ただひたすら、ネトリウスが怖い。
「あぁ、貴方様を抱き締めていいだろうか。また貴方様の魔力に包まれたい。貴方様の魔力に耽溺したい。許して下さいますよね?」
「――俺の従獣にちょっかい出すのは、それくらいにしてもらおうか。『魔力狂い』」
(ザ、ザクス~っ!!)
割って入ってきたザクスの言葉に葉菜は表情を輝かせる。
変態から、早く助けて欲しい。
思わず安堵で涙と鼻水が滲んできた。
「――『魔力狂い』とは失礼ですね。ザクス様」
一方でネトリウスは、眉をひそめて、心外だとでもいうように声をあげる。
「私は魔力の純粋な信望者です。敬虔な崇拝者です。強大な魔力を持つものは、老若男女、種族を問わず、崇拝しかしづくべきだ。それはグレアマギ帝国に生まれたものなら、持って当然の心理でしょう」
「お前の場合は、その崇拝加減が常軌を逸しているんだっ!!」
「仕方ないでしょう…ずっと焦がれていた『魔獣』様が、こんな近くにいるのですから」
そう言ってネトリウスは、葉菜に視線を戻して、うっとりと表情を緩ませた。
「ずっとずっと焦がれ、憧れておりました。魔獣様…グレアマギ帝国の、否、この世界の人間の中で私以上の魔力を有するものは、現段階では判明しておりません。もしいるならば、『招かれざる客人』様か、魔獣様しかいないと思っておりました。そして今、私は貴方様の魔力の大きさを肌で感じることが出来た。かくも幸せなことは私の人生の中ではじめてです」
熱を孕んだ、甘い声で、葉菜にそう囁いた。




