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異界山月記 ‐社会不適合女が異世界トリップして獣になりました‐   作者: 空飛ぶひよこ
第三章

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獣と王宮6

(ザクスの、親戚…)


 言われてみれば、似てる…気がする。

 整った顔のパーツが多分全体的に、似てる。

 正直、ザクスも、ネトリウスと名乗った青年も、美形過ぎて、いまいち特徴がないから、似てるのかよく分からない。

 美形も極めると、皆同じに見えるのだな、と実感する。まあ、元々葉菜は人の顔を覚えるのが苦手だから、葉菜の顔認識能力が乏しいのかもしれないが。

(同じ美形でも、レアルは別格だ。あれは人間離れした異形に近い美形だ……いや、葉菜の予想が正しければ元々人間でないかもしれないが)


 ただ、身に纏う色は、ザクスとネトリウスは対称的だ。

 ザクスが持つ色は漆黒。瞳も髪も、光の加減でさえ色を変えない、混じりけのない闇の色だ。

 反して、ネトリウスの色は鮮やかだ。太陽の光を思い出させる、柔らかそうな金色の髪に、晴天の空の色の瞳。


 おとぎ話の勇者と魔王を想像したら、きっと二人とよく似た色合いになるのではないのだろうか。当然ネトリウスが勇者、ザクスが魔王のポジションで。

 魔王の姿のザクスを想像したら、はまり過ぎていて、内心吹き出す。

 どこまでも悪役が似合う男だ。


「――落ち着かれたようですね、魔獣様」


(ちょ、近ー!!距離が近ぇよ!!この美形)


 息がかかるほど間近で発せられた声に、葉菜は思わず後ずさる。

 しかし葉菜が離れた分だけネトリウスは、距離を詰めてくる。

 美形のドアップ。

 本来なら眼福な筈のそれが、ひたすら葉菜をぞわぞわ嫌な気分にさせるのはなぜだろうか。

 ネトリウスの表情が熱を孕んだ、恍惚としたものになっているせいか。なぜ、この場面でこんな表情になるのだ。

 

「少し惜しいな…先程までは貴方様の魔力を全身で感じられたのに…あぁ、でもまだまだ芳しい魔力の香りが貴方様を包んでいる……強大で、とても美しい魔力だ」


(ぎゃあ!!にお、匂うなあ!!気色悪い!!)


 ネトリウスは、葉菜の首筋辺りに顔を埋めてすんすんと体臭を嗅いできた。

 全身の毛がさがだち、尻尾が膨らむ。毛皮の下では、恐らく鳥肌がたっているのではないだろうか。

 葉菜が固まっていることを良いことに、ネトリウスは葉菜の体に手を這わしてくる。その手つきがなんだかいやらしい。獣を撫でる手つきでない。


(も、もしやこいつは単なる動物フェチではなく、獣姦マニアか!?)


 まさか、獣になってからセクシャルなハラスメントに近いもの(ザクスのお風呂も見方次第では十分セクハラだが、あれとは次元が違う)を受けるとは想定していなかった葉菜は混乱する。

 そんな変態かいるとは考えたこともなかった。

 ただひたすら、ネトリウスが怖い。


「あぁ、貴方様を抱き締めていいだろうか。また貴方様の魔力に包まれたい。貴方様の魔力に耽溺したい。許して下さいますよね?」


「――俺の従獣にちょっかい出すのは、それくらいにしてもらおうか。『魔力狂い』」


(ザ、ザクス~っ!!)


 割って入ってきたザクスの言葉に葉菜は表情を輝かせる。

 変態から、早く助けて欲しい。

 思わず安堵で涙と鼻水が滲んできた。


「――『魔力狂い』とは失礼ですね。ザクス様」


 一方でネトリウスは、眉をひそめて、心外だとでもいうように声をあげる。



「私は魔力の純粋な信望者です。敬虔な崇拝者です。強大な魔力を持つものは、老若男女、種族を問わず、崇拝しかしづくべきだ。それはグレアマギ帝国に生まれたものなら、持って当然の心理でしょう」


「お前の場合は、その崇拝加減が常軌を逸しているんだっ!!」


「仕方ないでしょう…ずっと焦がれていた『魔獣』様が、こんな近くにいるのですから」


 そう言ってネトリウスは、葉菜に視線を戻して、うっとりと表情を緩ませた。


「ずっとずっと焦がれ、憧れておりました。魔獣様…グレアマギ帝国の、否、この世界の人間の中で私以上の魔力を有するものは、現段階では判明しておりません。もしいるならば、『招かれざる客人』様か、魔獣様しかいないと思っておりました。そして今、私は貴方様の魔力の大きさを肌で感じることが出来た。かくも幸せなことは私の人生の中ではじめてです」


 熱を孕んだ、甘い声で、葉菜にそう囁いた。





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