社会不適合女とサバイバル2
拍子抜けするくらい簡単に、とまでいかなくとも、川は一時間も歩けば見つかった。
基本的にネガティブ思考な故に、何日も見つからない想像にとらわれていたため、ひとまずホッとする。最低限のライフラインは確保できた。
幅20メートルほどはあるだろうか。
深さは子供の膝たけくらいしかなく、澄んだ水は底の砂利が透けている。
(――生水は良くないっていうけども。)
煮沸するための道具も、火もない。その辺りは腹をくくるしかないだろう。
恐る恐る両手で掬って水を口につける。
水のうまさなど良く分からない葉菜だが、清涼で甘い気がする。
一口飲んだとたん、たまらない渇きを思いだし、勢いよく水を飲む。まどろっこしさを感じつつ、何度も水を掬って飲みこむが、すぐにむせ混んだ。
変なところに入った。
「……鼻に入っだ」
涙と鼻水よだれを手で拭いて、川で手を洗った。ついでに顔も洗う。
水は偉大だ。
ひとしきり渇きを潤し、落ちついたあと、じっと澄んだ川の流れを眺める。
きっとこの川には魚がいるだろう。とってみようか。
いや、水浴びが良いかも知れない。
別に何日か風呂に入らなくても死なないが、衛生面が悪くて病気になったら恐ろしい。
そんな考えが浮かぶが、やめておくことにした。
ここは水場だ。水がライフラインなのは、葉菜だけではない。
視線を移すと、数十メートル先に某巨匠アニメで見たような猪のような生き物と、カラフルな鹿のような生き物が葉菜と同じように水を飲んでいるのが 見えた。幸い襲ってくる様子も見えないが、これから来る動物も同じだとは限らない。
それに、肉食獣にとって水場は狩り場だ。けして安全な場所ではない。
後ろ髪を引かれるような思いで葉菜は川辺から遠ざかった。万が一のため、太陽の向きで方角を確認しておく。この世界も太陽は東から西に昇るのは分からないが、このくらいの時間帯にどっち側にあるか確認すれば大丈夫だ。
幸い、出勤時に来ていたスーツのポケットにはメモとボールペンは入っていた。(残念ながら、鞄は駅の階段落下時に紛失。ポケットの他の中身はぐちゃぐちゃのレシートと食べたあとの飴の袋のみだった。)
メモに詳しい情報を印すと、駄目押しに木の小枝を等間隔におって遠ざかりながら、川の流れと平行になるように進む。
(期待しすぎは良くないけど、ー…)
顔がにやけるのがわかった。
川がライフラインになるのは、狩り場が大事なのは動物だけではない。
もし、人間がこの森に住むとしたら、どこに住まいを作るだろうか。
(――川に歩いて行ける距離だよな。多分)
川を平行して下っていけば、人間と遭遇できるかも知れない。
そんな明るい期待が、葉菜の足取りを軽くした。




