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異界山月記 ‐社会不適合女が異世界トリップして獣になりました‐   作者: 空飛ぶひよこ
第三章

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獣の成長2

 突然のことに反応しきれなかったザクスは、葉菜の突進に咄嗟に反応が出来ずそのまま地面に倒れこんだ。

 ザクスが起き上がる隙を与えず、葉菜はザクスの上にのしかかる。


(う~む。14歳の美少年を押し倒す24歳。犯罪だな)


 もし自分が人間の状態だったらなかなか危ない光景だが、今の葉菜は獣なんで問題がない。

 というか、自分が人間の状態でも、思春期の少年には年上のお姉さんに押し倒されるのはご褒美だ。ご褒美だということにしとこう。

 なんせそれが犯罪なら、今から葉菜がやろうとしている行為はさらに重いわいせつ罪になってしまう。


(獣なんだから、獣らしく喜びは表してやらんとな)


 葉菜の不穏な空気を察したのか顔を引きつかせるザクスに、葉菜はにんまり笑う。

 そして、そのままザクスの顔を舐めまわし始めた。


「っ…アホ猫!!何を!!」


(聞こえません~。私は今喜びに浮かれて、そのパッションをザクスに分け与えようと夢中なんです~)


 本当はくすぐり攻撃程度で済ませたいところだが、なんせ葉菜の手は肉球がついた獣の手。

 繊細な動きなど出来るはずがない。ならば舐めるしかないだろう。

 舌であちこち体を舐めるというととてもやらしい行為に思えるかもしれないが、それをいったら定期的にザクスの下手くそな手で(いつまでたっても上達せず、毛に被害がくるのでいい加減やめてほしい)体を洗われている自分はなんだ。

 それに一度舐めてみると、体が慣れた行為のように自然に動く。獣としての性が働いているのだろう。

 何となく、ザクスがくすぐりに弱そうなポイントを狙って集中的に舌を動かす。


「っ…くは…でぶ猫…やめっ…」


(ここかい?ここが弱いのかい?)


 ザクスの発する声と、葉菜の内心の声が、やらしい感じがするのは気のせいだ。気のせいだということにしておこう。セクハラは犯罪だ。

 葉菜が首筋を舐めた時、ザクスがびくりと体を跳ねさせた。どうやらかなり弱い部分だったらしい。

 面白いので、集中的にそこを狙うことにする。


「おま…くははは…そこ、やめろ…はははは」


(おや)


 葉菜の舐め回し攻撃に耐えられなくなったザクスが笑い出した。

 うっすら涙を浮かべて、耐えきれなくて漏らしたその笑みは、いつもの底意地が悪そうな笑みとは違う。

 14歳相応か、もしかしたら年齢よりも幼いひどく無邪気な笑みだった。


(おやまー。らしくなく可愛いじゃないの)


 いつものザクスの自信に満ちた笑みも嫌いではない。だけど、いつもの笑みはどこか肩肘を張っているような、武装じみた雰囲気も感じる。

 今ザクスが浮かべている笑みこそ、武装を取り払ったザクスの素のままの笑みなのではないか。

 そう考えるとその笑みをもっと見たくなった。


 しかしこれ以上葉菜の暴挙を許すザクスではない。


「…んがっっ!!」


「……調子に乗るなよ…アホデブ猫が…」


 思い切り腹を蹴飛ばされ、痛みに飛び跳ねた葉菜の下から脱出したザクスが、地を這うような低い声で言い放つ。

 怒髪天を突くとはこのことか。

 完全に怒っている。

 たらりと冷や汗が葉菜の頬を伝った。


(三十六計、逃げるにしかず!!)


 葉菜はコントロールを習得した魔法をさっそく使って、足止めようの火を地面に放ち逃走を試みるも、いつのまにかイブムを抜剣したザクスに即座に魔法を無効化される。

 ならば身体強化を、と思ったが、葉菜は未だ魔法の切り替えがスムーズにできない。

 魔法が発動する前に、ザクスにエネゲクの輪を掴まれ首が絞められた。


「…あの、ザクスさん?」


「なんだ?」


 ザクスはにっこりと笑みを浮かべていた。

 いつもの笑みとは違う。

 だが、先程までの無邪気の笑みとも当然違う。

 目が座った、怒りの笑みだ。


「私、頑張った。魔力コントロール習得、した。ご褒美。怒らないことで、いい」

 

「…そうだな。コントロールをした褒美をやらないとな」


 そう言って、ザクスはいい笑顔で拳を握った。


「とりあえず、拳骨でいいな?」


 葉菜の悲鳴が後宮に響いた。





 いつか。

 いつか、ザクスに自分の正体を告げるときが来たら。

 ザクスに正体を告げても大丈夫だと確信できるくらい、しっかりとした「絆」を結べる時が来たら。

 ザクスは、あんな無邪気な笑みを自分に向けてくれるだろうか。

 ザクスが素の自分を曝け出せるような存在になれるだろうか。

 

 そうなって欲しいと、そんな時が来てほしいと、そう心から思った。 


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