獣とツンデレ4
「1000分の1!?」
「聞いてねぇのか?魔力袋がねぇ奴は、器官の限界がねぇ分、異常なくらい魔力量多いっつー話は。魔力量にもよるが、グレアマギの一般人なら今の魔力の放出で20分の1くらいは魔力が無くなるとこだな」
聞いていた。
聞いてはいたが、現時点で葉菜自身では使えない無駄なチートなんで頭から抜けていた。
それに多いとだけ言われても、数字で表されたわけではなかったので、実際どれほどのものか実感が沸いていなかったのだ。
(一般的に20分の1だとすると、1000割る20で……単純に考えても普通の人の50倍は魔力量がある!?)
脳内で計算した途端、尻尾と耳がピンと立ち上がった。
つまり、葉菜は魔法が使える一般人50人分の力を持っているというのだ。
(……もし魔力コントロールが出来たら、結構なチートだよな。)
葉菜は沸き上がってきた唾を呑み込んだ。
魔力袋がないと知った時に一度諦めたはずの甘い期待が、再び甦ってくる。
魔力コントロールの習得が、現実に出来うるかもしれないという今、その期待はより鮮やかなものへとなっても仕方ないだろう。
(魔力コントロールが身につけば、私もチート…特別な存在に…)
「…聞かなくても何考えてるか分かる阿呆面してやがるが、てめぇ魔力コントロール舐めてると死ぬぞ」
「え゛」
呆れたように客人から発せられた言葉が、葉菜を陶酔から引き戻した。
「魔力が強ければ強ぇほど、その調整は難しくなる。限界が分からねぇから魔力が強ぇ奴は、大抵が魔力を放出し過ぎやがる。魔力袋を持っていてなお、自身を過信して魔力を放出して、枯渇する前に吹っ飛んだまぬけは吐いて捨てるほどいるぞ。魔力袋がねぇてめぇはなおのことだ」
「で、でも、魔力コントロールを失敗する、けれど、回復魔法、ある」
万が一魔力を暴走させても、残りの魔力をもってして回復できれば問題ないのだろうか。
RPGの世界では、回復魔法や蘇生魔法は同じみだ。
どんな死にかけの、否、死んだ人間ですら体片すらあれば後遺症もなく甦らせる魔法。
流石に死んだ人間の復活はあまりにゲームの世界観より過ぎるかもしれないが、魔法が普通に存在する世界なら、瀕死の人間を回復させるくらいは簡単なのではないか。
「回復や蘇生は神力の領分だ。魔力では、結界を貼って攻撃や害意を持つ人間を弾くことは出来ても、損傷したものを元に戻すことは出来ない」
客人は、そんな葉菜の期待を、バッサリと切り捨てた。
「魔力で、回復、出来ない…?」
「あぁ。正しくは、『特別な一種族を覗いた』全ての生物が、魔力による回復は出来ねぇっつった方が正しいな。ほとんどの魔力が、回復のみに特化した種族がいるにはいる。だが、その種族を除いて、魔力による回復魔法を使った事例を俺は知らねぇ」
淡々と告げられた言葉に、葉菜は体を震わせた。
魔法があるならば、傷付いた体を癒す魔法もあるのだと、当然のように思っていた。うっかり死にかけることがあっても、闘いに巻き込まれても、死なない限りは自分ほど魔力があれば何とかなると、最悪誰か回復魔法の持ち主に助けて貰えるのだろう。そんな風に軽く考えていた。
まるで死んでも、教会でお金を払えば生き返らせて貰えるかのような感覚で。
瀕死の状態になっても、呪文一つで簡単に全てダメージを消し去ることが出来るかのように思っていた。
そう、葉菜はオンオフ程度の魔法しか行使出来ないが故に、分かっていなかったのだ。
魔法を使うという行為が、行使者にとってどれほどの危険を伴うことなのかを。
魔力は凶器であり、行使する人間にとっても諸刃の剣であることを。
分からないまま、ただ欲しいという感情に身を任せて、魔力コントロールの習得を求めた。
魔力を行使することが、自分にどんな悪影響を与えるのかなど、ちらとも考えることもなく。




