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異界山月記 ‐社会不適合女が異世界トリップして獣になりました‐   作者: 空飛ぶひよこ
第三章

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獣とツンデレ2

 いつものように、意識を集中させて炎をイメージする。そうすると、空中に火の玉が浮かびあがる。ここまでは簡単だ。いつでも自然に出来るようになった。

 問題は次だ。

 葉菜は炎がさらに勢いをまして燃え上がる様を頭に描く。頬に伝わってくる強くなった炎から発される熱や、飛び散る火の粉まで、細部に渡ってまで鮮明にイメージ出来る。

 だが、実際の炎はちらとも変化しない。

 客人はそんな葉菜のさまを、瞳に先程の光を宿しながら黙って眺めていた。


「……放出される魔力量が全く変わってねぇ」


「え?」


「もういい。だいたい原因が分かった。取り敢えずいったん火ぃ消せ」


 あれほど葉菜が熟考しても分からなかったものを、魔力が見えるとはいえ、こんな短期間観察しただけで分かるのだろうか。

 少々憮然とした気分になりながらも、犬を追い払うように手を振る客人の言葉に従って火を消す。


「あぁ、なんだ。本当に自分の意志で火消せんだな」


「っ!?そう言った!!」


「実際見るまでは信じられねぇだろうが。今まで魔力袋なしで、魔法を使った奴はいねぇんたから」


 疑いはもっともだとは思うが、葉菜としては自分の言葉が信用されなかったようで、非常に面白くない。


(もしかして、本当は何も分かってないけど、火を消せるか確かめるだけに魔法を中断させたんじゃねーだろーな)


 葉菜は少々やさぐれた気持ちで客人を睨むが、客人はそんな葉菜を気にする様子もない。



「てめぇ、さっき魔力コントロールをしようとした時、何を考えた」


「え…炎、大きく変わる様子」


「あほが」


 必死に考えていたイメージを、ばっさり切り捨てられ、カチンとくる。眉間の辺りに皺がより、口元がひくついた。


(落ち着け、私。相手はツンデレだ。生意気なのがデフォなんだ。そしてこれから自分に魔力コントロールを教えてくれることでデレようとしているんだ)


 自分にそう言い聞かせて、沸き上がる怒りを耐える。

 自分もなかなか大人になったものだ。



「そんなイメージだけじゃ足りねぇよ。てめぇがねぇのは魔力袋なんだから」


「…どういう、意味?」


「てめぇは魔力袋がどんな器官だと思う?」


 客人の問い掛けに葉菜のは、ウイフから教えられた知識が詰まった自分の脳内の引き出しを漁る。



「魔力を、調整する器官。魔力を貯めて、必要に応じて、必要なだけ魔力を出すようにする。枯渇、ないようにして」


「そうだ。…で、てめぇがイメージしたのは単に火を変化させる様だけなんだよな」


 客人は片眉をあげて、腕組みをした。


「保有魔力の全体量も、魔力調整に必要な魔力量も、どれくらいの残量になれば魔力が枯渇すんのかのもイメージ出来ねぇで、イメージが魔力袋の代わりになるかよ」


「……あ」


 目から鱗が落ちる思いだった。

 言われてみれば、確かにその通りだ。

 魔力袋は脳から命令を受けて、魔力を調整する器官だ。

 魔力袋の破損を補うなら、魔力袋の働きに対するイメージも加えてしなければならないのは、自然だ。


(…ちょっと待て)


「…魔力コントロールするには、体内の魔力の動き、イメージする?」


「まあ、憶測だがな。多分それで間違っちゃいねぇだろう」


「それ、火のイメージと一緒に?」


「一緒にしねぇでどうすんだ。じゃなきゃ何の魔法に対して魔力使うかわかんねぇだろうが」


 つまり、葉菜が魔力コントロールするには、魔力行使の過程である体内の魔力の動きと、その魔力行使の結果どうなるのかを同時にイメージしなければならないのだ。

 しかも、両方と鮮明なイメージでもって。


(それってめちゃくちゃ難しくねーか?)


 やっと見つけた、魔力コントロールの突破口。

 だがそのハードルのあまりの高さに、葉菜は項垂れた。

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