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異界山月記 ‐社会不適合女が異世界トリップして獣になりました‐   作者: 空飛ぶひよこ
第三章

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獣と壁1

 竈の中にいれた木に種火となる火をつけて、その火が燃え広がる様をただ観察する。

 

 焔を見る。

 

 どのように木を燃やすのか。

 勢いを増していくのか。

 空気の流れで動くのか。

 煙は上がるのか。

 そして消えていくのか。

 

 

 光で目かしばしばしたり、煙や煤で咳き込んだりしながらも、何度も火をつけては消えていくまでを、時間が許すかぎりひたすら観察した。

 目が限界になると目を瞑って休みながら、先程まで見ていた情景を脳裏に再現する。ついでに肌に感じる熱気を意識して、視覚以外の焔の情報をイメージに付与する。

 

 イメージは回数を重ねれば重なるほど、鮮明な現実的なものへと変わっていった。

 

 葉菜は何日か訓練を繰り返した後で、一種のトランス状態のような感覚を得た。

 自分が魔法によって出した炎と一体化し、意識がままに操れるかのようなそんな感覚を。

 炎が葉菜が思ったとおりに自在に勢いを変えていく様を、脳裏に現実のもののように、ありありと描き出すことができる。

 

 ――自分は今、火の魔法の魔力コントロールを習得したのだ。

 

 

 そんな確信が、葉菜の中に生まれた。

 

 

 

(なーのーに、なぜ、出来ぬ!!)

 

 葉菜は苛立ちに任せて、目の前にある木柱を爪でかきむしった。

 リテマが用意してくれた、葉菜の爪研ぎようの特注な柱だ。滑らかな質感の木で、爪を研いだあとの箇所がささくれだって葉菜の手を傷付けることがないという、素晴らしい品である。きっとかなりの値段がする。

 葉菜の爪はなかなか鋭利で、殺傷能力が高い為、一回で駄目になってしまうのが実に惜しい。

 

(……あ、このあいだリテマさんが用意してくれた巨大猫じゃらしも、先がフワフワモフモフの素晴らしい逸品だったな~。使ってくれたのがリテマさんでなくて、ザクスだったのが屈辱だったけど)

 

 葉菜はせっかく用意してくれたのに、捕まえた瞬間爪でボロボロにしてしまった特注玩具に思いを馳せた。

 葉菜の爪にかかって壊れるまではあっという間だったが、実はかなり遊んだ。何故なら、猫じゃらしを使う相手が大人げないザクスだったから。

 ザクスは剣聖だか何だか讃えられる素晴らしい身体能力の持ち主の癖に、一切手加減なく俊敏に猫じゃらしを操り、捉えようとする葉菜の手から回避させてきた。葉菜がうっかり身体強化を使う度、猫じゃらしで葉菜の横っつらを思いっきりはたくというオマケ付きで。

 訓練のせいかは分からないが、なんとか身体強化を勝手に発動させないことは出来るようになっていた葉菜は、自身の実力である乏し過ぎる運動神経を持ってして、ザクスに挑んだ。

 何十回めかのトライで、ようやく猫じゃらしを捕まえられたのたが、それも奇跡に近かったと思う。

 

(――思考が逸れた)

 

 今はそんなことより、火の魔法の魔力コントロールのことである。

 

 葉菜は魔法で発動させた火を、自分の意思で自由に消すことは出来るようになった。

 これだけでも、イメージトレーニングの成果はあったとはいえる。自分はよく頑張った。自分で自分を全力で誉めてやりたい。

 だけど、いくらイメージしても炎の勢いや動きを操ることは出来ない。炎の動きは、もしかしたら風魔法も必要かもしれないからまあ良いとして、炎の勢いを操れないのは解せない。

 もしかしたら酸素を付与するという意味でそれもまた風魔法の範囲なのかと疑い、さりげなくウイフに質問してしてみたが、火の大きさを操るのは完全に火魔法の範囲らしい。

 

 あれだけ頑張って魔力コントロールの訓練を行ったのにも関わらず、成果は何処でもライター(オイル入らずで火がつけられます。火の玉状にして空中に浮かべることもできる優れもの)に、いつでもついた火を消せるという安全装置がついただけである。

 絶対に火事が起こらないというのは、安全面からはかなり素晴らしい能力だが、魔力コントロールという点では、微妙である。

 スイッチのように魔法のオン、オフの切り換えが出来るようになっただけだ。


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