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異界山月記 ‐社会不適合女が異世界トリップして獣になりました‐   作者: 空飛ぶひよこ
第三章

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獣と魔力コントロール9

 葉菜は基本的に単純な人間である。

 考えるのが苦手で、気が向くまま、本能が赴くままに気楽に生きていたいと思うし、実際それが行動にも表れているように思う。

 ケセラ・セラ。なるようになる。

 そんな言葉を言い訳に、適当に生きてきた。

 そんな葉菜が物事を複雑に、熱心に考える時は、たいていが自己保身の言い訳の為であることが多い。

 葉菜は自分が傷付かない為の心のあり方を必死に考え、考え抜く。その為の労力は惜しまない。

 最終的に疲れて、考えたという事実を免罪符に、全てを放り投げて頭のすみに追いやり、忘れるのだが、それは取り合えず置いておく。

 

 さて、葉菜は自分が脳に魔力が集中しているが故に、「仮説」であると繰り返し述べた。間違いかもしれないと、それが正しいか分からないと、そう考えていた。

 しかしこれは実際のところ、万が一「仮説」が外れた場合、自分が受けるショックを少なくする為の、自身への保険に過ぎなかった。

 ネガティブなくせに、単純で都合が良い時だけ楽観的になる葉菜は、ウイフの言葉を聞いた時に、本当は確信していたのである。

 

(幸運にも自分は脳に魔力が集中しているという特質を持っているのだから、他の異世界人と違って魔力コントロールを習得出来るのだ。そうに決まっている)

 

 そして、こうも思っていた。

 

(魔力コントロールの為にイメージトレーニングなんて、簡単だ。自分はさほど努力しないでも、魔力コントロールを習得出来るのだ)

 

 

 つまりは舐めていたのである。

 

 自分でも、流石に短絡的過ぎる、楽観的過ぎると分かっていた為、失敗する可能性をつとめて考えていたが、一度絶望から回復した反動で葉菜は浮かれきっていた。

 真相心理と云うべきか。本音と云うべきか。勝手に浮かんでくる考えを、心底押さえ込むのは不可能である。

 元々自分にはとても甘い葉菜だ。そんな自分の考えを律することなんて出来るはずがない。

 

 だが世の中そんなに甘くない。

 

 脳内がお花畑と化している葉菜が、現実により残酷な洗礼を受けることになるのは、必然といえば必然であった。

 

 

 

(な・ぜ・出来ない~っ!!)

 

 葉菜は火の玉のように空中に静止して、風で火の粉を揺らしながら燃えている、自らの魔法で作り出した炎を睨み付けた。

 先程から、イメージによって炎の大きさを変化させようとしているのに、炎はただその場で燃えるばかりでちっとも変化は見られない。

 

 

 イメージは訓練次第で、より鮮明に思い描けるようになることを、葉菜は体験から知っている。

 葉菜が夢が自らの思い通りになる「明晰夢」にはまっていた当時、実は「前世療法」と呼ばれる、前世の記憶を甦らせることが出来る催眠術にも手を出していた。

 なかなかオカルトチックな趣味な為、自分でも当時の自分を思い返してしょっぱい気分になるが、それだけ辛い現実を抜け出して非現実的な出来事に浸りたかったのだろう。

 トリップ直前の自分はその矛先が携帯小説になっていただけで、逃避願望の表れだったという、根本的な部分では同じである。

 

 詳しいやり方は覚えていないが、葉菜が調べて実行した前世療法は確か、目をつぶって森を歩いているところをイメージすることからはじまった。

 言葉にしてみるとすごく簡単そうだが、実際行ってみると、実は結構難しい。

 

 木は、木の枝は、幹は、葉はどんな姿をしていたか。

 どんなふうに木漏れ日が射し込み、どんなふうに枝が揺れたか。

 歩く時自分はどんなふうに足を動かしていたのか、どんな風に土の感触を足裏で感じていたか。

 想像するのは、歩いている自分の姿じゃない。自分が歩いている様子だ。ならば、視界は限られてくる。

 頬に当たる風の感触はどんなものか。体に纏った服の感触は。

 景色はどんなふうに変わっていくのか。変わっていく景色に対して、自分はどんなアクションをするのか。

 

 想像は広げればきりがない。

 そのうえイメージ一つ一つが鮮明でよりリアルなものでなければ、違和感から意識がすぐに逸れて、現実へ引き戻されてしまうのだ。


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