獣と魔力コントロール7
自分が、初めて火の魔法と、身体強化を発動させた時の状況を思い出してみる
発動させたのは、異世界にきたばかりのサバイバルの時だ。とにかく、生きる為に必死だった。
極限状態が潜在能力を引き起こした。それは間違いない。
だけど、それはあくまで最初のきっかけだ。後から、好きな時に魔法を使える理由としては、薄い気がする。
(私は魔法を、『それを魔法だと認識しないまま』使用していた)
摩擦熱で、火がつけられる。
筋肉に力をいれれば、収縮しバネ作用が起きる。
葉菜の魔法は、そんな既に自明となっている物事がより容易に、より強力になったに過ぎない。
葉菜の魔法の前に、葉菜は元の世界で所有していた、自然原理が存在していた。
(つまりは固定観念こそが、魔力コントロールを、邪魔している?)
異世界人は元の世界の常識に縛られているからこそ、魔力コントロールが出来ないのだろうか。
そんな単純な問題で片付けられるのだろうか。
こんな、魔力だの神力だのが当たり前に存在する異世界に来た時点で、ある程度の常識は壊されてしまうだろうに。
「ウイフ…穢れた盾、魔力コントロールできた、一人もいない?」
「突然どうなさいました?史実として残っている限り、お一人もいらっしゃいませんね。魔法自体発動出来ず、ただありあまる魔力をもて余し、それを供給するものが殆どのようです。お二人ほど感情の暴走故に魔法を発動させたものはおりましたが、その直後に行使した魔法により滅んでおります。」
ウイフは、「なぜここで穢れた盾の話がでるのだ」と面食らった表情をしながらも、疑問にきちんと答えてくれた。
葉菜が異世界人だからこそ出た質問なのだが、ウイフはそんな葉菜の事情など知らないため、少し気になって、と適当に誤魔化す。
葉菜は考えをまとめる。
つまり、拙いながらも魔力コントロールが出来る自分は、異世界人の中でもイレギュラーな存在ということになる。
なぜ、自分が異世界人の中でも特別な性質を持っているのか。
「自分は特別な存在だから」なんて、寝惚けた想定はしまい。それは単なる願望で、また考えることそのものを放棄しているだけだ。所詮自分は神子のオマケの身。ただのフィルターだ。勘違いしてはいけない。期待するだけ、真実は見えなくなる。
物事には必ず理由があるはずだ。
自分が魔力を調整する器官を有していないのに、なぜか魔力コントロールが出来るという事実にも、きっと何らかの理由があるはずだ。
葉菜は脳内で、一つの仮説を立てた。
「異世界人、魔力袋ない。なら、魔力どこある?」
「異世界人の魔力が宿る場所、ですか…?」
ウイフは考えこむかのように、目を細めて宙を睨んだ。
「私の記憶にある限りだと明確にどの場所とは解明されておりませぬ。全身に行き渡っているだろうとは、言われていますが。分かっているのは、異世界人が魔力を対内中で移動させられること。また、対内で魔力が集中している場所は、個々によって偏りがあることくらいです」
「偏り?」
「はい。……少々お待ちください」
ウイフはいったん部屋を出ると、暫くして手に今にも風化しそうな、色褪せたぼろぼろの書物らしきものを持って戻ってきた。
「今から150年ほど前に宰相を務めたアルフトカル・ナタマフの書記でございます。彼は魔力感知能力に関しては、天賦の才を有しておりました。彼は他人の体内に内在する魔力の量やその流れを、色として見ることが出来た。そんな彼が、当時の招からざる客人の魔力を観た際の詳細が、ここに記載されております」
そう言いながら、ウイフは本を損なわないように、慎重な手つきで机の上にのせた書記をめくりだした。




