獣と魔力コントロール6
「――そういった人々は枯渇人と呼ばれております……魔獣殿?いかがなされました?」
葉菜が思考に浸っている間も、なお講釈を続けていたウイフが、葉菜の様子がおかしいのに気づき、講義を中断する。
葉菜はそんなウイフに(獣の顔なのでそんな細かい表情が伝わるかわからないが)力がない笑いを浮かべてみせた。
「話聞いて自信ない、なった。魔力コントロール、習得、きっと出来ない。」
「…っそんなことありません!!魔獣殿は必ず魔力コントロールを上達させられます!!」
(それはウイフが私が、異世界人だと知らないから)
真剣な表情で励ましてくれるウイフの気持ちは嬉しく思うが、完全に卑屈モードに入ってしまっている葉菜の心には本当の意味では届かない。
知らなければなんとでも言える。
自分の絶望なんか、きっとわからない。
そんな八つ当たりめいた気持ちを抱いてしまう。
そんな葉菜の気持ちを察したのか、ウイフは先程より強い調子で、葉菜にとって完全に予想外の言葉を投げかけた。
「魔獣殿が魔力コントロールを出来ないなんてありません!!既に限定的とはいえ、魔力コントロールをされているではないですか!!後はコントロールが出来る魔法の種類と、コントロールの精度をあげていくだけです!!」
「……え」
葉菜は耳を疑った。
(魔力コントロールが、出来ている?)
自分は根本的に魔力量を調整する器官を持っていないから、どんな些細なコントロールでも不可能な筈だ。
なのに、魔力コントロールが出来ているとはどういうことだろう。
そもそも、そんなものが出来た心当たりがないのだが。
唖然とした様子の葉菜に、ウイフは訝しげに眉を寄せた。
「…何を驚かれているんです?魔獣殿は小さいとはいえ、好きな時に火を出すことができるのでしょう?ザクス様から聞いていますぞ。魔力コントロールが全く出来ないのなら、自分の意思で魔法を展開すること自体不可能です」
「あ」
(ああぁぁーーーっ!!!!)
葉菜は目を大きく見開き、心の中で大きく叫んだ。
そうだ、自分は好きな時に火を出すことができるライター要らず能力を持っていた。体の根本からして違うという衝撃の事実のせいで、すっかり失念していた。
火力の調整こそ出来ないものの、魔法自体の発動率は100%だ。そんなに強い意識も必要なく、簡単に魔法を発動させられる。
(いや、よくよく考えれば身体強化も)
自分の意思で、体が勝手に行う身体強化を抑え込むことは出来ない。
だが、発動自体は簡単だ。足に力を入れて意識を集中させるだけだ。
ザクスと最初に対峙した時、自分は意識して身体強化を発動させていたではないか。
(もしかして、魔力コントロールには、魔力袋が必ずしも必要ではない?)
絶望的な状況に、光明が射した。
(考えろ。魔法の発動と、それ以外では何が違う?何がきっかけで、自分は魔法を行えている?)
葉菜は深く物事を考えるのが苦手だ。
考えてもどうしようもないことはごろごろしているし、考え抜いたところでそれほど状況が変わらないのではないかと思っている。
考えてもどうしようもないことを考えるのは、ただ疲れるだけだ。ならばさっさと思考を切り替えて、別のことを考えた方がいい。そう思ってしまう。
だから、嘆きも反省も続かない、いい加減な思考回路になっているのだ。
だけど、今。葉菜は考えなければ、どうしようもない状況に立たされている。
考えを放棄した瞬間、待っているのは暗い未来だけだ。そこに安寧はない。
葉菜は記憶力は良い方だ。学校の成績はずっと良かった。地頭は悪くないないのだ。応用をしたりといった考えることが、ただひたすら苦手なだけで。
葉菜はかつてないほど、脳みそをフル稼働させて考え込んだ。




