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異界山月記 ‐社会不適合女が異世界トリップして獣になりました‐   作者: 空飛ぶひよこ
第三章

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獣と魔力コントロール3

 葉菜は感涙にむせび泣きながら告げられたウイフの言葉に盛大に顔をひきつらせる。

 ここまで感動されると、もはや呆気に取られて罪悪感も感じない。

 リテマの時といい、後宮の使用人は皆大袈裟なのだろうか。はたまた、単なるザクス馬鹿か。

 他人に無関心そうなザクスの態度と、使用人のザクスへの想いにギャップがありすぎて戸惑う。

 

「……ザクス様を、宜しくお願いします」

 

 涙を拭いながら、真摯な瞳で見据えられ、どきりと心臓が跳ねた。

 

「私やリテマのような゛持たざるもの゛は、ザクス様の御心に添うことは出来ても、真の意味でザクス様を支え助けることは出来ませぬ。貴方、だけなのです。貴方だけが、ザクス様を救えるのです」

 

(゛持たざるもの゛…?)

 

  告げられた言葉を脳内で翻訳し、文字にすることは出来る。しかしそれでも、その言葉の意味を理解出来ない。

 ウイフやリテマが何を持っていないというのか。そしてそれは、尋ねても良いことなのだろうか。

 意味は理解出来ないが、途方もなく重たいものを託されたのは分かる。ザクスの一生に関わるような、そんな重い期待を。葉菜はいきなりのし掛かってきた重圧感にたじろく。

 

 自分が棄てられたくないから、それだけが魔力コントロールを習得する理由だった。認められ、誉めてもらいたいという単純な理由だったはずだ。

 それが、何故そんな重いものを任される話へと繋がるのだ。

 

「さて、ならば本格的に魔力の勉強をさせて頂きますぞ。魔獣殿。心の準備は宜しいですかな?」

 

 葉菜の困惑とはうらはらに、ウイフはすっかり気持ちを切り替えて教師モードに入っている。

 葉菜もそれに倣い、慌てて姿勢を正す。

 疑問や混乱は残るが、それはひとまず後回しだ。取り合えず今は、勉強に集中しよう。

 

「まずは魔力の根本に続いてご説明致します。先日、魔力はこの世界のあらゆる生き物に宿るとお話しました。覚えておりますかな?」

 

 葉菜はこくりと縦に首を振る。

 なんせ自身の衝撃のトリップ理由を知った講義だ。忘れたくても忘れられない。

 

「魔力は全ての生き物に宿っております。しかしプラゴドやナトアの国民は勿論、人間以外の生き物でも魔力を行使する生きものは、ごく僅かです。」

 

(んん?)

 

 葉菜は振った首を、そのまま横に傾けた。

 魔力を持っているのに行使しない。これはどういうことだろうか。

 他国民のように、主義主張があるなら自由意思によって使わないという選択もあるだろう。

 だが、そんな思想が関係ない生き物なら、絶対に使った方が生きやすい筈だ。実際葉菜の獣生活は、魔力便りだった。

 

「行使しないというか、出来ないのです。多くの生き物が持っている魔力の量は、生命維持の為の量程度しかありません」

 

「生命維持?」

 

「魔力の消費は、魔法の行使によるものだけではありませぬ。それが出来るのは、余剰の魔力がある、所有魔力が高い生き物だけ。多くの生き物は、ただ生命活動を行うだけで、体内に保有出来る魔力の多くを消費してしまうのです。」

 

 魔力=魔法の公式を、勝手に自明のものだと思っていた葉菜は、ウイフの言葉に口をぽかんと開く。

 ウイフはそんな葉菜の様子に、ふむと呟いて自身の長いあご髭を撫でた。

 

「まあ、これは他国の民ですら知らない話なので、魔獣殿が驚いても仕方ありますまい。魔力を信望するグレアマギの学者だからこそ、分かった話ではす」

 

  確かに魔力の存在を根本的に受け入れていないような、プラゴドやナトアの国民は、そんな説を話しても信じないだろう。話でしか二国のことを知らない葉菜でも容易に予想がつく。

 特にプラゴドは、「穢れた力」と考えている魔力が、自分達の生命活動を維持させているなんて知ったら屈辱に怒り狂うにちがいない。もしかしたら、聖女に至っては、そんな学説をあみだした学者を抹殺しようとするかもしれない。

 

 それくらい、以前ウイフから聞いた神聖国家プラゴドの人間は、「狂信的」な印象だった。祈りの力である「神力」を信望し、「神力」の為なら全てを捧げる、狂気にも似た盲目さ。

 神子の為のフィルター扱いをされたという怨みを置いといても、改めて今後あまり関わりたくない国だと再認識する。


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